原子力協定満期を契機に、動くか? 再処理・核燃料サイクル問題 (imidas 7/25)

原子力協定満期を契機に、動くか? 再処理・核燃料サイクル問題

第12回 2018/07/15

猿田佐世(新外交イニシアティブ代表)

ワシントンに来ている。主たるテーマは、この(2018年)7月16日に満期を迎えた日米原子力協定である。

日本は、原子力発電所のゴミである使用済み核燃料を全量再処理する政策をとっている。日本は、非核保有国で唯一、アメリカとの原子力協定で再処理を認められているが、現在、日本は再処理により生み出されたプルトニウムを約47トンも保有している。しかし、このプルトニウムは核兵器の原料となり、47トンは実に核弾頭約6000発分に当たる。

今回の訪米は、この日本のプルトニウム保有、ひいては再処理・核燃料サイクル政策に懸念を持つアメリカの人々と状況改善のための方策をとれないかを議論するところに主目的がある。

6月10日、日本経済新聞が1面トップに「米、日本にプルトニウム削減要求、核不拡散で懸念」との記事を掲載した。「米政府が、日本が保有するプルトニウムの削減を求めてきたことが分かった」とし、アメリカ側が日本政府に対し、核不拡散の観点からの懸念を示した旨を報じたのだ。

産業界に大きな影響力を持つ日経新聞がこのような記事を1面トップに掲載したことの意味は大きかった。この記事の後を追う形となった他のマスコミ数社から直ちに筆者のところにも取材が入った。その後、ワシントンに来たが、こちらで専門家を回っていても、面談において、この日経新聞の記事(英語版)を指摘しての会話がなされている状況である。

日本は核燃料サイクルによりプルトニウムを消費していく予定であったが、核燃料サイクルの肝であった高速増殖炉「もんじゅ」は廃炉となり、いつの間にかサイクルの中心に置き換えられたプルトニウムとウランの混合物(MOX燃料)を燃料として原子炉で使うプルサーマル発電も、福島第一原子力発電所事故以降の原発に対する世論の反対により十分な稼働が見通せない状況にある。

日経新聞の記事では、いかにも初めてアメリカ政府が日本政府に懸念を示したかのような記載となっているが、決してそうではない。近年、アメリカの政府関係者や専門家は主として核不拡散の視点から継続的に懸念を示し続けてきた。

将来日本が核兵器を保有するだろうと考えるアメリカの専門家が多いわけではないが、日本にプルトニウム保有を認めると、他国にも再処理やプルトニウム保有のインセンティブを与えることになりかねず、核不拡散の方針に反してしまう。さらに、中国・韓国といった日本の潜在的抑止力を脅威と捉えかねない国々との緊張関係も生じうる。テロリストの手にプルトニウムが渡る危険性も含め、核セキュリティ上の懸念を持つ専門家も多い。アメリカでは原発と使用済み燃料の再処理は別問題として認識され、原発を支持する人であっても、その大半は再処理に反対している。

菅官房長官は、2016年3月、この問題について、アメリカ政府から日本政府に懸念を伝えられたことは「全くない」と述べた。しかし、これは正しくない。例えば、この発言の直前、当時のオバマ政権においてこの問題の担当であった国務次官補のトーマス・カントリーマン氏が、連邦議会上院の公聴会で日米原子力協定とも関連づけながら、全ての国がプルトニウム再処理の事業から撤退してくれれば非常に嬉しい、と述べている。

本年6月、来日したカントリーマン氏は、日本メディアの取材に応じて「在任中は何度も日本政府と削減策を協議した」とも答えている。

6月10日の日経新聞の記事を受け、アメリカにおいても、この問題に関心を持つ専門家たちは驚き、現政権(アメリカ側)の担当者に意見を求めるなどした。

核を自らの大きなテーマと据えていたオバマ政権に比べれば、トランプ政権がこの問題についての積極的に動くことは期待しにくいというのが、これまでの大方の意見であった。しかし、この記事で報道されている事実や他の様々な事情も踏まえ、今日では、「トランプ政権も一歩踏み込んだ」「トランプ政権もオバマ政権と同じ立場をとる」というのがアメリカの専門家の見方となってきている。

トランプ政権を動かした背景には以下のような事情もある。

アメリカは世界20カ国以上と原子力協定を結んでおり、常にいろいろな国との原子力協定の議論をしているが、それらはそれぞれに関連している。

18年2月、アメリカはサウジアラビアとの原子力協定交渉を公式に開始した。現在、この交渉に端を発して「原子力協定」に対する関心がアメリカ議会などで急速に高まっている。サウジアラビアはイランと地域覇権を争う国であり、イランが核を持てばサウジも持つと明言している国でもある。そのため、この交渉は中東の安全保障情勢に大きな影響を与えかねない。

