主権を放棄し対米従属する 歪みが日本全土へ拡大【書評:中野晃一氏】

『世界のなかの日米地位協定』(田畑書店)

岸田政権が昨年末安保3文書を閣議決定するのに先んじ「政策提言 戦争を回避せよ」を公表したシンクタンク「新外交イニシアティブ(ND)」の編集による最新刊。

「世界のなかの日米地位協定」の書名が示す通り、本書は国際比較の視点から、日本の対米従属という異常な歪みを日米地位協定に焦点を置いて明らかにしている。

日米安保条約が1960年に改定された際に表裏一体となって締結されて以来、一度も改定されずに今日に至る地位協定の全文を含め、さまざまなデータや資料、問題事例がわかりやすくまとめられている。

対米従属の歪みが沖縄をはじめ日本国内の深刻な課題として、PFASによる重大な環境汚染被害など、今もなお経験されつづけているが、その根源が地位協定にあることが、否応なく読者に突きつけられる。これは私たちが日本の主権者として知らなくてはいけないことなのだ。

監修者である前泊博盛と猿田佐世の巻頭言やまとめの対談が私たちに問うのは、憲法も国内法も民主的統制も利かない、主権放棄の対米従属の実態を「沖縄問題」として 見て見ぬふりをしてきた本土メディアや日本国民の欺瞞と怠慢である。

米軍の駐留する他国で認められている国内法の原則適用や地位協定の改定が一度もできないのは日本の民主主義の不在と法治国家の空疎が原因だからである。

「沖縄のことだから」と看過してきた日本の民主国家、法治国家としての自己決定権の喪失が、安保法制に続く安保3文書の改定で、今や日本全土で実感される事態に入った。遅くに失したとは言え、まずは本書で学び知ることである。

中野晃一(上智大学教授)

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