【対応を先送りし続ける文在寅政権…「徴用工問題」に落とし所はあるのか?】
(AbemaTIMES 1/29)
レーダー照射問題に加え、日本と韓国が抱えるもうひとつの火種、徴用工問題をめぐって、先週大きな動きがあった。日韓関係の悪化を懸念したパク・クネ政権の意向を受け、徴用工訴訟の判決を不当に遅らせたとして、梁承泰・前最高裁長官が逮捕されるという前代未聞の事態となったのだ。
18日には、去年11月に韓国の最高裁が下した1人当たり800〜1500万円の損害賠償命令を受け、原告側の支援団体が三菱重工を訪れ「判決を尊重した協議を求める。2月末までに回答がない場合は、差し押さえなどの強制執行などを行う用意がある」とし要求。同様の判決は新日鉄住金、そして今年に入ってからはソウル高裁が日立造船や不二越にも下されており、今後70以上の日本企業に対し、続々と損害賠償命令が出るものとみられている。
しかし日韓両国は1965年、日本の経済支援と引き換えに「両国間の請求権の問題は完全かつ最終的に解決した」という協定を取り交わしている。河野太郎外務大臣も「これはもう国際法違反はもとより、日韓両国の関係を維持していくのが難しくなるような桁違いの影響を日韓関係に及ぼす、極めて重大な出来事」と厳しく批判、 菅官房長官も「文大統領の発言は韓国側の責任を日本側に転嫁しようというものであり極めて遺憾だ」との見方を示している。
これに対し、「三権分立によって司法府の判断に政府は介入できない。日本は判決内容に不満があったとしても、基本的にどうすることもできないと認識してほしい」という立場を取るのが文在寅大統領だ。文大統領は年頭会見でも「これは韓国政府が作り出した問題ではない。日本の政治家が政治争点化して問題を拡散しようとするのは賢明ではない」と述べている。しかし、そんな文大統領自身が司法機関の人事・予算を握り、最高裁判事の半数以上を指名しているといわれており、賠償判決を下した金命洙最高裁長官もまた、地裁の所長をしていたところを文大統領が異例の抜擢をしたとされている。そんな文政権の実態に、「司法は権力の下僕だ」「政権ごとに判決が変わり、どこが三権分立国家なのか」と批判的に報じる韓国メディアもあるようだ。
26日放送のAbemaTV『みのもんたのよるバズ!』に出演した元韓国特命全権大使で外交評論家の武藤正敏氏は「文大統領の年頭会見はひどい。彼の言ったことは、要するに日韓が戦後50年にわたって培ってきた原則や国交正常化の時に解決したことを反故にすること。日本に対して”謙虚であれ”というのも上から目線だし、”俺たちの言うことは全部正しい。お前たちは俺たちの言うことを聞け”ということだ。また、”司法の判断を尊重する”というけれども、司法の判断に影響を与えるために司法を作るくらいのことをやっている。決して日本とケンカをしようとはしていないし、むしろ日本との関係を避けているが、このままやりたいことをやっていては日韓関係が悪くなる。確かに韓国政府も対応を考えてはいるが、時間ばかりかかっていて、その間に差し押さえが始まってしまう。要するに韓国政府は逃げ回っていて、日本に責任を押し付けようとしているということだ。だから日本は怒っている」と指摘する。
また、弁護士の猿田佐世氏が「日本が韓国を併合をしていたというバックグラウンドや、働いていた環境を考えれば、こちらに正義があったとしても言い方には気をつけなければいけないのではないか」指摘すると、武藤氏は「猿田さんのおっしゃったように、人権に対する同情というのはある。慰安婦の人たちも、過去のこと理由に世間から蔑まれ、結婚もできず、子どもも作れず、非常に悲しい思いをしてきた。それが解決し、やっとの思いで普通の生活ができるようになった時に再び大騒ぎするというのは、韓国の人たちにとっても忍びないだろう。私はそれがよく分かる。賛否両論あったが、だからこそ日本政府も慰安婦に関してはできるだけ共感してやっていこうということだった。しかし徴用工の問題も、新聞は解決済みだということをあまり言わない。むしろ悲しみに寄り添うべきだという世論が大きくなっている。これでは日韓関係がうまくいかない。日本は”韓国国内で処理してください”と言っているだけで、政治争点化しているわけではないし、韓国の人たちは日本が大好きだ。制裁措置となったら経済的な措置ということになってくると思う。フッ化水素という半導体を作る原料、これを止めれば韓国経済はガタガタになる。しかし、そういうことを本当にやっていいのかどうかだ。戦前、日本は軍事力で韓国を支配しようとした。戦後は経済で韓国を支配しようとすると、せっかく親日になった韓国の人たちを反日にする。私はいつも言っているが、文在寅政権が北との関係でも制裁破りを相当やっているというようなことは大いに叩いていいと思う。しかし文在寅政権と韓国人とは分けて考えないといけないし、韓国政府を敵に回すようなことは考え直した方がいい」と警鐘を鳴らした。
徴用工訴訟は日本企業に対するものだけではなく、元徴用工ら約1000人が「日韓請求権協定により日本政府から受け取った3億ドルを徴用被害者に支払うべき」として、韓国政府に対する集団訴訟を起こしている。
東海大学教授の金慶珠氏は「私は文在寅政権が左だから悪いとか、そういう風には思わないが、”最高裁の判決なので行政府として尊重する”と言っても、文在寅政権としてこの問題をどうするのか。もともと1965年の請求権協定を巡っても色々な議論があるが、少なくとも徴用工に関しては韓国国内でも異論がなかった。2005年、盧武鉉政権の時には韓国政府自ら”請求権協定の中に慰安婦や原爆被害者、サハリンの強制抑留の人々は含まれていないが、強制徴用にあった人々に関しては3億ドルの中に含まれている”と認め、特別法を作り、日本円で約600億円をかけて補償してきた。だから今回の判決については、韓国の中でも非常に賛否両論がある。昨年内にはその答えが出されるはずだった。それをずっと先送りしている感はある」との考えを示す。
その上で「メディアの情報もよく見てほしい。韓国は慰安婦合意も維持すると言っているし、一方的に破棄することがどれだけ不利益かということもよく分かっている。徴用工の問題も恐らくそういう形で落ち着かざるを得ない。もう一つ、あえて言うと、どの政権も支持基盤に振り回されるようになると、政治が本末転倒になる。韓国の場合、人権の話の側面が確かにあるが、国内でも誠意を尽くした補償や色々な工夫をしてきた。それにも関わらず、韓国メディアがそういうところを無視する。また、政府や日本に何らかの賠償を求める声というのは、被害者当人というよりはその周りから強く聞こえてくる。それに対して明確な発信をしていく必要がある。お互いに協定において納得がいかない場合、外交で解決してください、とちゃんと認められているので、それを始めるべきだ。日本はこれまで拒否してきたが、韓国はまだ拒否していない。綿密に検討すると言っているし、乗り出す可能性も十分にあると思う」と指摘。「なぜ韓国の中でこういう裁判が起こされるかというと、やっぱり日本が慰安婦問題や徴用工問題を日韓の政治問題として捉えているからだ。これに対し、韓国の中では、植民地時代に犠牲になった人々を政府がいかに救っていくかという、人権問題としての側面がある。これが文在寅政権の支持基盤にもなっている。日本は国際法違反で、協議に応じなければ仲裁委員会、出なければICJ(国際司法裁判所)と言うが、思っているほど国際世論が日本を圧倒的な支持をするのかというのは必ずしもそうではないという側面がある」と話していた。(AbemaTV/『みのもんたのよるバズ!』より)