2月以降、連邦議会では、実に様々な立場の議員が、トランプ政権が再処理やウラン濃縮をサウジに認めるのではないかとの懸念を示してきた。不拡散派の旗手であるエド・マーキー上院議員(民主)に加え、アメリカ議会で条約審議を一括して担う上院外交委員会の委員長のボブ・コーカー上院議員(共和)、リバタリアン(自由至上主義者)の代表ランド・ポール上院議員(共和)などが発言を続け、その懸念は広がる一方である。

ポンペオ国務長官は、4月、長官就任に際しての議会承認の手続きにおいて、サウジアラビアとの協定でも、再処理もウラン濃縮も放棄させる「ゴールド・スタンダード」を適用したいとの発言をした(交渉は現在、一時停滞している)。しかし、サウジへの売り込みで巻き返しを図りたいとして、衰退し続けるアメリカの原子力産業からのアメリカ政府や議会への働きかけも激しく、先は見通せない。

実際に、日本の問題についてアメリカ議会を回ると、頻繁に、サウジとの文脈での懸念を強く示される。「なぜ日本には再処理や濃縮ウランの権限が認められているにもかかわらず、うちはダメなのか」とサウジから指摘を受けるような状況は避けたい、というものである。サウジからの指摘はアメリカにとって大変痛いものとなる。トランプ政権が核合意を破棄したばかりのイランへも波及し、さらには、ゴールド・スタンダードを締結しているアラブ首長国連邦(UAE)など中東の他国へも波及する可能性があり、アメリカの核不拡散政策全体にかかわる問題となるからである。

他国からの日米原子力協定への指摘は、サウジの例に留まらない。韓国も「日本が認められているのになぜ韓国はダメなのか」とアメリカへ強力な交渉を続け、2015年、再処理の研究開発実施を一部アメリカに認めさせた。さらに今回は、北朝鮮の要素も加わる。北朝鮮は、この問題について国連などの場で日本を批判してきた。

6月12日に米朝会談が開催され、今後北朝鮮の非核化がどのような道を歩むのかは世界的な関心事だが、トーマス・カントリーマン氏は「(日本のこの問題は)米朝間の非核化交渉にも影響する。北朝鮮にプルトニウム抽出やウラン濃縮をあきらめさせようとしても同国から『日本はやっている』といわれてしまう。米国が北朝鮮の完全非核化を目指すにあたり日本の核燃料サイクルはますます許容しがたくなっている」と述べた(2018年7月2日付東京新聞朝刊)。

前述の日経新聞の記事においては、アメリカからの批判を受け、「日本は保有量の増加を抑える上限制(キャップ制)を導入し理解を求める」「原子力委員会はプルトニウム保有量を減らし、現在の水準を超えないとの方針を6月中にも決める見通しだ」と報じられている。しかし、現在のところ、未だ上限制をとるとの方針は日本政府から示されていない。7月3日に出された国の「エネルギー基本計画」においては、プルトニウムの保有について初めて「保有量の削減に取り組む」と記載された。もっとも、そのための具体的な方策は見えていない。

「上限制がとられる」と報じられてから、その上限はいくらなのか、現在の約47トンからどの程度の削減が期待できるのか、など様々な議論が国の政策変更を見守る専門家の間でなされてきた。しかし、現在の政府の姿勢からすると、残念ながら現状を割り込むような数字が上限として設けられることはなさそうだ、と多くの専門家は見ている。そもそも、数値が具体的に出てくることすら期待できないという見方が強い。

日本政府は一刻も早く具体的対応策をとるべく重い腰を上げるべきである。核不拡散の安全保障上の視点に加え、日本の再処理・核燃料サイクル政策は、莫大な費用がかかり経済的合理性もない。核燃料サイクルの見直しが必須である。まずは、少なくとも六ヶ所村再処理工場の無期限停止(モラトリアム)を宣言すべきではないか。また、プルトニウムを削減すると表明したのであるから、そこには具体的数値目標が必要である。そして、国民の多くが原発の再稼働に反対である状況を踏まえた上で、プルサーマル発電による消費でないプルトニウム削減に向けた具体的な政策が議論されねばならない。

7月16日に日米原子力協定は30年の満期を迎えた。

両国いずれからも期限前の交渉入りが求められなかったため、条文の規定により協定は自動延長となった。

今後は、いずれの国からも一方的に通知をすることで協定の破棄が可能となる不安定なフェーズに入っていく。その意味では、アメリカの懸念が日本の核燃料サイクルの行く末に与える影響も強まっていくだろう。