米議会 新基地に疑義 軟弱地盤対策納得せず

【平安名純代・米国特約記者】米下院軍事委員会の即応力小委員会が可決した国防権限法案に、名護市辺野古の新基地建設予定地の大浦湾の軟弱地盤に関する懸念が初めて明記された。埋め立て承認後、日米両政府による現行計画を前提としてきた米議会が、同計画が抱える「問題」を初めて明確に認めた意味は大きい。

マティス元国防長官の在任時、新基地問題に関わった元米政府高官は24日、本紙の取材に「2018年に日本側から、大浦湾の軟弱地盤や海底部の50メートルの落差や活断層の存在などに関する説明を受けた」と明かし、こう付け加えた。「改善策について、納得のいく説明は得られなかった」。その後も懸念は払拭(ふっしょく)されず、問題は未解決のまま棚上げとなっていたと経緯を説明した。

上院軍事委の有力議員によると、国防総省は議会に「軟弱地盤の問題は日本が対処している」とし、問題はないとの認識を伝えているという。

今回、法案を可決した下院軍事委即応力小委の議員は「基地を使うのは米軍。米国の基準を満たす必要がある」と述べ、日本が作成したデータを米側専門家が検証する必要性を強調する。

一方、地盤改良で懸念が解決されるかについては言葉を濁し、12月1日を期限とした国防長官の報告書を精査したいとの意向を示した。軟弱地盤を巡る米議会と沖縄の認識には大きな差があるが、県ワシントン事務所や沖縄系米国人らが有力議員らに地道な働き掛けを続けている。

民主党上院トップのチャック・シューマー院内総務は今年2月、選挙区に住む沖縄系米国人の要請に、辺野古移設計画は「環境そして人道的見地から厳しく批判されたものであり、批判は今後も続くだろう」との認識を示している玉城デニー知事は24日の談話で、シューマー氏の指摘を引用して意義を強調した。

延びる工期 膨らむ費用

名護市辺野古の新基地建設で、大浦湾側の軟弱地盤は、護岸を整備する区域のうち最深の地点で水面下90メートル(水深30メートル、地盤60メートル)に達する。防衛省は同地点の水面下70メートルより深い土層は「非常に硬い」と説明してきたが、河野太郎防衛相は2月、水面下約77メートルまで及ぶと認識を修正した。

ただ、70メートルまでの地盤改良で護岸の安定性を確保できるとして改良工事計画を策定し、専門家でつくる技術検討会の了承を得た。沖縄防衛局は4月21日に県へ設計概要などの変更を申請し、県が審査している。県の承認を受けた後の工期を12年と見込み、事業費は当初3500億円の2・7倍の9300億円に膨らむ。

改良工事は約66ヘクタールの範囲で、砂杭(ぐい)4万7千本、植物などを素材とする板2万4千本を打ち込む。防衛局の助言機関「環境監視等委員会」は4月、環境への影響について「計画変更前と比べて同程度か、それ以下」とする防衛局の説明を受け入れた。

「マヨネーズ並み」といわれる軟弱地盤の存在は2018年3月、沖縄平和市民連絡会の北上田毅氏の情報開示請求で判明した。地盤工学の専門家は、改良工事後も地盤沈下の恐れがあると懸念を表明。地質学の専門家は埋め立て予定地周辺に活断層があるとみられ、地震を引き起こす可能性があると指摘している。

沖縄県側 訴えの成果強調「情報発信 強化続ける」

米議会下院の小委員会で、名護市辺野古の新基地建設への懸念を盛り込んだ国防権限法案が可決されたことに、県庁内からは県側の訴えが米側に届いていると捉え、評価する声が上がった。成立までには複数の手続きによるハードルが残っており、継続して米側に働き掛ける構えだ。

県幹部は軟弱地盤や、ジュゴンなどの環境保護、活断層の存在などに対し懸念が示されていると強調。「どれも県側が訴えてきたことだ。県の主張が、しっかりくみ取られたということではないか」と歓迎した。

