【週刊朝日 174面】

 沖縄基地問題も吹っ飛ぶ!? トランプ氏「米軍撤退」発言の波紋

あの“お騒がせ男”が、今度は日本に噛みついてきた。米大統領選の共和党候補者指名争いで目下のところ優位に立つ実業家ドナルド・トランプ氏。その言動が波紋を呼んでいる。

米メディア幹部との会談で「我々が攻撃されても日本は何もする必要がないのに、日本が攻撃されれば米国は全力で防衛しないといけない。これは極めて一方的な合意だ」と発言。現在、日本が約7割を負担する在日米軍の駐留経費についても「なぜ100%でないのか」と不満を漏らした。日本が負担を増額しない場合、在日米軍を“撤退”させることまで示唆したのだ。

トランプ氏はどういうつもりなのか。元外交官の孫崎享氏がこう解説する。

「トランプ氏の発言は日米同盟への無知からきていると思われます。在日米軍は日本の防衛のためというより、米国の世界戦略のために駐留している。例えば横須賀はインド洋までカバーする第7艦隊の母港。日本が『どうぞ撤退してください』と言えば、本当に困るのは米国側です」

仮にトランプ氏が大統領になり本当に在日米軍撤退を実行すれば、「ひょうたんから駒」で、暗礁に乗り上げている沖縄の米軍普天間飛行場の辺野古移設は問題そのものが消滅する──なんてことにならないものか。だが、基地問題の解決のため米国でロビー活動を展開するシンクタンク「新外交イニシアティブ」の猿田佐世事務局長はこう語る。

「米国の対日外交の主導権はワシントンのごく少数の『知日派』が握っている。彼らの基本方針は日米同盟の重視と在日米軍の維持。その状況下でトランプ氏が大統領になっても、トランプ氏にとってこの問題の優先順位が高くないため、現在の知日派が日米外交に影響を及ぼし続ける可能性が高い。また、軍の意向が強く反映される議会を通すのも困難です。強権を発動して大きな政策変更をするとは考えづらい」

結局、辺野古の問題は日本側から対案を示して地道に米国と交渉していくしかないようだ。“他力本願”、しかもよりによってトランプ氏に期待するなど、もっての外なのである。

(本誌・小泉耕平)
※週刊朝日  2016年4月15日号