【書評】米中の狭間を生き抜く 猿田 佐世編著
ワシントンで長年ロビー活動に従事した本書の編著者。
対米追従一辺倒の日本外交を少しでも軌道修正すべく活動する「新外交イニシアティブ」の代表となった著者はフィリピンの安全保障策に注目する。
横暴で「ミニ・トランプ」の異名を持つドゥテルテ大統領のイメージはよくない。公約に掲げた「麻薬打撲戦争」も犠牲者は2万7000人以上と報告されている。しかしベトナム戦争中に東南アジア最大の米海軍の拠点だったスービック湾の海軍基地は、2020年、フィリピン政府がアメリカに地位協定の破棄を通告したことで閉鎖となった。(※ND注 閉鎖したのは1992年であり、地位協定の破棄とは無関係)
昨年7月には、新型コロナ禍対策や対中警戒網の強化の関連などで完全破棄は延期されたが、かつては基地貸与国という受動的立場だったフィリピンはアメリカと対等に渡り合う当事国となったのだ。
そのフィリピンに対する最大の援助供与国が日本。しかも外交の中心は一貫してアメリカと日比の共通点は多い。最近でも豪、ニュージーランドなどと対中包囲網を急ぐ米国に対し、フィリピンを含むASEAN諸国ははざまにある立場を重視せよと反発し、“Don’t make us choose.” (米・中どちらかを選ばせるな)を合言葉に対米一辺倒を拒んでいる。
沖縄の屈辱的な地位協定をいつまでも解決できない日本政府こそ、フィリピンの知恵学ぶべきだろう。
2022年1月25日『日刊ゲンダイ』11面