今こそ対米外交の出番 台湾有事という破滅、避けるには

「イエスと答えることもあればノーと答えることもあり得る」

 台湾有事の際、米軍に在日米軍基地を使用させるか否かについての岸田首相の答弁である。

日本には台湾防衛義務はない。「台湾有事」が「日本有事」となり日本が戦争になる可能性があるのは、日本が米側陣営で一端を担うからである。その最初の決定的決断は「在日米軍基地からの米軍の出撃を認めるか」を日本が判断する場面でなされうる。

在日米軍基地からの出撃は反撃を招き、日本が戦場となる可能性を高める。1960年、日米安保条約改定当時の国民も「米国の戦争に巻き込まれる」と懸念して米軍の基地使用の歯止めを要求し、これに押された日米政府は「事前協議」制度を設けた(岸・ハーター交換公文)。

事前協議制度とは、米軍の日本防衛目的以外の戦闘作戦行動のための日本国内の基地使用等については日米の事前の協議の主題とする、とする制度である。

では、日本は出撃を拒めるのか。日本に拒否権があるかが問題となってきた。事前協議制度の制定当時、野党の追及を激しく受け、外務省は「想定問答」に禅問答のようなやりとりを記載している。

問 事前協議を受けた際わが方には拒否権があるのか。

答 (略)米側は日本側の意志に反する行動を執る考えはないといっているのであるから、拒否権の問題が起りようがないのである。

基地を自由に使いたい米国と米国に抗したくない日本政府の立場がある中、その後も国会で事前協議が問題になると日米間で話し合いが行われるなど、「事前協議」は日米当局者には「のどに刺さったトゲ」であり続けてきた。

現在、戦後初めて日本が戦場になり得るという緊迫感により、今国会では何人もの議員が事前協議を取り上げた。

台湾有事の直接出撃には事前協議を行うかと問われた首相は「当然である」と答弁。続いて、事前協議で「ノーと言えるのか」との質問の回答が冒頭の答弁であった。実は台湾有事には基地の自由使用を認めるという日米密約(台湾条項)の存在が指摘されてきた。今回の首相答弁はこの台湾条項の存在を明確に否定する画期的な答弁であった。

もっとも、日米の「討論記録」(59年6月)によれば、米軍の日本からの「移動」に際して事前協議を要するとは解釈されないとされ、また、72年の政府見解も「通常の補給、移動、偵察等直接戦闘に従事することを目的としない軍事行動のための施設・区域の使用は、事前協議の対象とならない」とする。この3月、野党議員がこれを示しながら、「補給、移動だから(事前協議の対象では)ない、そんなことを許したら、主権国家として国民の生命、財産が危うくなりますよ」と質問。それに対して、首相は何度もはぐらかしてまともに答弁しなかった。台湾条項は消えたが、台湾有事の関わりについて主体的判断を日本が行うことなく、黙認により米国の判断に追随する余地が再び残された。日本が戦場になり得る究極の場面にもかかわらず、である。

事前協議でノーと言えるはずもない、日米同盟が破綻する、と安保関係者は言うだろう。しかし、在日基地から直接出撃すれば基地はもちろん周辺自治体も反撃に遭い、多大な被害を受ける。事実、この事前協議で日本が迫られるのは、「日米同盟の破綻か、戦争による多大な被害か」との二者択一である。選択を迫られたくないのであれば、台湾有事を避ける努力を徹底して行うほかはない。

むろん、実際に事前協議の場面を迎えては手遅れである。台湾有事を避けるために今からこの制度が議論されねばならない。米中の緊張緩和が急務であり、そのために日本は中国の拡張主義への批判のみならず、米国の挑発的な態度に対しても自制を求めた働きかけが必要である。「必ずしも事前協議で在日米軍基地の使用にYESとは限らない」とのメッセージを今の段階から発すること、それが対米外交での強烈な意思表示となる。

20230428北海道新聞