研究・報告

戦争を終わらせる(山口二郎)

ND評議員/法政大学教授

安倍首相が日米は完全に一致と叫んできた以上、米朝首脳会談を受けて、日本も北朝鮮との国交正常化に向けて努力を始めなければならない。険しい道のりだろうが、自民党総裁選の三選も確実視される中、ここは安倍首相にぜひ難事業を成し遂げてもらいたい。

日朝国交正常化は、日本にとって第2次世界大戦、およびそれに先立つ植民地支配に最終的に終止符を打つ作業である。それこそ歴史に名を残すチャンスである。北朝鮮には巨額の賠償あるいは資金援助もしなければならないだろう。日本国内の右派は反対するかもしれないが、それを抑え込むには安倍首相が最適任である。首相が政治生命をかけて取り組むと言えば、朝鮮総連本部を銃撃したような右翼も、静かにするのではないか。

安倍首相は、長期政権を維持するために、たびたび北朝鮮の脅威を利用してきた。国難を煽り、国民の中に不必要な恐怖や憎悪を創り出した。圧力一辺倒を唱えていた時には、朝鮮半島に平和をもたらすより、緊張が継続した方が好都合といわんばかりの本音が透けて見えた。

北朝鮮との対話が困難な環境を招来したのは安倍首相自身である。したがって、自分で蒔いた種は自分で刈り取らなければならない。皮肉ではなく、安倍首相の決意を期待したい。

(東京新聞6月17日「本音のコラム」)

山口二郎

法政大学法学部教授。1958年生まれ。専門は行政学、現代政治。東京大学法学部卒業後、東京大学助手、北海道大学助教授を経てフルブライト奨学生としてコーネル大学へ留学。オックスフォード大学セントアントニーズ・カレッジ客員研究員、ウォーリック大学客員研究員などを歴任し、1993年より2013年まで北海道大学教授。2014年より現職。