<原発のない国へ 基本政策を問う>(5)核燃サイクル成算なし

【<原発のない国へ 基本政策を問う> (5)核燃サイクル成算なし】 (東京新聞7/18)

都心から北東へ約百五十キロ。ヘリコプターから見下ろすと、倉庫のような建物が並んでいる。茨城県東海村にある日本原子力研究開発機構の燃料施設は、民家や畑に囲まれていた。

施設のどこかに、三・八トンのプルトニウムがある。核爆弾約五百発がつくれる量。国際機関の査察官が毎月訪れ、放射線防護やテロ対策で巨額の費用がかかっている。
日本は国内外に、核爆弾六千発に相当する計四十七トンのプルトニウムを保管する。その量は、二十五年前の五倍に増えた。

政府は、原発の使用済み核燃料からプルトニウムを取り出し、再利用する「核燃料サイクル」構想を進めている。だが、国民から電気代や税金で集めた十三兆円を、プルトニウムを燃料にする高速増殖原型炉もんじゅ(福井県)や再処理工場(青森県六ケ所村)などに投じながらも、構想実現のめどは立たない。

唯一の被爆国として核廃絶の理想を掲げながら、核兵器の材料をため込む日本に、海外の視線は厳しい。

「日本はわれわれに懸念を与え続けている。(東アジアでの)核拡散に加担しかねない」。今年二月、米上院が安全保障担当の国務次官としてアンドレア・トンプソン氏を承認するかどうかの公聴会。民主党のエド・マーキー議員が切り出した。トンプソン氏は「この問題を必ず掘り下げる」と約束し、承認された。

米国の念頭には、北朝鮮がある。プルトニウムをためる日本を引き合いに、「われわれも身を守る核が必要」と抵抗されれば、核兵器を放棄させる妨げになると警戒している。

米国の懸念を解消しようと日本政府はエネルギー基本計画に「プルトニウム保有量の削減に取り組む」との文言を加えた。もんじゅに代わり、フランスが開発する高速炉「ASTRID(アストリッド)」に望みをかけ、共同開発費を負担する計画だ。

ところが、このもくろみは風前のともしびだ。六月一日に東京・霞が関の経済産業省で開かれた、高速炉開発会議の作業部会。仏原子力・代替エネルギー庁の幹部、ニコラ・ドゥビクトール氏が「開発は緊急性を要しない。出力も縮小を検討している」と説明すると、官僚や三菱重工業幹部らの表情がこわばった。

「仏の原発業界は財政的に厳しく、アストリッドを従来のスピードで開発することに乗り気ではなくなった」。仏モンペリエ大のジャック・ペルスボワ名誉教授(エネルギー政策)が解説する。仏政府と業界はテロにも耐えられる新型炉を推進してきたが、福島事故後の安全規制強化で建設費は当初の三倍に。高速炉開発に資金を回せなくなった。

核不拡散問題が専門の米テキサス大のアラン・クーパマン准教授は「高速炉開発は、米英独など既にほとんどの国が断念。技術的に困難で、採算が取れないことがはっきりしてきた」と明かした。日本の原発政策は成算のないまま、逆風の中を進もうとしている。(伊藤弘喜、パリ・竹田佳彦)

<エネ計画では>実現へ推進維持

エネルギー基本計画は、核燃料サイクルについて「推進を基本的方針」とし、実現を目指す政策の維持を明記した。日本は十七日に延長された日米原子力協定に基づいて、原発の使用済み核燃料から再処理で取り出したプルトニウムの再利用が認められている。

日本は大量のプルトニウムを保有している。しかし、本格利用できる高速炉の開発は進んでいない。ウランと混ぜた「MOX(モックス)燃料」を一部の通常の原発で使う「プルサーマル」は、プルトニウムを少量しか使えない。基本計画では「保有量の削減に取り組む」と明記しつつも、具体的には「プルサーマルの一層の推進」とするにとどまった。