米国の「同盟強化」が進んでいる。トランプ政権は日韓に多額の米軍駐留経費を求め、北大西洋条約機構(NATO)離脱をほのめかすなど「同盟を軽視している」と言われてきたが、米中対立が激化する中、7月には、ポンペオ国務長官が演説で中国共産党を辛辣に批判した上で「民主主義国による対中同盟」の形成を呼びかけた。
他方、「同盟強化」は大統領選における民主党陣営のキーワードでもある。現政権の外交政策批判の中心に同盟関係の悪化を据え、8月に出された民主党綱領でも同盟強化を謳った。「バイデン政権」の国防長官候補とされるミシェル・フロノイ氏も、「アジアにおける戦争を防ぐには」との論文で、中国を抑え込む手段として同盟国やパートナー国との関係強化を訴えている。予測不能なトランプ氏のふるまいから、日本にはバイデン氏勝利を期待する人も多いが、バイデン氏が当選しても「地域の安全保障に、より大きな責任と公平な負担を払うよう同盟国に促す(党綱領)」方針であり、程度の差はあれ、駐留経費増額も含め日本への要求は強まる見通しである。
すなわち、大統領選の結果にかかわらず、米国が日本を含む同盟国へ「協力」を求め、要求を増やしていくことが強く予想される。
この流れの中、今月6日、日米とオーストラリア、インドの4カ国外相会談が東京で開催され、冒頭にポンペオ氏は「4カ国が連携し、国民を中国共産党の腐敗や搾取、威圧から守る」と述べ、会合の狙いが中国けん制にあると明言した。豪印にも中国との経済関係等それぞれの事情があり、米国の狙い通りに直ちに中国包囲網になるものではないが、この4カ国外相会談の枠組みの定例化も決定され、中国は反発している。
この点、米中対立の主戦場ともいわれる東南アジアでは、現在、各国から「Don’t make us choose(選択させないでくれ)」との悲鳴が上がっている。9月の東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議は、米中対立が軍事的レベルにまで高まっていることについて議論が行われたと示唆し、「ASEANは地域の平和と安定を脅かす争いにとらわれたくはない」と自制を促すメッセージを発した。
また、シンガポールのリー・シェンロン首相は、米誌への寄稿で、「アジア諸国は、アメリカはアジア地域に死活的に重要な利害を有する『レジデントパワー』だと考えている。だが、中国は目の前に位置する大国だ。アジア諸国は、米中のいずれか一つを選ぶという選択を迫られることを望んでいない」と米中を強烈にけん制している。米中いずれを選んでもマイナスが大きすぎるので、そもそも「選べ、という場面をつくるな!」というはざまにある国の悩みを端的に示している。中国と領土問題を抱えるフィリピンも、米国に訪問米軍地位協定の破棄を通告(現在は保留中)するなど、したたかにバランスをとっている。
「日米同盟強化」そのものが安倍政権の外交指針であったことに表れるように、「米中いずれを選ぶか」という問いが一笑に付されるような状況が日本にはある。菅政権は前政権の政策を引き継ぐとされ、同盟強化の掛け声のもと、敵基地攻撃能力の保有が目指され、年末にも防衛計画の大綱が改定予定であるが、これらは中国を主たるターゲットとしてなされている議論である。
軍事力を強化し対外積極策に出る中国への対応は大変難しい問題であるが、東南アジアの国々の悩みは明日の日本の悩みである。日本の安全保障環境の改善のために日本が今一番になすべきは、敵基地攻撃能力を導入して「ブロック」間の対立をさらに激しくすることではなく、米中対立の自制を米国に求め、また、世界中の「Don’t make us choose」と叫ぶ国々と連携して国際法の順守や緊張緩和に向けた米中への働きかけを国際社会全体でできるようイニシアティブをとることである。