【imidas】「ワシントン拡声器」とは何か 日米外交の背景②

「ワシントン拡声器」とは何か 日米外交の背景 ②

また、CSISはアジア太平洋地域における経済統合のためのセミナーも開催しており、そこにおいてJETROのCEOは基調講演の機会を得た。

こうした動きに、日本政府が直接に雇うロビイストの活動が加わることで、さらに大きな影響力が生まれる。日本政府はエイキン・ガンプ法律事務所にTPP推進を主とした貿易関係のロビー活動を委託し、彼らのロビイングにより2013年10月には連邦議会内にTPP議員連盟が創立された。CSISにて開催されたTPP推進のシンポジウムには、TPP議連の議長2人が登壇した。さらにはCSISの研究者が議会で日本政府の意向に沿った証言を行ったそうである。

つまり、ロビイストのエイキン・ガンプ法律事務所とシンクタンクのCSISは、日本政府がワシントンにおいてTPP推進の立場を広める機会を提供し、アメリカ政府や議会に対する影響力の行使を助けたのである。

なお、エイキン・ガンプ法律事務所は13年に日本政府から7600万円の報酬を受け取っている。CSISに対しても、日本政府はJETRO以外のルートをも通じて長期にわたって資金を直接提供してきた。日本政府からは5000万円以上の直接の寄付があったとCSISのウェブサイトに書かれているが、実際の寄付金額は明らかにされていない。

こうした事実があるにもかかわらず、日本の大手メディアは、アメリカのTPP推進議員の動きについては報道しても、その背景にある日本政府からの働きかけや資金の流れについては報じない。

日本企業もシンクタンクに寄付

日本政府と経団連、そして多くの日本企業が、ワシントンのシンクタンクに資金を提供している。その全貌は明らかではないが、例えば、全米シンクタンク・ランキングで7年連続1位となったブルッキングス研究所の外交政策プログラムに、日本政府は2010年に約7000ドル、13年に約26万ドルを提供した。また航空自衛隊が12年に約1万7000ドル、13年に2万5000ドルを提供している。また、CSISと同じく主要シンクタンクの一つであるカーネギー平和国際基金などにも、日本政府から継続的に資金提供がなされている。

企業もシンクタンクに多くの寄付を行っている。例えばブルッキングス研究所への寄付者リストには日立とトヨタ、野村財団、ANA、三菱、日経新聞、笹川財団、日立ファンデーションなどが、CSISに対してはNTT、日経新聞、伊藤忠商事、京セラ、三菱、経団連、住友商事、東京海上日動火災、東芝、トヨタなどが名前を並べている。

ワシントンにおける情報の偏り

これまで述べてきたようなワシントンの構造の結果、日本とアメリカの間で共有される情報が一面的になっている。

例えば、辺野古基地建設問題についてである。民主党の鳩山由紀夫政権のころ、鳩山政権の辺野古移設反対の姿勢に対してアメリカ政府が怒っているという言説が日本では広く流布されていた。当時、ワシントンのシンクタンクでは、この問題についてのシンポジウムが頻繁に開催されていた。ワシントンに住んでいた筆者は可能な限りこれらのシンポジウムに出席したが、出席した数十ものシンポジウムのうち、辺野古基地建設に異を唱える日本人スピーカーが登壇したものは、なんと一つしかなかった。

仮にも一国の首相が移設に反対しているのに、その声を代弁する者がいないのでは、明らかに「ワシントンで語られている日本」と「日本で語られている日本」がかけ離れていることになる。

実際には、ワシントンにも辺野古移設への反対意見は存在した。アーミテージ氏が「辺野古以外の選択肢の検討が必要だ」と述べるなど、少なくないアメリカ側の識者が別の案を提案していたのだ。アメリカ側から別案が必要との声が発せられているのに、日本側が辺野古案を主張している。この構造が私には驚きであり、新鮮でもあった。

外交にも民主主義を

筆者は、ワシントン在住生活の中で知ることになった日米外交のゆがみに疑問を抱き、その後、日米の外交システムを研究するようになった。また、既存の外交パイプが全く運ばない声をワシントンに伝えたいと、アメリカ議会へのロビー活動を行い、沖縄の方々などの訪米ロビーを企画し、それに同行してきた。

これは、外交も国の政策である以上、民主主義的な要素が反映されなければならないとの思いからである。
筆者は、日本政府などが日本のプレゼンスを高めるためにワシントンで働きかけを行うことに反対するものではない。アメリカ政治に的確に日本の声を反映させることは極めて重要である。

しかし、筆者が感じる違和感は、ワシントンで語られている日本がどうも私の知る日本ではないようだという点にあった。日本国内の多様な声が反映されていないのである。ブルッキングス研究所に所属していた岩下明裕教授(北海道大学)は「日本で流布している言説と、ワシントンで日本側が仕掛けていることの間に大きな隔たりが存在していることを痛感した」と述べている。政策決定の過程でアメリカからの影響力が大きな追い風となる日本において、その風が誰によって作られているのかを国民が知らされない現状は、民主主義に反しているのではないだろうか。

日々、多くの論点について様々な意見が出され、幅広い議論の中で落ち着きどころが見いだされていく。それが日本での議論の進められ方である。もちろん国内でもそれが不十分であることも多いが、しかし、ワシントンにおける「日本」は極めて一面的であり、そこでの深い議論の欠如は深刻である。

外交という舞台では、登場人物の数が国内の議論に比べて一気に2、3ケタ以上も減り、そのわずかな人々が大変大きな声を持つことになる。対日外交の政策決定過程に影響力をもつアメリカ側の人々の数は、筆者の調査によれば5人〜30人にすぎない。これでは外交チャンネルにおける情報源は限られ、情報も容易に選別されてしまう。しかし「外交」が取り扱う問題は非常に大きく、わずかな変化が甚大な影響を与えうる。少数の人々による現在の対日外交方針の決定について、コリン・パウエル国務長官の首席補佐官であったローレンス・ウィルカソン元大佐は筆者にこう語った。「簡単かつ効率的だが、可能性ある選択肢を全て検討しながら意義ある対話やディスカッションを行うことにならず、日本やアメリカの民主主義の発展のために望ましくない」。

現在の外交においては、既存の日米チャンネルの外に存在する意見が議論の俎上に載り、具体的な選択肢として検討される機会はほとんど存在せず、沖縄や福島を含め日本の一般の人々の声がワシントンに伝わることはほとんどない。