本書は「日本の安全保障」というシリーズの1冊にして「人間本位の安全保障」を求めて「安全保障」そのものを沖縄からあらためて捉え直す試みを行っている。
現在の辺野古基地反対の闘いの背景を10人の執筆陣が実に多くの視点から語っている。例えば琉球王国にさかのぼる非武の歴史はもちろん、沖縄の人々の複雑なアイデンティティーの形成過程や日本の平和憲法への信望と疑義の変遷について明らかにする。また、沖縄の長い抵抗の歴史についても、日本による「併合」に対するもの、戦中・戦争直後の状況、復帰闘争、そして今日までの各闘いの細部を、すべて辺野古基地反対闘争に引きつけた形で見事に描いている。
さらに、本書の視点は米国の戦後政治の流れにおける在沖米軍基地問題の意味や国連にて沖縄問題が位置づけられていく経緯などにも及ぶ。その上で、現在の国際社会を席巻する国家安全保障の現実をも見つめながら、「琉球王国以来の伝統と沖縄戦の経験を踏まえた平和へのスタンスをもって東アジアの緊張緩和に独自の貢献を行うことができるという自負と自信」を語り、沖縄発の構造転換は可能かと提言する。
それにしても、沖縄の人々はなんと長い道のりを闘い続けてこなければならなかったのか。
琉球処分、いやそれ以前の時代から現在まで、草の根の抵抗運動を続け、米政府や日本政府の施策に異議を唱え続けてきた歴史にあらためて敬意を表する。加えて、基地縮小を主張することすら許されなかった時代を経て、今、沖縄県民の多くがまとまって基地建設反対を世界に訴える時を迎えており、長い闘いにおけるこの瞬間の重要性もあらためて実感する。
さまざまな角度から沖縄をめぐる安保を語り、沖縄特有の事象を多く説明する本書は、表面的な議論に終始される今日の辺野古基地問題を真に知るための教科書である。多くの本土の人々こそが読み、なぜ今の沖縄の闘いがあるのかを学びたい。
(猿田佐世・新外交イニシアティブ事務局長、弁護士)