<解説> 米連邦議会下院軍事委員会即応力小委員会で可決された国防権限法案に名護市辺野古新基地建設に関する記述が具体的に盛り込まれたことは、米国内でも新基地建設の実現性について懸念が高まっている証しだ。軟弱地盤の存在や活断層の疑い、環境への悪影響など、沖縄側が行政・識者・市民レベルで訴え続けてきたことが詳しく記されている。実際の法律に書き込まれるにはハードルがあるとはいえ、建設計画に大きな影響を与える可能性がある。
現在議論されている法案は2021会計年度(20年10月~21年9月)の国防計画や予算の大枠を決めるものだ。下院の軍事委員会で法案を策定するために六つの小委員会で話し合っている。そのうちの1委員会で辺野古新基地建設への懸念が盛り込まれた。
今後、軍事委員会全体での取りまとめを控え、最終的には上院との文言調整もある。審議の過程で表現が変わったり、削除されたりする可能性もある。現時点で上院の法案には沖縄に関する記述はない。ただ、小委員会の案に具体的に記されたことにより米国での議論を喚起する契機になりそうだ。
玉城デニー知事は昨年訪米した際、軟弱地盤や活断層の問題に力を入れて説明した。基地建設が困難である事実を並べることで、計画断念が沖縄だけでなく米国にとっても有益だと説得する意図があったとみられる。
日本国内では地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の配備中止が辺野古新基地の問題に波及し、建設断念や計画見直しを求める声が相次いでいる。米国側の懸念が強まれば、計画断念を安倍政権に迫る意見が一層強まりそうだ。
(明真南斗)
識者談話 国防総省対応に注視必要
猿田佐世氏(新外交イニシアティブ代表)
大浦湾海底の軟弱地盤や活断層についての調査要求が、国防権限法案の委員会報告に盛り込まれたのは大きな成果だ。法案の法的拘束力のある文言に記されたものではないが、一般的には議会からの指示として行政府は尊重する。
委員会報告は本会議での審議過程で変更されるものではないが、この報告が、今後の委員会や上下院本会議などで進められる同法案の審議でどう取り扱われ、その後、国防総省がどう対応するかは注視が必要だ。
2020会計年度国防権限法(2019年10月~20年9月)では、元の上院案に米軍再編計画を再検証せよとの条文が盛り込まれた。だが、上下院合意後の法案では国防長官に報告を求めるものの「日本政府の同意がない限り変更を検討してはならない」との強い付記が加えられた。日本政府の米議会への強い働き掛けがあったとも聞く。
日本政府自身も軟弱地盤を含め調査はきちんと実施すべきである。外務省には今回の手続きに横やりを入れるような米国への働き掛けはくれぐれも慎んでほしい。
知事「訪米活動の成果」
米連邦議会下院軍事委員会の即応力小委員会で国防権限法の案に名護市辺野古の新基地建設の実現性を懸念する記述が盛り込まれたことを受け、玉城デニー知事は「訪米活動の成果だ」とする声明を出した。「米国議会でも新基地建設に対する現実的・将来的な懸念が広がっている」と強調した。
玉城知事によると、米上院議員のチャック・シューマー院内総務(民主党)が辺野古移設を決めた日米両政府について「環境そして人道的見地から厳しく批判されたもので、批判は今後も続くだろう」との認識を示した。「世論の流れとワシントン駐在員が委員との信頼関係を構築し、フォローアップし続けた」と説明した。
玉城知事は「今後成立までに軍事委員会、本会議での採決など、いくつかのハードルがある」とした上で、ワシントン駐在員を活用した情報発信や県系米国民との連携で「引き続き米国での問題提起と行動に取り組んでいく」と述べた。
過去にも沖縄の記述 国防権限法案 最終案で削除
【与那覇路代本紙嘱託記者】
国防権限法案を巡っては過去に2回、沖縄関連の記述が入ったことがある。米国の法案作成は日本と異なり、上下両院がそれぞれ法案を提出し、相違点があれば協議して一本化する。過去の沖縄の記述はいずれも両院協議の末、最終案から削除された。
2015年は下院案に「名護市辺野古への移設が唯一の選択肢」と明記された。上院案にはなく、両院で協議し、最終案から「辺野古が唯一」の文言は省かれた。
19年には上院案に「沖縄、グアム、ハワイ、オーストラリアなどの米軍の配置計画を再検証しなければならない」と盛り込まれた。さらに地元住民の政治的評価や計画の総事業費の検証を国防長官に求めるなどの項目も並んだ。下院案にこのような項目はなく、両院ですり合わせた末、最終案から削除された。
15年は「辺野古が唯一」の削除を求める沖縄の要望が通ったが、19年の「米軍再編の再検証」の堅持の要望はかなわなかった。
両院の折衝の詳細は明らかにされない。舞台裏では、日本政府を巻き込んださまざまな駆け引きがあったとみられる。
今回、小委員会で可決した法案は今後、軍事委員会、下院本会議などに上がっていく。最終案までたどり着くのは簡単ではない。
国防権限法案は会計年度が始まる10月1日前に成立しなければならない。今年は11月に米大統領選を控えているため、成立まで長く時間をかけないとみられる。