【沖縄タイムス】辺野古削除が持つ意義 米国防権限法を変えた沖縄の力

「辺野古削除が持つ意義 米国防権限法を変えた沖縄の力」
新外交イニシアティブ 猿田佐世

151005沖縄タイムス猿田論考

米議会で審議中の国防権限法(2016年度)から「辺野古が唯一の選択肢」との条文が削除された。国防権限法は米国の軍事予算を決めるために毎年作成される法律である。上下院で異なった法案を審議する米国では、本年5月に「辺野古が唯一」との条文を入れた法案を下院が、6月には同条文の入らない法案を上院が通過させ、6月末以降、両院協議会にて法案のすり合わせ作業を行っていた。

「議会の認識」を表明するという内容であったため、そもそも同条文は法的拘束力を厳密な意味で持つものではなかった。しかし、米国からの外圧に弱い日本においては少なくない意味があるためこの条文を取り除きたいとこれまで働きかけてきた。

我々の調査では、この条文は、グアム選出の下院議員がグアムでの基地建設推進のために提案したものであり、「米議会からの沖縄に対してのメッセージ」であった。米国の国内法であるのにペンタゴンに対してではなく沖縄に対してのメッセージだとするところに特徴がある。

もっとも、実際は、下院が同条文を含めた法案を通過させた後に面談した下院議員や下院補佐官のほとんどはこの条文の存在すら知らず、同条文を外すようにとの沖縄からの働きかけにも、条文の存在の確認から入る始末であった。逆に、この条文追加に関わる議員事務所が頻繁に日本政府とやり取りをしている状況もうかがわれ、「米議会からの沖縄に対してのメッセージ」が生み出されようとした背景についてはさらなる調査・分析が必要であろう。

これまで、この文言を取り除くためのロビーイングを、沖縄の国会議員、首長、県議、経済界等の方々が展開してきた。精力的に働きかけた皆様の努力と、また変化を可能にしたオール沖縄全体の力強さに敬意を表したい。この条文の削除によって直ちに日米合意が変更されるものではないが、法案に残った際のインパクトや、そして、沖縄からの働きかけで米国の法案を変えさせたという事実をみれば極めて重要な第一歩であったと評価したい。

過去には、海兵隊グアム移転予算の凍結により辺野古基地建設を間接的に止めたともいわれる国防権限法である。辺野古以外の選択肢の検討を求める条文の挿入のために、さらに働きかけを続けたい。

効果的なロビーイング等、米国への働きかけは簡単ではない。議員等働きかけ先のバックグラウンドや見解の変遷、過去の沖縄についての発言・面談歴についての分析を前提に、現時点での米国での政治状況も踏まえて働きかける必要がある。辺野古の現場が緊迫する今、これに多くを割くことも困難だが、時機を逃さず、的を絞った適切な働きかけを行いたい。