“アメリカの声”とは~戦後70年にわたる日米の「共犯関係」!(1)
新外交イニシアティブ代表・弁護士 猿田 佐世 氏
2020年4月16日
アメリカは日本に対して圧倒的な影響力を有している。それは在日米軍の基地問題に限らない。原発などはもちろん、憲法や消費税など、一般には日本国内の問題と考えられる事項についても同様である。一方でアメリカは自由で多様な意見がある国といわれる。しかし、日本に伝わってくる“アメリカの声”には大きな偏りがある。それはなぜか。
シンクタンク「新外交イニシアティブ(ND)」代表・猿田佐世弁護士に聞いた。猿田氏はワシントンでのロビーイング経験から「日本政府や日本の既得権益層は“対米従属”の姿勢を表では装い、実は“ワシントン拡声器”を使って、自らの望む政策を推進している」と喝破する。
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トランプ大統領のご機嫌をとることが唯一の日米外交方針
――本日は「日米外交の新しい在り方」についていろいろと教えていただきたいと思っております。まず、2019年の日米外交を振り返り、年明けに勃発した「中東問題」についても言及いただけますか。
猿田佐世氏(以下、猿田) 2019年に限らず、安倍・トランプ外交についてお話します。トランプ大統領はアメリカ人からも予測不可能な人物といわれています。前回の選挙期間中には日本に対して「米軍駐留経費を全額日本が払わないと撤退する」と発言し、今は「現行の4倍の駐留経費を払え」と求めているとされています。安倍首相はトランプ氏の当選時から「今の日米外交はすばらしいので、変えないでくれ」とのメッセージを送り続けています。そして「トランプ大統領のご機嫌をとる」ことが、安倍政権の唯一の外交方針になっており、ひたすらご機嫌を取り続けています。
トランプ大統領は昨年5月(25日~28日)令和初の国賓として来日、異例に長い3泊4日も滞在しました。安倍首相はゴルフや大相撲観戦などで大歓待し、日米関係の親密ぶりをアピールしました。しかし、米国の主要メディア(※)は過剰な「おもてなし外交」を一蹴しています。
※「安倍首相、おべっかの積み上げ、結果はいかに?」(ニューヨーク・タイムズ)
「日本のリーダーは、最も大切な同盟関係を維持するためなら、やれることは何でもやるとみられている」(ワシントン・ポスト)など。
莫大な国民の税金を使った効果はあったのでしょうか。その1カ月後、米メディアは「トランプ大統領が日米安全保障条約を破棄する可能性について側近に漏らしていた」との記事を掲載しました。安倍首相は大いに落胆したことでしょう。
2018年、日本は米国製の防衛装備の最大の買い手となった
トランプ氏はメキシコ国境に壁を立てたり、女性差別発言を繰り返すなどし、自国内からはもちろん、欧州など諸外国の首脳からも批判が絶えません。その点、安倍首相は一言も批判しません。トランプ氏にとって安倍氏は、自分を100%容認してくれる居心地がよい存在だと思います。
しかし、自衛隊のニーズにも合わない戦闘機や防衛装備を大量に購入するなどの安倍首相の行為は日本の国益を損ねています。昨年5月、トランプ大統領は訪日の際に安倍首相と共同記者会見を行い、その場で「2018年、日本は米国製の防衛装備の最大の買い手となった。F35ステルス戦闘機を105機購入し、米国の同盟国のなかで日本が最大のF35保有国となる」と語りました。
アメリカでは政治的意見や情報が完全に二分されている
「中東問題」では、年明け早々の1月3日に米国がイラクにおいてイランのソレイマニ司令官を殺害し、それに対してイランによる在イラクの米軍基地への報復攻撃がありました。一触即発、戦争か、といわれる状況になり、1月9日にワシントン訪問を予定していた私は渡米するかどうか迷いましたが、悩んだ結果ワシントンに飛びました。「多くの米兵がソレイマニ司令官のために犠牲になった」と考えていたとしても、他国イラクの領土内で、イランの司令官を突然殺す行為は、テロリストと批判されても仕方がない行為です。イラクの人々も自国内での殺害に怒りを表明していました。
アメリカでは民主党を中心に「ひどいではないか」という意見と共和党を中心に「よくやった」という意見にわかれていました。とくにトランプ大統領になってから、アメリカでは政治的意見や情報が完全に二分されており、トランプ支持者が接する情報と反トランプの人々が接する情報がまったく異なります。写真などで明確な「事実」とわかるものでも、トランプ大統領は「オルタナティブ(既存のものに取ってかわる新しい)ファクト」と恥も外聞もなく言い放ちますし、それを信じる人もたくさんいます。
トランプ大統領就任当時には、共和党のなかにもさまざまな意見がありましたが、現時点では、共和党議員のほとんどが「トランプでないと選挙に勝てない」とトランプ大統領べったりになっています。
(つづく)