研究・報告

アメリカ民主主義の底力(山口二郎)

ND評議員/法政大学教授

アメリカの中間選挙では、女性や多様な文化的背景を持った議員が大幅に増えた。特に印象的だったのは、最年少の下院議員となったオカシオ=コルテス氏である。彼女はつい1年前まではウェイトレスをしていたが、トランプ大統領の女性蔑視の姿勢や貧困格差の拡大に憤りを感じ、議員を目指して当選した。

アメリカでは政党の予備選挙という仕組みがある。一般市民も党員の登録をすれば予備選挙に参加できる。市民の熱心な運動が広がれば知名度の高い現職ではなく、市民の仲間を等の公認候補に押し上げることも可能である。オカシオ=コルテス氏もこのような仕組みを通して民主党の候補となり、議員の座を勝ち取った。

アメリカを見ていると、民主政治とは「見る」ものではなく、「する」ものだと痛感する。自ら立候補して議員になることは普通の人には難しい。しかし、高い志をもって世の中のために働きたいという優れた政治家志望者を応援することはだれにもできる。トランプ大統領が民主政治を破壊しているという危機感をもてば、普通の人々が立ち上がる。それこそアメリカ民主主義の底力である。

日本でも統一地方選挙と参議院選挙が近づいている。野党側は人材払底のようである。広く市民のエネルギーを引き出すことが求められている。

(東京新聞11月11日「本音のコラム」)

山口二郎

法政大学法学部教授。1958年生まれ。専門は行政学、現代政治。東京大学法学部卒業後、東京大学助手、北海道大学助教授を経てフルブライト奨学生としてコーネル大学へ留学。オックスフォード大学セントアントニーズ・カレッジ客員研究員、ウォーリック大学客員研究員などを歴任し、1993年より2013年まで北海道大学教授。2014年より現職。