研究・報告

中国のプルトニウム・リサイクル計画―現状と問題点

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米・ハーバード大学上級研究員
張会(Hui Zhang

この報告は、中国のプルトニウム・リサイクル計画の概要を説明するもので、中国の再処理、高速増殖炉(FBR)、そして、最後に中国のプルトニウム生産とFBRでの使用の見通しに焦点を当てる。

1.中国の原子力開発

中国は、現在、新規原子炉建設においては、世界の先頭に立つ国だ。2021年11月現在、中国の運転中の原子炉はすでに51基に達しており、18基が建設中だ。2021年3月に開始された第14次5カ年計画において、北京は、中国の原子力発電設備容量は2025年に70ギガワット(7000万キロワット)に達すると再確認した。一部の政府関係者や専門家は、中国の原子力発電設備容量は2030年に約120ギガワットに達し、2040年には約200ギガワットに達すると示唆している。数十年の間に、中国は他のどの国よりも多くの原子力発電所を運転するようになると見られている。米国の現在の運転基数は100基ほどだから、2026年か2027年ごろには、中国が最大数を有することになるだろう。

2.中国の再処理計画

原子力発電を拡大する中で、北京は、使用済み燃料をどうするか、再処理するか否かについて考える必要がある。1980年半ばに中国は、閉じた燃料サイクルを選択した。現在のところ、中国は2010年に運転を開始したパイロット再処理工場を運転している。あいにく、5年前まではその運転はうまく行っておらず、通常の運転が始まったのは2019年頃のことだ。私の理解では、中国は、1トンから1.5トンの民生用プルトニウムを保有している。残念ながら、中国は2017年以来、その民生用プルトニウムの保有量について報告していない。

3.中国のパイロット再処理工場

図1(PDF版参照、以下図表については同様)に示すパイロット再処理工場は、もっと大きな元軍事用再処理工場と併設されている。将来、民生用パイロット再処理工場の国際的保障措置を受け入れるというのは非常に難しいだろう。なぜなら、元の軍事用プルトニウム施設群と併設されているからだ。ここには軍事用の小さな再処理工場、もっと大きな再処理工場、そして原子炉がある。これら軍事用施設はすべて1987年までに閉鎖されている。

4.中国の民生用再処理及びMOX燃料製造実証施設(活動)

表1は、自発的な「国際プルトニウム管理指針」(IAEAのINFCIRC/549の中にある)の下でのIAEAへの中国の報告(累積量)を示している。毎年報告されていた最後は2016年で合計40.9キログラムとなっている。その後、報告がない。これは、国際的な専門家が中国の民生用プルトニウムについて持つ懸念材料の一つとなっている。この表では私は、各種の資料に基づいて、2019年の累積分離量を500キログラムと想定している。

一方、中国は2015年以来、金塔県(甘粛省)で二つの実証再処理工場の建設を始めた。政府は、このうちの最初の再処理工場(200トン/年)の建設に言及したが、誰もこれがどこなのか分からなかった。場所についての公式な情報がなかったからだ。厳重な秘密となっていた。

私は、最近これらの二つの再処理工場の場所を突き止めた。オープン・ソース情報と衛星画像とに基づくものだ。砂漠地帯の非常に辺鄙な地域にある。酒泉の近くで、パイロット再処理工場からあまり離れていない地点だ。衛星画像(図2、図3)の分析から、第一再処理工場で建設が活発に行われているのが分かる。再処理工場の近くにMOX製造施設もある。20トン/年の製造能力を持つ。

今年(2021年)3月、中国の多くのウェブサイトの情報に基づき、私は、第二再処理工場の機器の購入の証拠を見つけた。これには驚かされた。第一再処理工場関係の研究作業をしていて、第二再処理工場用の多くの購入関連文書を見つけたのだ。購入関連ウェブサイトの文書から、第一再処理工場は2020年2月までに土木工事段階を終え、機器設置段階へと進んだと私は推測している。第二再処理工場の建設は2020年末頃始まったと私は推測している。同じサイトでMOX工場も建設中だ。この情報は、私の推測に基づくものだ。政府も中国核工業集団公司(CNNC)もこれについて語らないからだ。再処理工場は二つとも予定通りに運転開始となりそうだ。第一再処理工場が2025年、第二が2030年運転開始の予定だ。

