研究・報告

巖谷ND事務局長が参院選ネット番組に出演

番組の概要

新外交イニシアティブ(ND)の巖谷陽次郎事務局長が13日、「畠山澄子が問う 社会を変える争点はこれだ~2025参院選~」に出演しました。ピースボート共同代表の畠山澄子さんの司会進行で番組は進められました。巖谷事務局長は番組開始直後の外交安全保障(沖縄、核兵器、中東・ガザ)の分野で登場し、トランプ政権の再登場によって変容の兆しを見せる日米同盟と、沖縄の状況について語りました。

※番組アーカイブ動画はこちらからご覧いただけます
https://www.youtube.com/live/1e_MmKeANak

各テーマでの巖谷ND事務局長の発言

日米関係の変化と防衛費増額

巖谷事務局長はNDの紹介をした後、最近の日米関係の変化を取り上げました。「トランプ大統領から今年3月、『我々は日本を守らなければならないが、日本は我々を守る必要がない。これは誰が作ったディールなんだ』と日米同盟への不満が出された。同じ3月、ヘグセス国防長官が台湾を念頭に『有事に直面した場合、日本は最前線に立つ』と日本に要求してきた。加えて、コルビー国防次官も6月、日本の防衛費を再来年までにGDP比3.5%まで上げるよう要求してきた上、数日前には日本とオーストラリアに対して『台湾をめぐって米中の軍事衝突が発生した場合の〝役割を明確化〟するように要求してきた』。つまり、もっと積極的に関わるように求めてきたということだ」と説明しました。

こうした米国の対応について、「NATOは結局スペイン以外GDP比5%までの増額で合意したが、トランプさんは増額を要求した3月には『彼らが支払わないのだったら、私は彼らを守らない』と述べた。日本ではこれまで、日米同盟というと米国が守ってくれるという考えを持っていた人も多かったと思うが、米国が守ることが当たり前ではなくなってきていることを認識する必要がある」と指摘しました。その上で「日本が肩代わりする形で防衛力を整えて『積極的に加担するように』ということを米国が再三再四訴えてきている状況がある」と付け加えました。

次に、参院選の候補者に読売新聞が行ったアンケートの結果(注1)を示して、各党候補者の防衛費の増減についての考え方について説明しました。自民と公明、国民、維新、参政の候補者には、防衛費をGDP比で2%程度、または2%より増やすと答えた割合が多数いましたが、これに対し、立憲、共産は防衛費1%、または1%より減らすと答えた候補者が多く、日経新聞の同様の調査(注2)ではれいわ、社民も減らすとの回答が多かったことを紹介しました。

巖谷事務局長は「(防衛費を)増やす方針の政党と、そうではない政党が如実に分かれた」と話した上で「再来年までに進められるGDP比2%への増額でも予算は11兆円となり財源が不足している。法人税やたばこ税は来年から上がることが予定されているし、所得税も防衛特別所得税という形で再来年から上げることが検討されている。加えて、もっとひどいのが国債だ。日本は戦後、国債を防衛費に充てることを禁じてきた。戦中に、青天井になって際限がなくなってしまったことで禁じていたものを2023年度から解禁していて、既に2兆円近く防衛費に充てられている」と、防衛費の増額の背景にある財源の問題に触れました。しかし、今回の参院選で消費税や社会保障費については財源の問題が出てくるが、防衛費については財源の問題が争点になっていないことに懸念を示しました。

平和国家の変容

「平和国家の変容」とのテーマに入ると、巖谷事務局長は「防衛費増額の前から日本は平和国家の形を変えている」と前置きして、▽集団的自衛権の行使容認▽2000キロ、3000キロの射程を持つミサイルの保有・開発▽殺傷能力のある武器・兵器の輸出・開発▽自衛隊の統合作戦司令部、米軍の統合軍司令部創設▽台湾有事を念頭に置いたものも含めての日米共同訓練の増加▽自衛隊ミサイルの南西諸島への配備シフト-などの項目について、一つずつ解説。抑止力の強化という名目で、日本がどんどん軍事国家に突き進む現状をまとめました。

そもそも沖縄に「戦後」や「平和」があったのか、という本土に暮らす人たちに向けた問いかけが、次のテーマでした。巖谷事務局長は米軍関係者による事件・事故のデータから、沖縄の治安や安全の現状について次のように問題提起しました。

