【米イラン停戦】「力による平和」の挫折 国際秩序回復の機会に 新外交イニシアティブ代表 猿田佐世|共同通信(26/6/20)

猿田佐世ND代表の論考が共同通信社の配信(6/20付)で新聞各社に掲載されました。
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【米イラン停戦】「力による平和」の挫折 国際秩序回復の機会に 新外交イニシアティブ代表 猿田佐世

「力による平和」を掲げるトランプ米大統領が始めたイラン攻撃は、イランの意向を強く反映した、戦闘終結の覚書の発効に持ち込まれた。覚書は、イランへの制裁免除や資産凍結解除に触れながら、イランは核兵器開発を放棄し、核物質は国際原子力機関(IAEA)の監督下で対応することで合意した。

ただホルムズ海峡の無償解放も60日間とされるなど重要事項を先送りし、イスラエルのレバノン攻撃継続という不確定要素も重なり予断を許さない。今後の交渉が頓挫すれば再び爆撃するとトランプ氏は脅すが、今回の停戦は中間選挙をにらんだトランプ氏側も望んだものである。攻撃前に既に米イランの協議が進行中だったことも考えれば、「力による平和」の挫折と言える。

トランプ氏の「力による平和」とは、軍事力に勝る「強者」が、劣る「弱者」を力で押さえ込むことで世界の安定を保つという概念で、軍事力による威嚇や弱者の搾取を伴う。トランプ氏は、就任以来、強大な軍事力を盾に、グリーンランドの所有を訴え、ベネズエラを攻撃して大統領を拘束、イラン攻撃の間にキューバ周辺に空母打撃群を集結させてきた。

軍事力では達成できないことがあることが露呈したのが今回のイラン攻撃だ。トランプ氏がこの「失敗」から国民の批判をそらすため、キューバへの軍事攻撃などを行わないことを強く願う。

トランプ氏は、国際協調や国際機関を尊重する従来の国際秩序をないがしろにし、民主主義や人権、法の支配といった「普遍的価値」を破壊してきた。イラン攻撃では欧州各国が米国に異を唱え、国際法違反の指摘も相次ぎ、崩壊する国際秩序への危機感が示された。

第2次トランプ政権発足後、グローバルサウス諸国でも米国の評価は低下し、日本が対中政策で共闘を試みる東南アジア諸国では、米中の選択では過半数が中国を選ぶとの世論調査もある。

他方日本は、米国との関係悪化を恐れ、イラン攻撃についての国際法の評価を避け、トランプ氏の横暴な言行にも批判を一切していない。

忘れてはならないのは、戦後日本の繁栄の基礎は、これらの秩序や普遍的価値と共にある国際社会だということである。秩序や価値の破壊は日本繁栄の基礎の破壊であり、トランプ氏が主導する弱肉強食の世界では日本は弱者の側にある。

秩序と価値の破壊を今の日本の置かれている立場に落とし込んでみる。民主主義、人権などの価値が失われれば日本は中国を批判する根拠を失う。国際法違反が常態化すれば、中国が仮に武力行使しても批判は容易ではない。そもそも軍事力では日中の力の差は歴然としている。

強い米国の下で身を守ろうとする日本だが、日米の利益は必ずしも合致せず、ウクライナ戦争で、ウクライナへのトランプ氏の振る舞いからも米国頼みの不安は否めない。

今の日本では、安全保障政策といえば防衛力の加速度的な拡大の議論ばかりだ。だが日本は「力」の土俵で競うことの限界を認識する必要がある。最大の安全保障となる国際法が順守され、人権が擁護される国際秩序の回復が求められている。

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さるた・さよ 1977年愛知県出身。米コロンビア大ロースクール卒。米ニューヨーク州と日本で弁護士登録。編著に「戦争を回避する『新しい外交』を切り拓く」など。(共同通信)