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【中之島クロストーク ゲスト猿田佐世さん】(朝日新聞 5/1)
政治学者の白井聡さんがホスト役を務めて対談する「第13回 関西スクエア 中之島クロストーク」(朝日新聞社主催)が4月9日、大阪市北区の中之島フェスティバルタワーであった。米国でロビー活動を実践するシンクタンク「新外交イニシアティブ(ND)」事務局長の猿田佐世さんをゲストに迎え、日米外交やロビー活動の実態について語り合った。
NDは2013年、日米外交に日本の幅広い声を反映するため、情報発信や政策提言を行うシンクタンクとして発足した。沖縄県の米軍基地問題をめぐり、名護市長や国会議員らが米政府・議会に直接訴えかける場を準備するほか、米メディアに記事の掲載も働きかける。
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ワシントン拡声器
猿田さんによると、日本政府や大企業は、知日派の所属する米国のシンクタンクや大学のほか、弁護士や元議員らの所属するロビイスト事務所に資金提供を続けている。日本がワシントンで世界一多くのロビイストを雇ってきたとの現地の研究報告もある。知日派などから日本側が望む政策の追い風となる発信をしてもらうことで「外圧」をつくり出し、自らが望んだ政策を日本国内で実現してきた日米間の特殊な構図がある。猿田さんは、このような仕組みを「ワシントン拡声器」と命名した。
共和党のブッシュ政権で国務副長官を務めたアーミテージ氏や、民主党のクリントン政権で国防次官補だったナイ氏ら、知日派と呼ばれる一部の人が日米外交に影響を及ぼしているのが実情だ。猿田さんは「対日外交に影響力を及ぼす知日派は多く見積もって30人」。白井さんも「日本政府や財界が多くのロビイストを雇う一方、米国側は一部の人が関心を持つだけで事足りる」と述べ、相手国に対する日米間の温度差を指摘した。
深くなるアリ地獄
また、猿田さんは「米国側は日本を御しやすいと考えている面がある」とも指摘。「日本政府関係者は『提供した資金が米国での日本政府の政策の理解につながる』と言い、資金提供を含めたこのような仕組みの問題点には目を向けない」と述べる。白井さんも「日本がカネを出せば出すほど、米国には都合の良い存在になる、アリ地獄みたいな構造」と表現した。
トランプ政権下で、多くの知日派は政権内部に入っていないようだ。猿田さんは大統領就任後初の日米首脳会談でも、米国の知日派を含む既得権益層と日本政府がトランプ氏に働きかけた結果、安全保障について関係の継続が確認されたと推測する。「今後も(ワシントン拡声器の仕組みが)日米双方から推進され、既存の外交はなかなか変わらないのでは」
沖縄海兵隊「米本土から行けば」
会場からは日米外交についての質問が多く寄せられた。
沖縄・辺野古への米軍基地移転の是非をめぐる質問について、猿田さんは米海兵隊の役割を説明。仮に中国や北朝鮮との有事に際しても、初動は嘉手納基地などに駐留する空軍や、横須賀基地などを拠点とする海軍の対応となる。沖縄の海兵隊の役割はその後、と指摘。「海兵隊は沖縄からではなく、米本土やグアム、オーストラリアなどの地から赴くことでも構わない。米国の知日派の柔軟な意見などを聞くと、辺野古に固執しているのは米政府よりも日本政府だと確信している」と述べた。
また、米国での日本メディアの活動についての質問に対し、猿田さんは「ホワイトハウスや国務省などが次々に発表する情報はいずれも重要なため、非常に慌ただしく、独自に調査報道をする余裕はないのでは」と述べ、ワシントン発の日本メディアの記事が画一的になりやすいとの見方を示した。