【週刊SPA! 11/22発売号】

「思いやり予算」の増額に応じなければ「米軍即時撤退」の暴挙に出るのか?

アメリカ次期大統領・トランプvs首相・安倍 日米同盟崩壊のシナリオ

「日本が攻撃されれば、アメリカは助けにいかなければならない。だが、我われが攻撃を受けても日本は助ける必要がない。日米安保条約は不公平だ!」

選挙期間中、こう鼻息荒く叫んでいたドナルド・トランプ氏が、来年1月に就任するアメリカの新大統領に選出された――。

「史上最大の番狂わせ」とも言われた今回の大統領選の結果を受け、全米各地で「反トランプ」を訴える大規模デモが拡大しているが、その蜂の巣をつついたような混乱は、当然、同盟国である日本にも波及している。

11月9日、トランプ氏勝利の一報を受けた安倍首相は、すかさず「できるだけ早い時期にトランプ氏に会って、日米同盟の重要性や意義について話をしなければならない」とコメント。翌10日にはトランプ氏に直接電話をかけ、ペルーで開かれるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)出席の際に訪米し、17日に初の「トップ会談」をおこなう約束を取り付けた。だが、このスピーディな対応は不安の表れとも見て取れる。

「(トランプ氏側とこれまで)関係が薄いという事実はあった。さまざまな人脈を辿って関係を模索した」

大統領選の当日、民放の選挙特番に出演した岸田文雄外相がこう話したように、日米同盟の根幹を揺るがすような暴言を吐き続けてきたトランプ氏との関係構築は、まさにゼロからのスタートとなるからだ。自民党関係者が話す。

「トランプ氏の周辺では、すでに政権発足チームが立ち上がり、ニュート・ギングリッチ元下院議長や国防省情報局長も務めたマイケル・フリン退役陸軍中将らがメンバーとして入っています。安倍首相も、河井克行首相補佐官を1週間近く訪米させ、フリン氏らとの会談を調整しているように、今は少しでも多くのパイプを築くことに躍起になっている。共和党は自民党との付き合いが古く、民主党に比べて勝手はいいが、今回の大統領選では、自民党とも交流のあった共和党系の知日派有力議員たちがことごとくトランプ不支持を明言していたので、パイプが生きるかどうかは正直わからない。安倍首相は意外とトランプ氏とはウマが合うのでは? といった楽観的な見方もあるのですが、その一方でパワーエリートらしい突っ込んだ交渉事をしてくるのではないか、といった怖さもある。あれだけ、米軍撤退を繰り返し訴えていたということは何らかのアクションを起こしてくると思いますし、日米同盟は国の礎。最悪のシミュレーションだけはしておかないといけないでしょう」

長い選挙戦のなかでトランプ氏は、日本とアメリカの安全保障に関して、こんな暴言を吐いている。

「9・11で3000人のアメリカ人が殺されたとき、同盟諸国は皆集団的自衛権を発動し支援してくれたが、日本はそうしなかった。日米同盟が片務的だからだ。日本は自国の防衛負担をアメリカに押しつけている」
「日本と韓国は、北朝鮮と中国から自国を防衛するためにアメリカの核の傘に依存せず自身で核兵器を保持することも選択肢のひとつだ」

これらトランプ氏の過去の発言を読み返すと、まずは手はじめに、年間およそ1900億円に達する「思いやり予算」のさらなる増額を要求してくるのでは……という不安が募るが、軍事ジャーナリストの世良光弘氏は「その可能性は極めて高い」と話す。

「そもそも、この1900億円という数字は、日本側が負担している米軍駐留費用のごく一部にすぎないのです。日米安保条約と地位協定で、日本は米軍基地を無償提供することになっており、基地地主への賃料や米軍再編のための移転費用など年間で総額57億ドル(約6000億円)も負担している。一方のアメリカは、在日米軍の駐留予算に55億ドルを計上していますが、このなかには在日米軍に所属する兵士約5万人の給与や食費などが含まれています。在日米軍は日本のためだけに駐留しているわけではなく、アメリカの世界戦略の下、第7艦隊が中東に行くなど自らの国益のために働いており、なぜその費用を日本がすべて負担しなければならないのか? 安倍首相は、トランプ氏がむちゃな要求をしてきたらこう強く反論すべきです」