中国はまた、2007年からフランスともっと大きな再処理工場(年間処理能力800トン)について交渉している。2015年に商業的交渉に入ったが、あいにく、連雲港市(江蘇省)での地元の抗議のため、2016年にこの計画は棚上げとなった。現在まで、新しい建設地は選定されていない。CNNCは2020年頃の建設開始を計画していた。あいにく、この建設地問題に関して進展のニュースはない。2030年頃の運転開始が想定されているが、私は、2035年までは望みはないだろうと考える。

5.再処理のコスト

私は、ハーバード大学で、同僚のマシュー・バンとリー・カンの二人と、再処理のコストについて算定した。我々の結論は、中国では再処理は、乾式貯蔵よりずっと高くつくというものだ(注1)。我々は、最終的なキログラム当たりの再処理コストを約2000ドルと算定した(表2、表3)。これは非状に高い。

我々は、また、低濃縮ウラン(LEU)使用済み燃料の直接処分とMOX燃料としてのリサイクルについても算定した。これは日本と似ているかもしれない。我々の結論は、再処理工場のコストを非常に低く見積もるなど、再処理の側に有利な想定をしても、再処理は、燃料サイクル・コストが3分の2ほど高くなるというものだ。また、増殖炉と比べると、直接処分は、ずっと安くなる。

6. 中国の高速実験炉(CEFR

中国はまた、「中国高速実験炉(CEFR)」を運転している。これもまた運転に色々問題を抱えており、設備利用率は非常に低く、1%ほどだ。パイロット高速炉でさえ、その成績は非常に悪いということだ。しかし、それでも、中国は大型の高速炉を追求している。中国は、現在、2基の実証用「高速増殖炉(FBR)」(CFR-600) を建設している。最初のものは、60万キロワットで、2017年に建設が開始された。2020年1月までに土木工事は終わり、機器設置段階に入った。2023年に運転開始の予定だ。だが、再処理工場の場合と同じく、2基目については中国では全く報じられていないという状況だった。1基目についての研究作業をしていた際、つまり、衛星画像や建設に関する文書をチェックしていた時、2020年3月のことだが、驚くべきことに2基目が見つかった――ウェブサイトで入札・購入関連文書を見つけた後のことだ。衛星画像で2基目の建設準備作業が確認できたのだ。そして、同年5月に、業界誌のインタビューで、私は本格着工は7カ月以内に始まるとの予測を述べた。その後、

実際に、工事は2020年12月に始まった(中国核工業集団公司が発表した)。この2基目は2026年までに運転開始となるだろう。

2基目は、1基目と同じ設計で、一部の施設を共有している(図4)。さっき話したように、建設はすでに、昨年12月に始まっていて、2026年頃運転開始となると私は見ている。どちらも、特に、中国とロシアの契約に基づく1基目は、最初の7年間、初期装荷燃料で高濃縮ウラン(HEU)を使うと見られている。そのあとは、中国産のMOX燃料になるかもしれない。中国はさらに大型の商業用実証炉CFR-1000に取り組んでいる。この大型炉についてそのまま進むかどうかについての最終決定を2020年中に行うことになっていた。だが、1年経った今、 最終決定はまだのようだ。つまり、予定が延期されているのかもしれない。初期の計画では、建設開始2028年、運転開始2034年のはずだった。

7. 将来の計画及びシナリオ

中国の現在の計画を基に、私は、向こう数十年間に中国が保有することになる可能性のある分離済みプルトニウムの量について算定してみた。現在の予定に従うとして、いくつかのシナリオを想定している(表4)。現在の中国の計画に従う「高いケース」だと、2030年及び2040年の分離済みプルトニウムの保有量は、それぞれ、20トンと100トン以上となる。「非常に低いケース」でも――つまり、年間処理量800トンの再処理工場がなく、他の建設中の再処理工場が半分の能力で運転とした場合でも――2030年までに10トン、2040年までに30トン以上となる。これでも、現在の中国の軍事用プルトニウム保有量よりずっと多い。現在の量は3トンなのだ。3トンというのは、核弾頭約1000発分だ。

