「法の支配」の力とは?
無理の前に道理が引っ込む。理不尽な権力の行使で、命や大切なものが奪われる。「法の支配」は、そういうことを防ぐための人類の知恵だ。だが、ロシアや中国だけでなく、米国までもが「法の支配」を平気で踏みにじる今の世界。憲法記念日を前に、「法の支配」の力を考えたい。
<法の支配>
「法の支配」(Rule of Law)は、権力の恣意(しい)的な行使を防ぐ原理で、権力者を含むすべての人の法の下の平等と、個々人の人権・自由を守る仕組み。権力者が法を自分の都合のいいように利用して統治しうる「法による支配」(Rule of Law)とは根本的に異なる。
国家間での「法の支配」は、国際法を尊重し、「力による支配」を脱却して、国家間の紛争を平和的に解決することを目指す考え。
平和の礎 保つために
弁護士 猿田佐世さん
トランプ氏の第1期政権の時、米国の海外支援を担う国際開発局(USAID)に勤める友人が言っていました。「人類って、いろいろあるけど、ちょっとずつ進歩してるって思ってた。でも、そうじゃないって分かった」。第2期トランプ政権は真っ先にUSAID解体に取りかかりましたから、私の友人も7月には職を失います。
いまトランプ政権がしていることは、米国を中心にした西側諸国が主導し、建築してきた「自由で開かれた国際秩序の破壊」です。
2度の大戦であまりに多くの命が奪われ、世界中が疲弊しきった。その悲劇を繰り返さないため、国連をつくり、一人一人の命や尊厳を守るため世界人権宣言をつくり、虐殺など人道に反する罪を裁く国際刑事裁判所(ICC)をつくり…と人権や民主主義といった普遍的価値に基づくさまざまな制度やルールを一つ一つ、つくってきた。
「力による対話」ではなく「対話や外交による平和」、「力の支配」ではなく「法の支配」による国際秩序を築いてきたのです。
もちろん、「普遍的価値」や「法の支配」といいつつ、国際法に反した攻撃を続けるイスラエルを支援するなど、米国など西側諸国の態度はダブルスタンダード(二重基準)であり、欺瞞に満ちています。国連はロシアやイスラエルの行動を止められません。
それでもなお、普遍的価値に基づく、国際的な善悪の物差しがある意義は決して小さくありません。現実と乖離したきれいごとだとの批判もありますが、掲げた理想があるからこそ、目指す方向が分かるのです。
そもそも、「自由で開かれた国際秩序」は、日本が戦後に立ち直り、経済的な繁栄を手に入れ、国際社会での主要国の一角を占めるに至った礎です。日本ほど、その恩恵にあずかった国はないかもしれませんし、また、国連機関への人材や資源の提供など日本も相当の寄付をしてきました。その礎を米国が破壊しようとしている今、日本として何をすべきでしょうか。
「トランプ関税」をめぐる応酬ばかりに目を凝らしがちですが、これまでの対米外交のように「抱きつき戦略」で追従してばかりいては、自らの足元を切り崩してしまいます。
危機感を共にする国々と連帯し、「力の支配」に傾くのではなく、「法の支配」を守るべきでしょう。
(聞き手・星浩、撮影・初沢亜利)