自発的対米従属 機能し続ける「拡声器」

【『自発的対米従属』 機能し続ける「拡声器」】(琉球新報 8/13)

年明けから米国に渡り、トランプ大統領を見てきた。当選後初の記者会見で不思議な経験をした。会見でトランプ氏は自らのロシアとの関係などについて1時間ほど釈明した。

ところが翌日の日本のニュースでは、トランプ氏が貿易問題で日本を批判したとの見出しが躍った。会見で日本に言及したのは数秒だった。それも、中国について語った時に一言触れたという程度だった。それにも関わらず、そのニュースは官房長官、経団連会長が懸念を示す続報へと続く。そして、厳しい状況を打開したとして安倍総理の訪米に高い評価を与えるものになる。

このような形で米国の首都から発せられる発言は特定の意図によって大きなうねりとなり、そして日本に流れ込む。本書で著者は、そうした現象を「ワシントン拡声器」と表現する。その実態は私が指摘した程度の生易しいものではないようで、本書では、集団的自衛権の行使を求める日本の国会議員がワシントンを訪れて知日派とされる有力者と会った後に会見する場面が描かれている。あまり知られていない議員であっても、ワシントンで会見することでそれが新聞で報じられ、一定の影響力を持つようになる。そして、集団的自衛権に米国のお墨付きが与えられたとの印象が流布されることになる。

著者は、「自らの推す政策を日本で進めるために、うまくワシントンを使う」とその手法を説明し、そのメカニズムにも迫る。

本書では踏み込んでいないが、「普天間飛行場の辺野古移設が唯一の解決策」という2月の日米首脳会談の共同声明も、私は著者の指摘する「拡声器」の変形だと考えている。普天間基地機能の移設先を沖縄県内にとどめたいという積極的な理由を持っているのは日本政府だからだ。

今、期せずして日米両首脳に退陣の二文字がちらついている。著者が指摘する「拡声器」は首脳が誰になろうが機能し続けるわけだが、そろそろこの慣行に終止符を打つべきなのは間違いない。本書を手に取るのはそのための最初の一歩ということだろう。(立岩陽一郎・認定NPO「iAsia」編集長)

さるた・さよ

1977年、東京都生まれ。早稲田大法学部卒。日本と米ニューヨーク州で弁護士。米アメリカン大で国際紛争解決を学び、2013年に「新外交イニシアティブ」を設立、事務局長を務める。