また、高速増殖炉でプルトニウムをどれほど使うかという想定は、シナリオによって違ってくる(表5)。だが、ここで明らかなのは、プルトニウム分離量の「非常に低いケース」をとっても――つまり、年間処理量800トンの再処理工場がなく、他の建設中の再処理工場が半分の能力で運転された場合も――その供給量は、高速増殖炉の使用量の「非常に高いケース」の需要を上回る量となるということだ。

図5のグラフをご覧いただきたい。まず、供給量の方を見ると、緑がプルトニウム供給量の「低いケース」を示している。そして、使用量の方では、黒い破線がプルトニウム使用量の「非常に高いケース」を示している。これで分かるのは、供給量の「低いケース」、つまり緑の線でも、高速増殖炉の使用量、つまり「需要量」の「非常に高いケース」より、ずっと高いレベルにあるということだ。これは、近い将来においては、少なくとも2040年までは、中国が年間処理量800トンの再処理工場を必要としないことを意味している。だから、私の結論は、800トンの工場を運転すれば、中国は大量の原子炉級プルトニウムを保有することになってしまうというものだ。日本やフランスのように。

8.提言

我々の研究は、中国の再処理及びプルトニウム・リサイクルは、再処理を伴わないワンススルー利用の軽水炉よりずっと高くつくことを示している。したがって、中国は、大型再処理工場の計画を延期し、中間貯蔵のアプローチを採用すべきだ。使用済み燃料管理の短期的アプローチとしては、中間貯蔵の方が、安全で、柔軟性があり、費用効果が高い。鈴木達次郎、アリソン・マクファーレンほかの盟友が、中間貯蔵に関しては非常に優れた報告書を出している(注2)。

私は、また、中国の民生用プルトニウムについての国際的懸念を減らすため、中国は、そのプルトニウム・リサイクル計画をもっと透明なものにすることを提言する。これには、2017年までそうしていたように、中国の民生用プルトニウム保有量をタイムリーな形で報告することも含まれる。中国は、ここ数年、この報告をしておらず、それが国際社会の大きな懸念材料となっている。また、中国は高速増殖炉の「ブランケット」で兵器級のプルトニウムを生産するために高速増殖炉を使っているのではと懸念している専門家もいる。私の推定では、CFR-600は、年間約200キログラムの兵器級プルトニウムを生産できる。中国の軍事用プルトニウムの量が比較的小さいことを考慮すると、これは、大きな数字であり、中国がそのプルトニウム計画についてもっと透明性を高めなければならないもう一つの理由だ。

注1:Book information on page 11: Bunn, Zhang, and Li, “The Cost of Reprocessing in China,”

注2:Bunn, Matthew, John P. Holdren, Allison Macfarlane, Susan E. Pickett, Atsuyuki Suzuki, Tatsujiro Suzuki and Jennifer Weeks. “Interim Storage of Spent Nuclear Fuel: A Safe, Flexible, and Cost-Effective Near-Term Approach to Spent Fuel Management.” Managing the Atom Project, Belfer Center and Project on Sociotechnics of Nuclear Energy, University of Tokyo.

※本報告は2021年12月18・19日に開催された「英独米中韓日6ヵ国シンポジウム〈増えるプルトニウムと六ヶ所再処理工場―核燃料サイクルの現実と東アジアの安全保障―〉」に基づいています。内容と意見は報告者個人に属し、NDの公式見解を示すものではありません。

6ヵ国シンポジウム報告書<概要版>

※この企画は一般社団法人アクト・ビヨンド・トラスト(abt)の2021年度助成金を受けています。

張会(Hui Zhang)

米・ハーバード大学公共政策学院ベルフェア科学国際問題センター原子力管理プロジェクト上級研究員。同プロジェクトの中国核政策に関する研究リーダー。研究分野は核兵器管理、核分裂性物質管理、核テロリズム、中国の核政策、核保障措置、核不拡散、核燃料サイクル・再処理政策など。