「県ワシントン事務所による働き掛けも、可決につながった」と述べ、米国に拠点を置いた成果とも話した。

法が成立するには、軍事委員会や本会議での採決などの手続きが残る。日本政府は有識者の意見も踏まえ「工事は可能」と主張しており、国防総省がどう報告書に反映させるかは未知数だ。

別の県関係者は「今後も米側に正確な情報が伝わるように、発信を強化しないといけない」と気を引き締める。米側の報告書に、県が主張している内容が反映されるよう訴える必要性を指摘した。

防衛省関係者 冷静に「特に影響ないのでは」

【東京】名護市辺野古の新基地建設で問題となっている軟弱地盤を巡り、米下院の委員会が建設継続に懸念を示す法案を可決した。米議会の動きが新基地建設に与える影響について、防衛省関係者は、詳細を知らないと前置きした上で「特に影響はないのでは」と冷静に受け止めている。

軟弱地盤は水面下90メートルに達すると指摘されているが、関係者は防衛省がかたくなに拒む「B27」地点の再調査を求めていないことに着目。工事を進める上で不安材料となる事項の詳細や評価、対処法について「単に報告を求めているだけ」(同省関係者)と理解している。

防衛省はこれまで、有識者でつくる技術検討会や環境監視等委員会を開き、工法や工事による環境への影響などについて議論を重ねてきた。いずれも委員からお墨付きを得ている。

こうした背景から関係者は、仮に米国が資料を求めてきても「移設計画や工事を止めるような話ではない。協力するだけだ」と影響を否定し、工事を進める考えを示した。

「工事中断するべき」 識者ら

米議会下院の小委員会が、名護市辺野古の新基地建設への懸念を盛り込んだ国防権限法案を可決したことに、問題を追及してきた識者からは工事の中断を求める声が強まった。

沖縄辺野古調査団の立石雅昭代表(新潟大学名誉教授)は、辺野古周辺海域に推定される活断層や深い谷地形の形成過程など「調査団が指摘してきた課題を的確に取り上げている。防衛省にとって大きな痛手になるだろう」と評価。「調査団としても引き続き、海底地盤に関する調査や解析を進めなければならない」と話した。

沖縄平和市民連絡会の北上田毅氏は情報開示請求で、軟弱地盤の改良工事などの設計は米側との協議が必要となっていることを突き止めている。その米側が懸念を示しており「国防総省の回答が出るまでは、沖縄防衛局は設計変更申請を撤回し、工事を中断するべきだ」と訴えた。

日米外交に詳しい新外交イニシアティブの猿田佐世代表は、昨年上院で可決した国防権限法案に、辺野古新基地建設を含む米軍再編の再検証を求める条文が入っていたにもかかわらず「日本政府はこの条文が最終的に残らないよう激しく米議会に働き掛けたと聞く」と指摘。

「軟弱地盤や活断層の問題を丁寧に調査することはどの立場から見ても正当である上、全国世論でも『辺野古反対』が過半数を占めている。外務省が今回の手続きを遮る行為をとらないよう強く求める」とくぎを刺した。

米側へ情報発信 強化の意向示す/プログレ議連の屋良氏

米下院の小委員会で、名護市辺野古の新基地建設に懸念を示す条項が盛り込んだ国防権限法案が可決されたことに、国政野党超党派「日本プログレッシブ議員連盟」事務局長の屋良朝博衆院議員は、米側への情報発信を強化する考えを示した。

同議連としてコメントを発表した。

屋良氏は1月に訪米し、軍事委員会の委員らに軟弱地盤などの問題点を指摘している。

法案可決に「米議員に直接アプローチした成果と受け止める。今後も情報発信を続け、政府の岩盤に風穴を開けたい」とし、米議会議員と連携して働き掛けを強める考えを示した。