「戦争を回避する『新しい外交』を切り拓く」(かもがわ出版)
2020年代に入り、アメリカ合衆国はトランプ政権下でグローバルな立憲秩序、つまり「自由で開かれた国際秩序」の維持者を完全に放棄し、また必ずしも民主主義を重視しないBRICsやグローバルサウスと呼ばれる新興国の国々も影響力を増しつつあり、世界は多極化した。スウェーデンのVーdem研究所によれば24年段階で72%もの国が権威主義や独裁体制下にあり、国際秩序は目に見えて非民主化しつつある。このような激動する国際秩序のなかで日本はどうすべきか。本書の著者「新外交イニシアティブ(ND)」は13年設立のリベラル系の外交・安保政策専門のシンクタンクで、アメリカで本格的なロビー活動等を行い民間外交の促進に寄与してきた。野党政治家とアメリカの民主党のバーニー・サンダース議員の交流会なども企画し実現している。
本書ではこれまでのNDの記録と今後の展望が展開されているが、大変興味深いのは、本書の内容がそのまま国際政治をどう見るべきかと日本外交は今後どうあるべきかについて、一定の方向性を示すことに成功している点だろう。日本の外交安全保障の課題に関しては核燃料サイクルや再処理の問題にくわえて、沖縄について1章を割いて論じている点も特徴的だ。「銃剣とブルドーザー」から、現在は日本の憲法下にありながらも「沈黙と杭」へ、つまり日本本土の民衆の無関心と辺野古の新基地建設で杭によって海が埋め立てられ続けている事実や、米軍と自衛隊による沖縄への暴力を問題視し、かつては本土で反基地運動を行った者たちも沖縄の負担に向き合うべきだと論じている。さらにフィリピンや韓国での米軍基地を削減させ地位協定を改定してきた経緯の詳細な分析から、具体的に日本でもどうすれば日米地位協定の改定や基地の返還や削減が可能か現実的なロードマップを示している。さらに日本の抑止政策の問題点について台湾有事を主眼に据えた政策提案も収録されており、激動する2020年代の日本外交に羅針盤のような役割を果たしうる一冊である。
(五野井郁夫・高千穂大学教授)
※書籍の紹介・購入はこちらから
20250706 琉球新報17面
https://ryukyushimpo.jp/news/culture/entry-4416434.html