台湾有事と日本外交(上)曖昧戦略 対米協議の鍵

「台湾有事」の危険性が喧伝される中、沖縄と日本の安全を守るための展望を議論するシンポジウム「戦争を回避せよー安保三文書改訂を受けて」(主催・同実行委員会)が3月1日に開催される。シンポを共催し、抑止力によらない安全保障のあり方について提言を発表している新外交イニシアティブ(ND)の猿田佐世代表らに意義などを寄せてもらった。

台湾有事(戦争)が叫ばれている。いま一度確認されるべきは、日本一国では中国とも北朝鮮とも戦争になる理由も可能性もほとんど無いということである。尖閣問題を巡ってウクライナ戦争のような国全体に大惨事をもたらす戦争を日本が選択するとは思えないし、北朝鮮のミサイル演習の主眼は米東海岸への到達であり対日攻撃ではない。

にもかかわらず、「台湾有事は日本有事」と言われ、実際にその様相が深まる一方なのはなぜか。それはひとえに、米中対立の具体化である台湾有事に日本が米側陣営での片棒を担ごうとするからだ。幾つもの台湾有事のシナリオで米側勝利の条件に在日米軍基地の使用があげられ、日本国内でも台湾有事への自衛隊派兵が議論されている。

その結果、日本が反撃に遭い、人々に多大な被害が生じることになるのである。「日本自らの選択により」台湾有事が日本有事になるのだ、という認識を持たねばならない。そして、その日本自らによる具体的選択の決定的判断が、在日米軍基地使用を巡る日米の「事前協議」でなされる可能性がある。

事前協議制度は1960年の日米安保条約改定に伴って日米が合意した交換公文によって設けられ、米軍の配置や装備における重要な変更、日本防衛目的以外の施設・区域の使用には事前の協議の主題とすると定められている。

台湾有事の際にも、米軍の在日米軍基地からの直接出撃は日米の事前協議の対象であり、米国は事前に日本に協議を求めなければならない。

事前協議でNOなどと言えるはずもない、日米同盟が破綻する、と政府関係者は口をそろえて言うだろう。しかし、台湾有事で在日米軍基地から直接出撃すれば、基地はもちろんその周辺自治体も反撃に遭い、多大な損害を受ける。

「YESしかない」と考える人々は、その「YES」が日本の国土を焼け野原にする可能性があるという覚悟をもって発言しているだろうか。事実、この事前協議で日本が迫られるのは、「日米同盟の破綻か、戦争による甚大な被害か」との二者択一である。

日本がこの選択を迫られたくないと考えるのであれば、台湾有事そのものを避けるための働きかけを徹底して行うほかはない。

昨年末にNDが発表した提言「戦争を回避せよ」では、日本は、中国の拡張主義に対してはもちろんのこと、米国の過度な対立姿勢にも抑制を求める外交を展開しなければならないと訴えている。

対米外交の鍵は、「台湾有事の際に必ずしも事前協議で賛同するとは限らない」と現時点から米国に伝えることである。日本自らが反撃にさらされる可能性を理由に事前協議制度での曖昧戦略をとることが、米国の現在の前のめりの態度を慎重にする。この方針を日本政府に求める世論を高めたい。

 

来月1日北谷で戦争回避シンポ

シンポジウム「戦争を回避せよー安保三文書改訂を受けて」は3月1日午後7時から北谷町のちゃたんニライセンターで開催される。申し込みは新外交イニシアティブ(ND)のホームページ(HP)から。入場は無料だが資料代500円。定員360人。NDの猿田佐世代表、もと内閣副長官補の柳澤協二氏、前衆議委員の屋良朝博氏が登壇する。問い合わせはND、電話03(3848)7255。

(230215 沖縄タイムス3面 )