「沖縄に駐留する米軍の軍人・軍属らによる刑法犯罪は1972年から2019年末までで6029件起きていて、これは月10件ペースになります。そのうち、殺人・強盗・強姦などの凶悪犯罪は580件で、毎月1件発生していることになります。2012年から2020年の基地内の性被害は米国防総省によると年120件、つまり月に10件起きているということです。また、米軍による航空機関連事故は1972年から2020年末までで826件あり、年平均17件となります。そのうち、墜落事故は49件で年平均1回の勘定です。また、交通事故は毎年、160件から200件発生しています。その他、環境被害、騒音被害、経済的な影響などもあり、この状況の上で辺野古の新基地建設が強行されています。沖縄の人たちからすると、多国軍の恐怖にさらされた日々を送っている。日本は沖縄の問題を解消しないと、平和国家とは言えない」と結びました。

安全保障のジレンマ 「抑止力」強化で安全になるのか

次のテーマは「『抑止力』の強化で安全になるのか? 『安全保障のジレンマ』」でした。日本政府はトランプ政権からの押し付けもありますが、防衛費増額を国内に説明する際「抑止力の強化」を言い訳的に使います。防衛装備の強化が抑止力を高めることにつながり、それが日本の安全を高めるとの論理だが、巖谷事務局長は「安全保障のジレンマ」を実証的に示した研究データを元に、抑止力の危険性を指摘しました。

そのデータは1816年から1965年までの150年間で、大国同士が軍拡競争をした場合としなかった場合の戦争に結び付いた結果を調べたものです(図1)。それによると、軍拡競争をした結果、戦争に発展したのは82%だったのに対し、軍拡競争をしなかった場合、戦争にならなかったのは96%という明白な結果が示されました。「安全保障のジレンマというのはこのこと。軍拡競争がいかに危険か、ということがお示しできたと思う」。巖谷事務局長は、説得力あるデータで、安易な防衛力の強化が逆に戦争の危険を高めることを説明しました。

(図1)

 

日本が取り組むべき外交戦略

次は「日本が取り組むべき外交戦略」がテーマでした。NDの提言を示しながら、▽価値観を超えた国際秩序を▽米国へのけん制▽「安心供与」の促進▽「制度化された(Institutionalized)マルチトラック外交」などの項目を挙げました。最後に「米国への追従から脱出するチャンスと捉え『平和国家』としてのアイデンティティを見つめ直し、戦略的な外交政策を!」と呼び掛けて終わりました。

司会の畠山澄子さんは「勢いよく軍備を増強していくことの実態、お金がどこから来るのかとか、どこにしわ寄せが行くのか、そういうことを本当に考えなければいけないと思います」と感想を述べました。

巖谷事務局長の後、政治家の核兵器への考え方を可視化し、議論を活発化させるプロジェクト「議員ウォッチ」の倉本芽美さんが核兵器禁止条約への日本の政治家の対応などについて、中東・ガザについてJIM-NETの長谷部貴俊さんがイスラエルと米国のイラン攻撃などについて説明しました。

最後に有権者への一言を求められた巖谷事務局長は戦火が続く国際情勢の中で不安を持つ有権者に「不安は理解できるが、安全保障のジレンマでお話ししたように、抑止力の増強には危険もある。『どこまで行ったら安心なのか』を考えてもらいたい。ただでさえ、財源がないと言っているのに、米国は日本にGDP比3.5%増を求めている。20兆円を超えてくるが、みんな苦しい中で、さらに苦しくなってまで、増額を受け入れるのか。それを考えてほしい」と述べました。

日本における差別

また締めくくりとして、外国人差別について「外国人だけでなく、日本人の中でも差別があった。沖縄の文脈で言うと、2016年には高江で、大阪府警の機動隊員が『土人』と発言したことがあった。また辺野古の問題で沖縄は選挙や県民投票を通じて繰り返し反対の意思を示したのに、本土は聞き入れない。その後ろには構造的な差別がある。辛淑玉さんが、沖縄で行われた差別に関するシンポジウムでこんな風に言っている。2013年、ヘイトスピーチが頂点だったとき、「いい韓国人も悪い韓国人もどちらも殺せ」という発言があったことも引き合いに出し、「差別は娯楽だ。自分にいくらコンプレックスがあっても『自分はあいつらより上』と言える。しかも日本という国、権力側につけば負けることがない。最も金のかからない娯楽として差別がある。」と。日本の中で差別を放置してきたことが現在につながっている。身の回りの差別を許さない、いけないことだという機運を高めることにも注力したい」とのコメントで締めくくりました。

 

(注1)参院選の候補者で目立つ「防衛増強」積極派、改憲も賛成派が上回る…読売アンケート|25/07/11 読売新聞
https://www.yomiuri.co.jp/election/sangiin/20250710-OYT1T50204/

(注2)防衛費上積みの声、参政・国民候補が自民上回る 参院選アンケート|25/07/10 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA044NY0U5A700C2000000/