米国はバイデン政権下でもなお中国との深刻な対立を抱える。トランプ政権のような予測不可能性はないが、人権など対立項目は増え、台湾を巡る軍事衝突の可能性も否定できない。
米中両国は、東南アジア諸国を自らの陣営に取り込もうと必死だ。シンガポールは米中いずれかを選ぶ事態は望まないとの意思を示したほか、フィリピンは中国との関係を深め、同盟国の米国に昨年、国内での米軍の活動を可能にする地位協定の破棄を一方的に通告した。最終的に撤回したが、米側に対価を要求するなどしたたかに米中バランスを取っている。
日本では日米同盟強化ばかりが強調される。バイデン政権発足の直前、日本は与野党とも「中国に弱腰にならないで」と発信していた。「日本が米国をよりタカ派の方向に引っ張っている」とみる米国の識者もいる。
岸田文雄首相も有力な選択肢とする敵基地攻撃能力については、抑止力を高めれば安全だとの声もあるが、軍事力一辺倒では他国を刺激し軍拡競争となる。米ソ冷戦では互いに多数の核兵器を有していたが、踏み越えてはならないラインを示す「信頼関係」があった。安定した抑止関係にはこうした「安心の供与」が不可欠だ。
私たちは対中関係での安心供与として「一つの中国」を尊重する1972年の日中共同声明の再確認が重要と提言した。韓国や東南アジアと連携し、米中双方に対立緩和を求めるべきだ。台湾防衛への参加は中国相手に戦争をすること。甚大な被害が日本に生じうる。
岸田首相は外相を長く務め、外交路線は従来と変わらないだろう。外交・安全保障が選挙の主な争点にならないのは、代案を出せない野党の責任でもあり、選択肢を示す必要がある。勇ましい言説に踊らされず、米中衝突を避けるには日本はどうすべきか、冷静に考え投票したい。
さるた・さよ
1977年生まれ。愛知県出身。弁護士。新外交イニシアティブ代表。
211020 共同通信配信
※10月20日付の日本海新聞・沖縄タイムス、10月21日付の京都新聞・神奈川新聞・大分合同新聞、23日付の埼玉新聞、26日付の河北新報、28日付の西日本新聞に掲載