軍事力以外の知恵絞れ 対中 米の片棒担ぐ日本

3月の米中外交トップ会談は世界に米中の溝の深さを知らしめるものとなった。前政権に続きバイデン政権も「中国に厳しく対峙する」ことを明確にしたが、相対的に力を落とす米国においてその内実は「同盟国頼り」である。その「同盟国」である日本は、先に行われた日米「2プラス2」で米国と共に名指しで中国に懸念を示し、過去最大の防衛予算、敵基地攻撃能力保有の議論など軍事力拡大を急速に進めて米国と歩みをそろえる。自らの戦略の片棒を担わせようとする米国を「同盟国重視」として評価し「日本の存在感が増した」との声すら聞こえる。

しかし、喜べる情勢にはない。一歩間違えば「米中新冷戦」にとどまらずこの地域で「熱戦」がおき、日本が戦場になる可能性もある。中国は、米国が同盟国を総動員して中国封じ込めともいえる戦略をとることに敏感に反応し、防衛費の増加を発表し、中東や東南アジアなどへの働きかけを強めている。対立構造が固定化し、双方が軍事力をエスカレートする「安全保障のジレンマ」が止まらない。このままでは、日本政府は嬉々として米国陣営の「雄」となり、さらなる軍事力強化の道を突き進むだろう。

私が代表を務めるシンクタンク「新外交イニシアティブ(ND)」では、この3月、事態を強く懸念し、安全保障についての政策提言書を発表した。執筆者は、柳沢協二氏(ND評議員・元内閣官房副長官補)、半田滋氏(元東京新聞論説兼編集委員)、佐道明広氏(中京大学教授)、筆者の四人である。

そこでは、日本の喫緊の課題は米中対立が戦争に至らないようにすることであるとし、日本が「架け橋」として対立から協調に導く役割を果たす必要を訴えている。

提言のタイトルは「抑止一辺倒を超えて ~時代の転換点における日本の安全保障戦略」である。「抑止力強化」と言えばどのような軍事力拡大でも許されるかのような、日本政府の態度への懸念を強く示した。そもそも日本には「抑止力があれば戦争にならない」という認識があるが、「抑止が破たんした場合には戦場になる」という覚悟がなければ「抑止力」はリアリティーのある政策とはならず、それに触れない「抑止力」の説明は国民に対する欺瞞である。また、「これをしなければ戦争にはならない」範囲を示すことでの相手への安心の供与、信頼醸成や多国間協力による対立の管理が行われなければ抑止は安定しない。また、防衛努力は重要だが、戦争となれば日本に甚大な被害が生じるため、米国への協力についても「戦争に巻き込まれない」努力が欠かせない。

米中対立緩和のためには、日本が、米軍の中距離ミサイルの配備を認めず、自衛隊ミサイルの長射程化などが地域の緊張を招かぬよう配慮が必要であり、「敵基地攻撃の禁止」など自衛隊の運用への新たな「歯止め」も必要となる。

また、米国はクアッド(日米豪印協力)やFOIP(自由で開かれたインド太平洋構想)により米国ブロックを形成しようとしている。多国間協力は日本の安全保障にも有用ではあるが、その連携は対中封じ込めではなく、むしろ中国をも含めた形での協調的安全保障を志向すべきである。

提言は、「日本の発信力の源泉としての『唯一の戦争被爆国』であること、憲法第9条を持つ『非戦の国』であることを活かし、多国間枠組みの創設とその活性化を目指すべきである。」と締めくくった。

現実の政治を見ていると選択肢は軍事力強化しかないようにも感じられるが、それで日本が安全になる保障はなく,むしろ、それを繰り返した結果、今のリスクの高い状況を招いている。今、「安全保障」において、軍事力以外の知恵を絞ることが決定的に欠けている。そのような観点からとりまとめた提言について、ぜひ読者のご意見を伺いたい。

猿田佐世(さるた・さよ)

新外交イニシアティブ(ND)代表/弁護士(日本・ニューヨーク州)。沖縄の米軍基地問題について米議会等で自らロビーイングを行う他、日本の国会議員や地方公共団体等の訪米行動を実施。研究課題は日本外交。基地、原発、日米安保体制、TPP等、日米間の各外交テーマに加え、日米外交の「システム」や「意思決定過程」に特に焦点を当てる。著書に、『自発的対米従属 知られざる「ワシントン拡声器」』(角川新書)、『新しい日米外交を切り拓く 沖縄・安保・原発・TPP、多様な声をワシントンへ』(集英社)、『辺野古問題をどう解決するか-新基地をつくらせないための提言』(共著、岩波書店)、『虚像の抑止力』(共著、新外交イニシアティブ編・旬報社)など。