【発信箱:再稼働「拡声機」=青野由利】(毎日新聞 8/14)
「日本は原発を再稼働するしかありません」。2年ほど前、経済産業省の審議会に招かれ、きっぱり述べたのは米戦略国際問題研究所(CSIS)のハムレ所長だ。CSISは安全保障などを専門とするワシントンのシンクタンクで、知日派で知られるアーミテージさんらも再稼働を求める報告を出している。
ハムレさんも知日派らしいが、いずれも原子力の専門家というわけではない。それなのになぜ、彼らの主張が米国の代表意見と見なされるのか。疑問に思っていたが、日本のシンクタンク「新外交イニシアティブ」事務局長の猿田佐世さんの話を聞いて、なるほどと思った。
弁護士でもある猿田さんは米国や東アジアとの新たな外交を模索している。6月には米国で原子力をテーマに多くの専門家にインタビューした。そこで注目したのが「日本専門家」と「核不拡散の専門家」の視点の違い。前者の多くは原発に積極的で、使用済み核燃料の再処理への興味は薄そうだった。一方、後者は日本の再処理に強い懸念を持ち、必ずしも原発推進ではない。
「知日派は日本の政府や大企業とつながりが深く、その声が増幅されて日本に伝わる。日本にパイプのない核不拡散派の声はその陰に隠れているのではないか」。猿田さんの「ワシントン拡声機」説には説得力があった。
もちろん、日本政府や産業界は拡声機を利用しているのだろうが、日本での声は小さくとも核不拡散は米国の重要課題だ。再稼働にとらわれていると本質を見誤るのではないか。原発以外でも米国の声はさまざまに利用されているが、拡声機には用心がいりそうだ。(専門編集委員)
毎日新聞 2015年08月14日 東京朝刊