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英国は再処理から撤退、それでもセラフィールド工場は残り続ける
ポール・ブラウン
英国が核兵器製造のために使用済ウラン燃料からプルトニウムを抽出し始めてから70年余り。原子力産業はようやく再処理にストップをかけようとしている。残されたのは、世界最大量となる120トンものプルトニウムだ。政府はしかし、その扱いに窮している。
西イングランド・湖水地方のセラフィールドに設置された一連の核施設で、何千億ポンドも費やして生産されたプルトニウムは、無期限、ないしもっとましな案が出てくるまで保管するというのが、政府の政策である。加えて、危険性は低いものの、使途が決まっていない劣化ウランが90,000トンも保管されている。
プルトニウムの高速増殖炉での利用や、ウランと混合して既存の核分裂反応炉の燃料として使うといった計画は、コストが高すぎるとか、無理が大きいといった理由で、とっくに断念されている。プルトニウムは技術的には燃料として燃やせるが、燃やすだけでもコストが高くつくのである。
他の原子力施設にもいえることだが、再処理工場を全廃しても、原子力産業の仕事がなくなるわけではない。実際、数多の建屋を解体し、廃棄物を除去するには、少なくとも、もう1世紀はかかるだろう。その間、敷地と建屋を安全に保つために、年間30億ポンドの費用がかかる。
おそらく英国以外の人々にとって最も不可解なのは、この国の最も美しい地域のひとつに立地されたこのプルトニウム施設について、少数派である反原発運動はさておき、国内の二大政党が議論したり言及したりすることは滅多にないという点だ。どちらも、理論上は巨大な浪費にしか見えないこの施設に異を唱えたことがない。
この沈黙はなぜなのか。それは湖水地方の国会議員選挙はいつも接戦になることによる。保守党の候補者も労働党の候補者も、反原発を打ち出す余裕などない。そんなことをすれば、議席は間違いなく敵方にいってしまうだろう。
それでもセラフィールドの経験は日本のような国にとって重要だ。日本は2022年9月までに青森県六ヶ所村で自国の再処理作業を始める準備をしている。奇しくも青森県もまた、日本有数の風光明媚な地である。
この計画は、過去に唯一核爆弾が用いられた国である日本において、とりわけ物議を醸している。プルトニウムの使途は核兵器と高速増殖炉だが、英国と同じく日本もまた、再処理事業で生産されるプルトニウムの使用先が明確になっていない。高速増殖炉については、日本の試みは失敗に終わっている。また、日本は英国に使用済核燃料を送り、再処理を委託してきたことから、既に数トンのプルトニウムを国内に保有しているので、さらなるプルトニウム生産は不要と思われる。
日本では、影響力のあるシンクタンク・新外交イニシアティブ(ND)をはじめ、再処理反対派は比較的多いのだが、地元の政治家は雇用機会を期待して再処理事業を支持している。その一方で、日本とそれ以外の国に核兵器製造能力が拡散する可能性について国際的な懸念が生じている。
英国の再処理は1952年、もっぱら軍事的企図のために開始された。水爆を製造することで、核軍拡競争をリードしていた米国やソ連に追い付こうというのが、英国の目論見だった。
1964年、さらに大きな再処理工場が開設された。今年(2022年)、ようやく閉鎖されようとしているのが、この工場である。年間処理能力は1500トン、軍事と民生の両用だ。同工場は英国のマグノックス炉 26 基、イタリアのラティーナ原子力発電所と日本の東海発電所のマグノックス炉からの使用済核燃料を再処理した。累積処理量は45,000トンに上り、さらに318トンが処理を待っている。
再処理はひどい汚染を伴う作業である。セラフィールド工場は開設当初からアイリッシュ海に汚染水を垂れ流してきた。プルトニウムやセシウム、その他の放射性核種が長さ1 マイル(約1600メートル)のパイプから海へ放出されたのである。地元の魚介類や、アイルランド、ノルウェー、デンマークの貝類からは放射能が検出され、前者については食用にするのにリスクが高すぎないか、定期的に検査されなければならなかった。また地元住民は、貝類の摂取を控えるよう勧告された。今日では放射能を大幅に除去してから、海へ放出されるようになっている。
1977 年、三番目の「リサイクル・プロジェクト」となる熱酸化物再処理工場 (Thermal Oxide Reprocessing Plant, THORP)の建設計画が打ち出された。期待されたのは、当時、拡大が見込まれていた原子力発電から利益を得ること、そして比較的新しい原子炉や、その頃はまだ有望視されていた高速増殖炉計画にウランとプルトニウムを供給することである。英国政府がこのプロジェクトを承認したのは9年後だったが、それまでに多くの海外企業と再処理契約が結ばれていた。そしてこの新しい工場の最大顧客となったのが、日本だった。
つまるところ、再処理は何か有益なものを生産するというより、商業的な事業になった。プルトニウムとウランを取り出すため、9カ国が大金を支払って、使用済核燃料をセラフィールドへ輸送した。ところが混合酸化物燃料(MOX燃料)はコストが高すぎるため、ウランもプルトニウムもほとんど利用されず、高速増殖炉は経済的に成り立つ規模には至らなかった。
セラフィールド核施設を安全に保ち、最終的に解体・撤去する責任を負っているのは、政府の原子力廃止措置機関(NDA)である。NDAは外国政府と英国防省から、使用済核燃料、プルトニウム、ウラン、核廃棄物の保管を請け負うことで、年間8億2,000万ポンド(11億6000万米ドル)を得ている。国防省の廃棄物には、原子力潜水艦の動力供給や、爆弾や弾頭の製造などから発生する放射性物質も含まれる。NDA予算のうち、残りの33億4500万ポンド(45億7000万米ドル)は、英国の納税者が支払っている。
NDAの現在の計画によると、2125年、すなわち103年後までに、すべての使用済核燃料を処分したいとしている。施設内の建物は2133年までに取り壊されるか、再利用されるだろう。
これらの目標年はかなり先のように見える。しかし、既に中間目標のいくつかは達成できそうもない。NDAの文書は、2040年までに高レベル廃棄物の地層処分場を設置したいとしているが、英国政府は1980年から処分場を探し続けているものの、これまでに候補に挙がった場所はいずれも棄却された。最近、一から処分場探しをやり直しはじめた政府は、多くの財政的インセンティブを提示することで、地域社会に処分場の受け入れを促そうとしている。
現在、セラフィールド核施設では11,000人が雇用されている。何がどうなろうと一つ確かなのは、彼らのほとんどがこの先何十年もの間、職を失うことはないということだ。【翻訳・文責:ND】
(The Energy Mix 2022年1月18日)