トランプ氏は、繰り返し「アメリカの財政は他国の防衛をするほど余裕はない」と発言してきたが、そもそもアメリカの軍事費は5830億ドル(約61兆8000億円)と膨大で、在日米軍にかかる経費はこの0・94%に留まる。わずか1%にも満たない出費を削ったところで、財政再建にはほとんど寄与しないと思われるが、それでも「米軍即時全面撤退」というカードを切られたら、日本の負担は計り知れないだろう。世良氏が続ける。

負担が増えている自衛隊に米軍の穴埋めは不可能

「在日米軍が完全撤退した場合、自衛隊がその穴を埋めるには、空母やイージス艦、ステルス戦闘機や戦車、そしてミサイル防衛システムからサイバー部隊までを自前で持たなければならなくなる。その費用は人件費込みで、最低でも2兆3000億円。これはあくまでも最低限の試算で、核抜きの数字です。事の是非はさておき核武装まで考えれば、核弾頭は1発100億円はするので防衛予算はさらに跳ね上がる計算です。在日米軍は現在5万人いますが、完全撤退となると、これをすべて自衛隊で補う必要が出てきます。ただ、集団的自衛権が行使容認されて以降は、危険度が高まったということもあり、自衛隊への応募者は2割ほどまで落ち込んでいるような状況。加えて、年々仕事の専門性も高くなっており、教育にカネと時間がかかるようにもなった。駆けつけ警護など、ただでさえ自衛隊の任務は増えており、隊員たちはギリギリの状態。米軍がいなくなっても、それを自衛隊員ですぐにカバーできるのか? という話になってくる」

一方、日本の保守とリベラルの両論壇では、トランプ政権の誕生をきっかけに、改めて日米同盟の在り方を再定義する必要がある、と説く専門家の声も多く聞かれるようになった。沖縄の在日米軍基地問題にも詳しい新外交イニシアティブ事務局長で、弁護士の猿田佐世氏が話す。

「アメリカが対日政策を大きく変える可能性は低い。予算を握る議会やこれまでの日米の安保担当者の抵抗が極めて強い上、対日外交はトランプ氏の政策のなかでも優先順位が低いからです。ただ、仮に大転換したときは、真の意味で必要のない軍や基地は撤退や縮小の可能性がある。トランプ氏は孤立主義を唱えており、限られた予算を考えれば、海外に駐留する米軍は縮小しやすい分野です。在沖海兵隊の辺野古基地建設は、政治的リスクも高く、時間もかかり、米国にとっては変更が比較的容易な政策であるともいえる。もちろん、辺野古案撤回や海兵隊沖縄撤退には、これまで外交を担当してきた日米関係者からも強い抵抗があると思います。しかし、現在の思いやり予算のなかから、必要な撤退費用や他地域での米海兵隊の運用に必要な施設整備などにかかる経費を日本が出すなどして、トランプ氏の『国益維持』『米軍増強』の公約実現の方向での提案ができれば、在沖縄米軍基地の縮小は可能かもしれない」

沖縄にとって基地縮小は悲願だが、すべての基地が即時撤去となると、東アジアのパワーバランスは崩壊する。これまで米軍に頼りきりで安全保障という厄介な問題から目を背けてきた日本人が、国防を真剣に考える時期がきたということだろうか。

トランプ氏政権移行チームに長女・イバンカ氏も登用

11月10日、次期アメリカ大統領のドナルド・トランプ氏は、ホワイトハウスを訪問。選挙戦で激しく批判し合っていたオバマ大統領から「あなたの成功を手助けできるよう全力を尽くす」と言葉をかけられた。政権移行チームには、マイク・ペンス次期副大統領を責任者に据え、これに、長女・イバンカ氏ら親族4人や側近も登用するという