防衛費「1%枠」再び注目 自民・政府 中国年頭に

膨張が続く防衛費で、歴代政権が抑制の目安とした「国内総生産(GDP)比1%」枠があらためて注目を集めている。菅義偉首相は、4月の日米首脳共同声明で中国の海洋進出などを踏まえた「防衛力強化」を掲げ、防衛費についても1%枠にとらわれない考えを強調。来年度予算の概算要求が迫る中、岸信夫防衛相も枠に関係なく予算編成する方針を示した。対中国を念頭に政府・自民党内では大幅増額論が広がりつつある。

1%枠は1976年、三木内閣が防衛費の上限として閣議決定した。中曽根内閣が87年度に決定を撤廃したが、撤廃後も1%超えしたのは4例のみ。最大でも1.013%(88年度)と、事実上「1%」を意識した予算編成が続いてきた。

だが、首相は7月末に米誌インタビューに応じ「日本はGDP1%以内に防衛費を収めるという考え方を採用していない」と強調。「必要な防衛費は確保する」と述べた。岸氏も7月末のBSフジ番組で、防衛費について「機械的に1%と出しているのではない。安全保障環境によって当然変わる」との考えを示した。

日米共同声明では「日本は自らの防衛力を強化することを決意した」と明記され、自民党内の防衛費増額論も勢いづいている。党国防部会などは6月、「抜本的な増額」を求める提言書を政府に提出。大塚拓国防部会長は「過去20年間で、防衛費は中国が10倍以上、米国やオーストラリア、韓国も2倍、3倍、4倍と増やしている」と強調し、北大西洋条約機構(NATO)は、「GDP比2%」を目指していると主張した。

21年度の防衛費は過去最高の5兆3422億円(G D P比0.955%)。仮にNATO目標の2%に引き上げれば、10兆円規模に膨らむ。防衛費は、5年ごとに策定する中期防衛力整備計画(中期防)で総額が定められ、23年度までの現中期防では、5年間の防衛費総額を25兆5千億円程度とした。残った22、23年度の2年分の予算枠はおよそ10兆3千億円だ。

防衛省幹部は「22年度予算で1%を超えるには、23年度の装備計画の一部を前倒しで組み入れることが必要だ」と明かす。最新鋭戦闘機F35の前倒し取得などで予算を先取りした上で、足りなくなった23年度分の予算を補う名目で、中期防を年内にも改定し、防衛費総額を増やしたい考えだ。ただ、省内には懐疑論もある。新型コロナウイルス禍で、コロナ対策以外の緊縮財政を迫られ、別の幹部は「逆に財務省から減額を求められかねない」と懸念する。また、近年の防衛費増額が米側の求めに応じた「装備品ありき」で進み、「人員の補充や教育に予算が回っていない」との不満も根強い。自衛隊幹部は「高額で購入しても十分稼働できていない装備もある。予算額よりも、どういう防衛戦略をとっていくかの議論の方が重要だ」と話す。

シンクタンク「新外交イニシアティブ(ND)」(東京)の猿田佐世代表は米中両国が軍備増強を図る中、「日本が防衛費を増やせば中国も増やし、軍拡競争が続く。『武器を買えば安心』との考えは改めなければいけない」と指摘。「軍事力だけに頼らず、外交や対話の努力をするべきだ」と話す。(鈴木誠)

 

(2021年8月15日  北海道新聞)