【土記】再処理の呪縛=青野由利(毎日新聞 8/4)

土記
再処理の呪縛=青野由利

シェルブールと聞いて雨傘を思い浮かべるのはある年代より上の人だろう。かくいう私もその一人。だが2年前にこの地を訪れ、別のイメージが加わった。巨大な核施設だ。

フランス北西部の終着駅シェルブールから車で約30分。コタンタン半島にアレバ社のラ・アーグ再処理工場がある。遠くから見ると要塞(ようさい)のようだが、施設の中は古びた印象。40年以上前から民生用の再処理を始め、日本向けビジネスも行ってきた。

その結果、たまり続けた日本のプルトニウムが15・5トン。英国にも21・2トン。国内の10・5トンと合わせ、日本の総在庫は47トン強。繰り返しになるが核爆弾6000発分だ。

原子力委員会は今週、こうしたプルトニウム利用の指針を改定した。国際社会の懸念に配慮し、「保有量の減少」や「消費する分だけ再処理」を盛り込んだのが要点だが、私には肩すかしに思える。

なぜなら、削減の量もペースも示されていないから。それどころか、在庫は「現在の水準を超えない」とある。

当面、日本の原発で消費できるのは年2トン。青森県の再処理工場が動くまでの3年で海外分を6トン消費できたとしても在庫は41トン。その後は消費できる分だけ再処理? とすれば41トンはそのままだ。

問題は在庫だけではない。「日本のみなさんには再処理の経済的正当性を考え、リーダーに質問してほしい」。今週、東京都内で開かれた会合でオバマ政権の核不拡散担当の国務次官補だったカントリーマンさんが述べていた。

プルトニウムを使う燃料は通常のウラン燃料より8~9倍高くつく。「プルトニウムには経済的価値がないというのが米国の結論。燃料にせず、廃棄物として捨てることにした」。これは何も米国の特殊事情ではない。ほとんどの国にとって、プルトニウムはもはや「資源」ではなく、やっかいな「ごみ」だ。

日本の電力各社はその保管料を英仏に払っている。ラ・アーグの担当者は「いつまででも保管しますよ」と語っていたから、きっとよいビジネスなのだろう。その費用を負担するのは? 電気代を払っている消費者だろう。

先週の本欄で紹介した、人もマウスも惑わす埋没費用にもカントリーマンさんは触れていた。「大事なのは、今この時点から、核燃料サイクルの完成までにかかるコストを直接処分と比較すること」

決断を先に延ばせば延ばすほど、損失が増す。優柔不断な我が身を振り返っても、真実だと思う。(専門編集委員)