米中対立の緩和 日本が導け[ND新提言 抑止一辺倒を越えて](上)

シンクタンク「新外交イニシアティブ(ND、猿田佐世代表)」は3月、外交安全保障全般にわたる政策提言を初めてまとめた。沖縄の過重な基地負担は「日米同盟の最大の不安要素」と指摘している。さらに日米軍事一体化が進み、米中の戦争に巻き込まれるという「同盟のジレンマが現実化する危険が増大している」と強調。日本が軍事的な技術論に傾斜することに警鐘を鳴らした。執筆者でND代表の猿田氏と中京大学教授の佐道明広氏、防衛ジャーナリストの半田滋氏に寄稿してもらう。

新外交イニシアティブ(ND)は先日、安保提言書「抑止一辺倒を越えて-時代の転換点における日本の安全保障戦略」を発表した。中国が力をつけるにつれ、日本では軍事力強化の大合唱で、対話から平和をつくり出そうという声はかき消されている。

毎年過去最大の防衛予算が組まれる中、相対的に力を落とす米国からは中国と対峙(たいじ)するためのさらなる貢献を強く求められている。今後、自衛隊は、さらなる増強を求められ、米軍の戦略にますます組み込まれていく。

菅義偉首相は、日米首脳会談で、日本が米国と一体となって中国と対峙する姿勢を明確に示した。クアッド(日米豪印)の軍事連携が地域の中心的枠組みと高く評価され、英仏独なども西太平洋地域に艦艇を派遣し、日米との共同軍事訓練なども具体化されている。

他方、米中ブロック対立が急速に進む中、「主戦場」ともいわれる東南アジアでは、各国から「Don’t make us choose(〔米国か中国かの〕選択をさせないでくれ)」との悲鳴が上がっている。もっとも経団連の中西宏明会長が「(米中間で)踏み絵を踏まされても困る」と述べるように、冷静に考えれば日本も同じ立場にある。

今回の提言書は、日本の喫緊の課題を「米中対立の緩和」であると据え、対立から協調に導く役割を日本が果たさねばならないと訴える。戦争となれば日本、その中でも特に沖縄には甚大な被害が生じる。「戦争に巻き込まれない」努力が必須である。

また、クアッドやFOIP(自由で開かれたインド太平洋)といった多国間協力は日本の安全保障にも有用ではあるが、その連携は、対中封じ込めではなく、中国も含めた形での協調的安全保障を志向せねばならない。

提言は「日本の発信力の源泉としての『唯一の戦争被爆国』であること、憲法第9条を持つ『非戦の国』であることを活かし、多国間枠組みの創設とその活性化を目指すべきである」と締めくくっている。

さらなる軍事貢献を日本に求め続けてきた「アーミテージ・ナイ報告書」が日本ではあまりに影響力があるが、独立国であり民主主義国である日本には、独自の、そして、それと異なる立場からの提言が必要である。(提言書のURLはhttps://www.nd-initiative.org/research/9413/

猿田佐世(さるた・さよ)

新外交イニシアティブ(ND)代表/弁護士(日本・ニューヨーク州)。沖縄の米軍基地問題について米議会等で自らロビーイングを行う他、日本の国会議員や地方公共団体等の訪米行動を実施。研究課題は日本外交。基地、原発、日米安保体制、TPP等、日米間の各外交テーマに加え、日米外交の「システム」や「意思決定過程」に特に焦点を当てる。著書に、『自発的対米従属 知られざる「ワシントン拡声器」』(角川新書)、『新しい日米外交を切り拓く 沖縄・安保・原発・TPP、多様な声をワシントンへ』(集英社)、『辺野古問題をどう解決するか-新基地をつくらせないための提言』(共著、岩波書店)、『虚像の抑止力』(共著、新外交イニシアティブ編・旬報社)など。