研究・報告

2025年 東アジア四カ国対話 共同声明

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私たち、「東アジア四カ国対話(East Asia Quadrilateral Dialogue)」の主催団体である新外交イニシアティブ(ND・日本)、外交プラザ(KDP・韓国)、憂慮する科学者同盟(UCS・米国)は、東アジアにおける開かれた外交の新時代を切り拓くため、日本、米国、中国、韓国の専門家と共に、再びここ東京に集まりました。私たちは、2023年に東京で第一回の「東アジア四カ国対話」を開き、認識を共有し、共通の目標を掲げ、そして共に行動することを誓う声明を発表しました。昨年、韓国市民が戒厳令を阻止したまさにその日に、私たちはソウルで第二回の「東アジア四カ国対話」を開催しており、共同声明案を作成していました。緊迫した状況のもとで発表には至りませんでしたが、その声明案には、平和を求める私たちの訴えが込められていました。

その後、私たちは、あの戒厳令発布の時に脅かされていたのは韓国の民主主義だけではなかったと知りました。戒厳令を出した側は、北朝鮮の脅威を口実に戒厳令を正当化しようとし、戦争を呼び起こしかねない緊張をも同時に煽っていました。昨年の韓国における危機から、民主主義を守ることこそが、戦争を防ぎ、平和を維持するために必要であることを私たちは学びました。民主主義の諸制度を守る市民の力は平和の砦です。市民社会の一員である私たちは、この韓国の経験から励まされ、大きな自信を得て、それぞれの国において政府へのモデルを提供し、各国が前に進むよう働きかけるべく努力する決意を新たにしています。

地域における戦争のリスクは依然として高い状態にあります。朝鮮半島では、日米韓の軍事的連携が続いており、北朝鮮と中国はそれを脅威とみなしています。それに対し、中露朝も戦略的・軍事的協力を強化しています。このような地域における対立は台湾をめぐる軍事衝突の危険を高めています。各国の軍事支出は、近年に例のない速度で増大しています。米国の一国主義的行動は国際秩序を不安定化させ、多国間協力の可能性を狭めています。日本では、前政権における日中外交パイプの緩やかな回復にもかかわらず、国内政治が変化し、地域の緊張を高める結果となっています。

ガザ危機は停戦となったものの人道危機は和らいでいません。ウクライナでは平和はいまだ遠く、エスカレーションの危険が続いています。ガザにおける甚大な苦難は、国際社会の道徳的基盤を揺るがし、ウクライナでのドローンによる戦いは急速に進む軍事技術が破壊的な意味をもちうることを警告しています。これらの危機の根底には、ゼロサム的思考に支配された国際関係のあり方があります。そして、対立関係の継続から利益を得る者たちがそのゼロサム的思考を増幅させています。しかし、このような世界観は、気候危機など地球規模の緊急課題への効果的な協力を妨げています。大国間競争が平和を生み出さないことは、もはや疑うべくもありません。

私たちは、2023年の共同声明で、地政学的競争が気候危機を悪化させ、軍拡競争を加速させ、経済を不安定化させ、結果としていかなる国の安全も保障し得ないと警告しました。今日、私たちは、ともに立ち向かわねばならない共通の課題に対して、すべての人や国に開かれ皆で協力し合うアプローチを推進する決意を改めてここに表明します。私たちは、この「東アジア四カ国対話」に日本および韓国の国会議員が参加することによって、民主主義を外交政策の決定過程に反映していくという私たちの目指す方向が強化されていることにも心強く感じています。

東アジアと世界は、複雑かつ相互に関連した危機の時代に突入しています。この危機から抜け出すためには、競争を激化させるのではなく、リスクを管理し、責任を分かち合い、対話のパイプを築くといった外交を行うための制度構築が必要です。平和とは、単なる意思の問題ではなく、みなで共に築き上げる「構造」なのです。安全の保障は、軍事的優位からではなく、リスクを適切に管理した相互依存関係の中から生まれるのです。

私たちは、このビジョンを実現するため、市民社会、国会議員、有識者をつなぐネットワークの制度化を進めます。この「東アジア四カ国対話」を毎年行われる年次フォーラムとして確立し、若い世代や大学とのネットワークの拡充や、誰もがアクセスできる共同研究のためのオンラインプラットフォームの創設も目指します。政府による外交が停滞、あるいは後退するときには、市民や国会議員、専門家によるトラック2外交が平和の「構造」を支え続けるでしょう。

今年は、第二次世界大戦終結から80年、原爆投下から80年、日韓国交正常化から60年、そして非同盟諸国が大国間対立に代わる道を模索したバンドン会議から70年の年です。これらの歴史の遺産は、私たちに、東アジアにおいて戦争と核の惨禍を二度と繰り返してはならないことを改めて思い起こさせます。私たちは、この強い意志と共に、この共同声明を発表します。私たちは、これからの世代のために、競争を管理し、リスクを減じ、平和を築いていきます。

平和は多くの選択肢のうちの一つではありません。

平和とは、私たちが共に築き上げる「構造」なのです。

 

新外交イニシアティブ(ND)

外交プラザ(KDP)

憂慮する科学者同盟(UCS)