研究・報告

米との関係 再考の契機 同盟「不変」ではない

【米との関係 再考の契機 同盟「不変」ではない】(共同通信 2/12)
新外交イニシアティブ事務局長・猿田佐世

日米同盟はアジア太平洋地域における平和の礎、米軍の受け入れに感謝、辺野古基地建設は普天間閉鎖の唯一の解決策-。安倍首相は日米首脳会談で、これまでのトランプ大統領のさまざまな主張を封印した。会談は、従来の日米関係の継続を確認する場となった。

トランプ氏の大統領当選から3か月、日本政府は同氏を既存の日米関係へと引き戻すべく必死に働きかけを続けてきた。当選直後のトランプタワーでの会談しかり、日米同盟は「不変の原則」とうたった首相の国会での施政方針演説しかりだ。

日本政府にしてみれば、全ての政策の中心に米国を据えてきたため、既存の日米関係が変わってしまっては困るのだ。会談後の会見でも、世界が非難するイスラム圏7カ国からの入国禁止令につて、首相は内政問題として議論を控え、トランプ氏に配慮した。

今回の会談は、その日本政府の必死の働きかけが全面的に成功し、トランプ政権が基本的には日米関係の既定路線をとることを明らかにした会談となった。

しかし、改めてここで考えてみたい。今までの日米外交はそれほどまでに良いものであったのか。

私は、トランプ氏のこれまでの発言の多くには当然ながら賛成しないが、そのことと今までの日米外交がベストの状態にあるかどうかは別問題だ。

米軍基地に苦しむ沖縄の問題や日本と中韓との関係が不安定な状況にあることを例に挙げるだけでも、これまでの「米国一辺倒」の日本の外交政策に多くの問題が含まれていることは明白だ。日本政府はトランプ氏を振り向かせようと懸命なだけで、こうした問題をこの機会に解決する姿勢が全く見られない。

この3か月で、日本が今後向かう方向が明らかになってきた。トランプ政権は、日本に軍事的貢献の拡大を求めてくるだろう。その米国からの追い風を受けて、日本政府がさらなる軍事力強化に舵を切ることが強く予想される。

日本の保守派の間には、米国との同盟を「深化」させながら、オーストラリア、インド、東南アジア諸国との関係を軍事的にも強化すべきといった議論もある。

だが、他国と共に軍事力による中国包囲網を形成し、さらなる対立構造を作り出すことは、このアジア太平洋地域の平和と安定につながるだろうか。米国との関係を深化させるというが、今なおトランプ大統領には予測不可能性がつきまとう。

トランプ政権の登場は、日本が「対米従属」だけを判断指針にすることができなくなり、自らの頭で外交・安保について考えなければならなくなった戦後初めての機会でもある。

外交は国際情勢を踏まえて変化するものだ。「不変の原則」などと言って、現在の日米関係が永続的なものかのような思考停止状態に陥るべきではない。トランプ政権誕生という「激震」を、米国との関係を客観的に振り返り、絶対視してきた関係を相対化する機会とすべきである。

これまで日米関係に懸念を示してきたリベラル派からも、今後の日米外交と安全保障のあるべき姿を巡り提案がもっとなされるべきだ。真に日本のためになる政策とはどのようなものであるか、国を挙げて議論を行うきっかけにしなければならない。

猿田佐世(新外交イニシアティブ(ND)代表/弁護士(日本・ニューヨーク州))

沖縄の米軍基地問題について米議会等で自らロビーイングを行う他、日本の国会議員や地方公共団体等の訪米行動を実施。2015年6月・2017年2月の沖縄訪米団、2012年・2014年の稲嶺進名護市長、2018年9月には枝野幸男立憲民主党代表率いる訪米団の訪米行動の企画・運営を担当。研究課題は日本外交。基地、原発、日米安保体制、TPP等、日米間の各外交テーマに加え、日米外交の「システム」や「意思決定過程」に特に焦点を当てる。著書に、『自発的対米従属 知られざる「ワシントン拡声器」』(角川新書)、『新しい日米外交を切り拓く 沖縄・安保・原発・TPP、多様な声をワシントンへ』(集英社)、『辺野古問題をどう解決するか-新基地をつくらせないための提言』(共著、岩波書店)、『虚像の抑止力』(共著、新外交イニシアティブ編・旬報社)など。