VOL.163「ハイパー・メディア・アクティビスト 上杉隆の 革命前夜のトリスタたち」前篇 今週のトリスタ!
猿田佐世 シンクタンク・新外交イニシアティブ事務局長、国際弁護士・38歳
“ワシントン拡声器”を利用して、一部の人々が情報を操っている!
「トランプ候補が大統領になったとしても、アメリカの対日政策は基本的には変わりません。沖縄から米軍が撤退することもないでしょうね……」
市民が外交政策に関わる社会を目指すシンクタンク・新外交イニシアティブ事務局長を務める国際弁護士の猿田佐世はこう話した。
米大統領選で共和党候補指名をほぼ確実にした不動産王ドナルド・トランプの掲げる対日政策が、物議を醸している。「米軍の駐留費用を全額負担しなければ、日本から撤退する」と言うのだ……。沖縄の基地問題に取り組む猿田にすればトランプ発言を歓迎してもよさそうなものだが、否定的に捉えるのは、彼女が米政界に直接働きかけてきた経験を持つからだろう。
「アメリカの対日外交は、ジャパン・エキスパート(知日派)が行っており、その流れが戦後70年も続いています。ただ、トランプが大統領になったとしても、彼の考えを理解して実践できる知日派などおらず、必然的にこれまで対日政策をつくってきた知日派が引き続き影響力を持つことになる。一方、日本政府もツーカーの相手と外交したほうが楽なので、カウンターパートとして米知日派を手離そうとしない。結局、誰が大統領になろうが、日米外交は何も変わらないわけです」
知日派といえば、安保法制の青写真といわれる「アーミテージ・ナイ報告書」を著したリチャード・アーミテージ元国務副長官や、ハーバード大のジョセフ・ナイ教授が有名だ。
「ワシントンで調査したところ、日米外交に影響力を持つ知日派はわずか5~30人程度。『アメリカがくしゃみをすれば、日本が肺炎になる』というように、日本の国内政策はアメリカの影響を多大に受けている。アメリカは新たな対日政策を打ち出す必要もなく、少数の専門家で事足りる。アメリカには中東や欧州の専門家は多いが、それは日本とは違って一筋縄ではいかない国が多いからです」
要するに、アメリカは日本を非常に与しやすい国とみなしているのだ。だが、国内の論調が必ずしもそうではないのは、なぜか……。
「日本政府は日米同盟を重要視し、アメリカは『日本は重要な同盟国』と持ち上げるが、アメリカでの日本の存在感は日本人が考えているようなものからはかけ離れている……。ワシントンのシンクタンクのイベントに参加したときのこと、アメリカ人のスピーカーが『米日同盟はアメリカにとってコーナーストーン(隅石。礎の意味)』と話したら、会場の韓国人が『この前は、米韓同盟はコーナーストーンと言っていたが?』とツッコミを入れたんです(笑)。こうしたシンクタンクでの発言は、日本では『ワシントン発』の大きなニュースになるけど、こんな遣り取りは報じられません。『アメリカは日本を重視している』という部分のみが強調され、日本人はそれを信じ込んでいるのです」
世界に影響を与える「ワシントン発」のニュースは、殊、日本では大々的に報じられる。猿田はこの街に留学していた3年間、その特殊な機能をつぶさに見てきたのだ。「ワシントンにいると、シンクタンクや知日派がいとも簡単に日本に強い影響を与えているのがよくわかる。’14年に集団的自衛権の行使容認が閣議決定される前、国務省の前に日本のメディアが大勢いて、輪の中心には河合克行衆院議員がいたんですが、当時はさして有名ではない一議員なので何事かと思いました。すると翌日の日本のニュースで、彼が会談したアーミテージなど知日派の『集団的自衛権の閣議決定を100%支持する』との発言が大きく報じられていた。こういうことか!? って気づいたんです。
一部の日本人がアメリカに情報を与え、アメリカから出てくる情報の中から都合のいいものを選択し、日本に向けて“拡声”。アメリカの影響力によって、国内で自分たちの望む政策を実現する……このシステムを“ワシントン拡声器”と名付けて、その存在を広めています。情報をコントロールしたい側は、隠しておきたいはずだから。例えば、『TPPはアメリカの要望』というのが日本の報道の論調だけど、実は、米議会のTPP議連は日本政府のロビイングでできたもの。そりゃ、隠したいでしょうね(笑)」
ロビイングには膨大な資金を要する。猿田はどのように巨大な勢力のなかで、奮闘しているのか。次回、その戦略を紹介する。
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