「原発漂流」第5部 現と幻(5)疑念/再処理の稼働 米国注視

1月20日、米国のバイデン大統領が就任演説で真っ先に触れた先達は、日本の原子力開発の天敵だった。 「カーター元大統領の生涯の功績に敬意を表する」
1970年代後半、核不拡散政策を売りにしたカーター政権は日本での使用済み核燃料再処理に一貫して否定的だった。再処理は核爆弾の原料にもなるプルトニウムを生むためだ。難交渉の末、自由な再処理を可能とする日米原子力協定が88年に発効した。
「バイデン大統領はオバマ元大統領の『核なき世界』を究極目標として引き継ぐとしている。青森県六ケ所村の再処理工場の稼働が現実味を帯びれば、2018年の時のように懸念が高まることも予想される」。日米外交のシンクタンク「新外交イニシアティブ」の猿田佐世代表が言う。
18年は協定の期限。改定を巡り、米国は日本の核燃料サイクル政策に疑いの目を向けた。
「プルトニウムを既に48トン保有し、それを消費する原発は止まっている。アジアでの核拡散を招きかねない」。米議会の実力者、エドワード・マーキー上院議員は18年2月、上院外交委員会の公聴会で不信感をあらわにした。

 原発でプルトニウムとウランを混ぜた酸化物(MOX)燃料を使うプルサーマルはサイクル政策の柱で、現時点でプルトニウムの唯一の消費方法だ。東京電力福島第1原発事故前でも実施は4基にとどまり、電力業界が目指す16~18基への導入は夢物語に近かった。
非核兵器保有国で日本のみに認められていた再処理の特権に対し、日本と同じく米国の同盟国である韓国などから「不公平」の声が上がった。米有力紙ニューヨーク・タイムズも六ケ所村の再処理工場の行く末を懐疑的に報じた。
協定は18年7月に自動延長されたが、日本の余剰プルトニウムへの懸念は消えない。米議会下院のエド・ロイス外交委員長らがポンペオ国務長官に宛てた書簡で「(保有量が)商業ベースを圧倒的に超え、核拡散リスクがある」とくぎを刺した。

 内閣府によると19年末の日本の保有量は45・5トン。国際原子力機関(IAEA)は8キロで核爆弾1発が作れるとする。単純計算で約5700発分の核爆弾に相当する。
22年度上期に完成予定の六ケ所再処理工場がフル稼働すれば、年約7トンが新たに生じる。プルサーマル実施は今も4基のみで消費量は18年に約1・5トン、19年は0・2トン程度。原子力規制委員会が審査中のプルサーマル予定原発が全て合格しても計8基にとどまる。
国の原子力委員会は「利用目的のないプルトニウムは持たない」との原則を掲げる。現状は「利用目的」が意味するところを巡り、さまざまな臆測が渦巻く。
米国や英国の公文書などを基に、核武装を巡る日米英の秘史を描いた著書がある早稲田大社会科学総合学術院の有馬哲夫教授は「プルトニウムを保有して核兵器を持つポテンシャル(潜在的可能性)を維持することは、日本政府の選択肢の一つとしてある」とみる。