「次世代革新炉」は原発延命と原子力産業の救済策 鈴木真奈美ND上級研究員|「環境と文明」2026年3月号(環境文明21会報)

NDエネルギープロジェクトの鈴木真奈美ND上級研究員のコラムが、「環境と文明」2026年3月号(環境文明21会報)に掲載されました。鈴木研究員のコラムは下記よりご覧いただけます。

「次世代革新炉」は原発延命と原子力産業の救済策

高市首相は2月20日の施政方針演説の中で、原発の建て替え(リプレース)に向け、「次世代革新炉」の開発・設置を“具体化”していくと述べた。

経済産業省が「次世代革新炉」と呼んでいるのは「革新軽水炉」「小型軽水炉」「高速炉」「高温ガス炉」「核融合炉」の5つ。「革新軽水炉」を除き、いずれも70年ほど前から各国で研究・開発されながら、技術的、経済的な問題のために実用化されずにきた炉型である。それを「次世代」とか「革新」と銘打って、原子力には将来性があるかのように装っているのだ。

中でも「核融合炉」は、研究や実験ならまだしも、実用化は到底無理と断言する研究者やエンジニアは少なくない。「高速炉」と「高温ガス炉」も、仮に政府の計画通り進んだとして、実証炉(開発の最終段階)の運転開始は2040年代という。社会実装となると、さらに時間がかかるだろう。これでは喫緊の課題である気候変動対策や安定的な電力供給の役に立ちようがない。それでも政府はこれらの開発に、このところ毎年、合計2000億円前後の国税を投入している。

三菱重工や東芝などが開発中の「革新軽水炉」は、今ある原発に改良をほどこしたもので、海外では既に実用化されている。画期的な技術でもないのに「革新」と称するのは欺瞞だ。改良されたのは事故対策である。たとえばメルトダウンで溶け落ちた核燃料の受け皿(コアキャッチャー)などが加えられた。「安全強化」と謳われているが、裏返せば、重大事故は起こりうるということだ。

こうした装置が追加されたこともあって、価格は1基1兆円を超えるという。先行する海外の実例では、着工から運転開始までに17年もかかり、建設費は1基2兆円前後に膨れ上がった。現在、英国で建設中のヒンクリ―ポイントC原発に至っては、4.5兆円を超えると見られている。

政府は老朽化した原発を「革新軽水炉」などでリプレースしていく計画だが、電力会社はコストが高くつく「革新炉」を設置するにあたっては、投資を回収できる仕組みを制度化するよう国に求めている。検討されているのは新設に係るコストを電気料金に上乗せする案だ。原発のコストを電力消費者に転嫁する措置は既にいくつか導入されているが、まだ発電もしていない「革新炉」の代金まで電力消費者に請求しようというのである。

小型モジュール炉(SMR)の実相

原子力はコスト競争において、もはや自然エネルギーに太刀打ちできず、衰退著しい。米国をはじめ国内に原子力産業を擁する国々は「革新炉」、特に「小型モジュール炉」(SMR)の開発に巨額の補助金を提供することで、産業の救済を図っている。

SMRとはプレハブ住宅のように、規格化された各ユニット(=モジュール)を工場で製造し、それらを現地に運搬して組み立てる方式の小型炉を指す。それにより工期短縮と価格低下が可能との触れ込みだが、単一モデルを何百基、何千基と大量生産しなければ価格は下がらない。米国では初号機の建設プロジェクトが、コスト高騰のために中止された。

日本のメーカーはSMR開発では立ち遅れており、米メーカーと協力する形で取組を進めている。その一つがカナダ・オンタリオ州のSMRプロジェクトだ。受注したのは日立製作所と米・GEが設立した合弁会社である。出力30万キロワットのSMRを4基建設する計画だが、1号機の建設コストは62億カナダドル(約7000億円)と見積もられており、最終的に120万キロワット原発1基のコストを上回るだろう。発電量当たりのコストは、小型炉の方が高くつくのである。

「革新炉」の輸出

SMRを大量生産するには輸出が不可欠だ。世界の原発市場では近年、中国とロシアが優勢なことから、米国をはじめ西側はSMR輸出で形勢逆転を目論んでいる。ターゲットは途上国や新興国。既に日米両政府と企業は、自国内で一基も稼働しないうちから、ガーナへのSMR輸出計画で協力している。具体化すれば日本の政府系金融機関である国際協力銀行(JBIC)が融資することになるだろう。

この輸出計画と密接に係るのが、米国政府が2023年にぶち上げた「世界の原子力容量3倍化」宣言だ。日本を含む33ヵ国(2025年末現在)が賛同している。宣言は「2050年までに3倍」と勇んでいるが、それには単純計算で大型炉なら600基以上、小型炉なら2600基以上の新設が必要となる。2050年には既存原発の大半が運転を終了していることから、実際にはもっと要るだろう。

国際原子力機関(IAEA)の試算では、その実現には年24兆円かかるという。そこで輸出、ないし輸入を目指す国々は、世界銀行など国際金融機関に原発への融資を働きかけている。原発融資は事故や核拡散リスクなどから長く控えられてきたが、今日までに世銀とアジア開発銀行が解禁した。こうしてSMRなど「革新炉」の輸出入に向けた資金調達の仕組みが整いつつある。

しかし輸出は、核拡散リスクと隣合わせだ。SMRや、米国で開発中の高速炉「Natrium」(日本メーカーも参画)は、燃料に高純度低濃縮ウラン(HALEU)を用いる。従来の軽水炉は濃縮度3~5%のウラン燃料を使うが、HALEUは濃縮度が5~20%未満と高めだ。IAEAの基準では濃縮度20%以上は「高濃縮ウラン」に分類され、核爆弾の製造が可能とされる。一方、アメリカの研究者らは濃縮度が20%未満でも、ある程度の量があれば核爆弾を製造できると警告している。SMRなどの輸出は、核爆弾製造に転用可能な核物質をばら撒くようなもので、深刻な核拡散リスクをもたらすだろう。

また、原子炉が小型化したからといって、核テロや盗難のリスクが小さくなるわけではない。基数が増えれば、それだけリスクは増大する。そして「革新炉」も当然、核廃棄物を生み出す。廃炉を含めると処分しなければならない廃棄物の容量は、むしろ増えるだろう。「革新炉」の使用済み核燃料の多くは、軽水炉のそれより発熱量が高くなるため、中間貯蔵施設も最終処分場も、より大きなスペースが必要となる。再処理も(もし、やるならばの話だが)、一層、厄介になるだろう。

「次世代革新炉」の開発と導入には、私たちが支払う税金や電気料金が充てられる。原発の延命と原子力産業の救済のために貴重な時間と金を無駄にするのは、将来世代に対する犯罪行為と言ってよい。70年前の「夢」を追いかけるのは止めて、現実的で効率的な発電方法を選択すべきである。

*下記より「革新炉」の問題点を解説した短編動画2本をご覧頂けます。

※「環境文明21」ウェブサイト:https://www.kanbun.org/index.html