2016/06/07- 【後篇 今週のトリスタ! 猿田佐世 シンクタンク・新外交イニシアティブ事務局長、国際弁護士】

VOL.164「ハイパー・メディア・アクティビスト 上杉隆の革命前夜のトリスタたち」後篇 今週のトリスタ!

猿田佐世 シンクタンク・新外交イニシアティブ事務局長、国際弁護士・38歳

お金のある人の声だけがワシントンに届き、民主主義が歪められている!

「アメリカの影響力を使って、自分たちの望む政策を日本国内で実現しようとしている。そのために、日本政府がアメリカでのロビイングに億単位の資金を注ぎ込んでいる事実は、ほとんど知られていません」

限られた一部の人ではなく、市民が外交政策に関わる社会を目指すシンクタンク・新外交イニシアティブ事務局長の猿田佐世は、こう明かした。ロビイングとは、特定の団体の意見を政治に反映させるために議会や政府に働きかけることだ。

「例えば、日本の報道はこれまで終始『TPPはアメリカが望んでいる』という論調で、それが日本世論を形づくってきましたが、実は、アメリカ議会のTPP推進議連は日本政府のロビイングでできたもの。だから、大統領選の候補者がこぞってTPPに反対だったりする……。在日米軍基地の辺野古移設には、多くの世論調査で日本人の過半数が反対しているのに、ワシントンにいる日本人で移設に反対の意見はほぼゼロなのも、ロビイングの結果です。ロビイングには莫大な資金がかかるので、お金のある人の声だけがワシントンに届いている。民主主義が歪められているのです」

米議会にTPP推進議連をつくらせたロビイスト事務所に、日本政府は’13年までの3年間で1億3600万円を支出。対日政策に影響力を持つ米シンクタンクにも億単位の“寄付”をしている。そして、ロビイングの効果を最大限に増幅するのが、猿田が“ワシントン拡声器”と名付けたシステムだ。

「一部の人々がワシントンのシンクタンクや知日派を通じて、『アメリカの意向』として自分たちの意見を言ってもらっている。『ワシントン発』の記事は大々的に報じられるので、そういう“ニュース”をつくり、日本に向けて“拡声”し、アメリカの影響力によって日本国内で自分たちの望む政策を実現していくのです。ある元外務官僚は『国会のコントロールには“アメリカの声”を使うのが便利』と話しました。このシステムを知る官僚や政治家は頻繁にワシントンに通っています」

ワシントンでは、日本政府の声だけが日本の声とみなされてしまう……。そんな状況を打ち破るため、猿田は行動に出た。基地問題にも取り組む彼女は、翁長沖縄県知事の同行訪米団や稲嶺名護市長のワシントン訪問に随行するなど、米政界へのロビイングを市民レベルで展開する稀有な日本人なのだ。

「きっかけは、鳩山首相が普天間基地の県外移設を提案した’09年に遡ります。その頃、米下院で沖縄問題担当のアジア太平洋小委員会のトップに会うと、『沖縄の人口は2000人か?』と聞いてくるし、『辺野古』という地名さえ知らなかった……。当時、日本でまことしやかにいわれていた辺野古移設を求めているアメリカって、いったい誰のことだろう? って思ったんです」

“ワシントン拡声器”を利用したスピンコントロール(情報操作)は、枚挙に暇がない。問題なのは、権力のこうした活動にメディアが加担している事実だ。

「日本人の訪米行動についても、国内メディアは、彼らの知る“著名”なアメリカの要人に会えたとか会えなかったとか、そんな情報ばかりを報道する。私たちは幅広い層に訴えようと試みても、連邦議員の大半は日本に無関心。だから、『よく知らないが、これって二国間で決めたことなんですよね?』という程度のコメントが多くなるのですが、それが日本では『辺野古反対通じず』という見出しで大きく報じられたりする……。一方、メディアに取り上げられなかった情報は、なかったことになる」

昨年、猿田はロビイングで大成果を挙げていた。アメリカの国防権限法にある普天間基地の移設先は「辺野古が唯一の選択肢」という条項の削除に成功したのだ。ところが、日本の大メディアは事実上黙殺した。それでも、彼女は下を向くつもりはないらしい。
「“ワシントン拡声器”を使えば、小さな力にもレバレッジが掛かる。もちろん私も利用しますよ。私たちの主張が拡大するのはもちろん、日本から届く情報の幅を広げることで、今アメリカから日本に届いている情報の質を変えることにも繋がりますからね」
“拡声器”を批判しつつ、有用ならば使わせてもらう……トリックスター的な戦略で反撃に出る猿田が、戦果を挙げる日は近い。

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上杉隆(うえすぎ・たかし)

ミドルメディアカンパニー「NO BORDER」代表取締役。一般社団法人「日本ゴルフ改革会議」事務局長。ジャーナリスト。『偽悪者 ~トリックスターが日本を変える~』(扶桑社)、最新刊『悪いのは誰だ! 新国立競技場』(扶桑社新書)が好評発売中。5月19日、「上杉隆君の名誉回復を祝う会」は大盛況。祝・復権!