安保絶対視の日本が学ぶべきは【書評】

 

【書評】米中の狭間を生き抜く 対米従属に縛られないフィリピンの安全保障とは

本書の編著者、猿田佐世氏は日米で弁護士資格を持ち「新外交イニシアチブ(ND)」というNGOを立ち上げた人だ。米軍基地問題での沖縄の声を米議会に伝え、外交・安保問題の提言なども行ってきた。今回、NDのアジア太平洋プロジェクトチームを率いて取り組んだのがフィリピンの米軍基地問題だ。

フィリピンは20世紀の初頭に米国の植民地とされ、独立後も米軍基地をやむなく認めてきたが、約30年前の1992年11月にすべて撤去させた。

なぜできたかと言えば、その前年の9月16日に、フィリピン議会上院が、米軍基地を存続させる新基地条約の承認を拒否する決定をしたからだ。決定の背後には独立と民主主義を求める長い国民のたたかいがあった。当時、私は「赤旗」マニラ特派員であり、米・比双方からくる強い圧力のなか「ノー」をつらぬいた上院のたたかいが今でも脳裏に焼きついている。

その後のフィリピンの変化について、猿田氏ら5人が多様な側面から客観的データを踏まえ分析していて、説得力がある。

元米軍基地を民間転用して、雇用を増やしていることなど、米軍基地撤去の効果は明らかだ。が、本書の最大の特徴は外交・安全保障分野での検証だ。

端的に言えば、フィリピンは中国の横暴と対峙しながらも米軍基地を復活させず、比米相互防衛条約という軍事同盟を破棄することもせず、国民の利益を守る「自主的外交政策」という憲法原則を守ってきた。猿田氏がいう「対米従属に縛られない」「したたか」な外交だ。加盟するASEAN(東南アジア諸国連合)への言及も重要だ。ASEANは「米国か中国か」の選択を迫る大国の動きを拒否し、ASEAN主体の紛争の平和解決という流れを強めている。

こうした動きの対極にあるのが日本だ。「日米安保の絶対視」が外交・安保の「国民的議論」を妨げているという指摘には、私も深く共感する。

評者 松宮敏樹 ジャーナリスト

2022年1月9日『しんぶん赤旗』