研究・報告

豪州への軍艦輸出は「死の商人国家」への道(杉原浩司)

杉原浩司

武器取引反対ネットワーク(NAJAT)代表

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 「聞いてないよ」というのが率直な感想だ。当初は「クリスマスまでには決定される」と報じられていたが、随分と前倒しされたものだ。

日豪両政府は8月5日、豪海軍の新型フリゲート艦導入計画をめぐって、日本案が選定されたと発表した。日本は、海上自衛隊の最新鋭「もがみ型護衛艦」の能力向上型(新型FFM、三菱重工製)を基にした共同開発を提案し、ドイツとの武器商戦を制した。価格交渉などを経て、来年1月に最終契約する見込みだ。

決定に限りなく近い「内定」と言うべきか。秋にも反対の取り組みを本格化させようと考えていたが、見事に機先を制された形だ。

 

官民一体の武器セールス

計画規模は11隻分で最大100億豪ドル(約9500億円)。完成品の武器輸出としてはフィリピンへの三菱電機製警戒管制レーダー輸出に次ぐもので、過去最大であると同時に、初の大型殺傷武器の輸出となる。政府と軍需企業は高揚感を隠さない。29年の納入開始が目指されており、最初の3隻は日本国内で製造し、残りの8隻は西オーストラリア州内で建造される予定だ。

2016年に豪州への潜水艦輸出でフランスに逆転負けした経験を踏まえて、日本政府と三菱重工などの軍需企業は今回、官民一体で武器セールスに邁進した。官民合同委員会を設置し、中谷防衛大臣や若宮健嗣防衛大臣補佐官らによる豪州訪問のトップセールス、豪州や日本での説明会の開催、もがみ型護衛艦の演習名目での豪州派遣などを行った。中谷大臣は米国にも後押しを要請し、米国製ミサイルを搭載しやすいことも有利に働いたとされる。

背景には、日豪が「準同盟国」として軍事連携を強化してきたことに加えて、米英豪の対中国軍事同盟「AUKUS」が人工知能(AI)やサイバー分野で日本との協力に踏み込んでいることもあるだろう。新型艦の導入計画自体が、オセアニア地域への海洋進出を強める中国を強く意識したものだ。

豪州への軍艦輸出は、中国包囲網の一環であり、かつての武器輸出三原則の肝だった「国際紛争を助長しない」という理念に真っ向から反するものに他ならない。

 

殺傷能力の塊

では、「もがみ型護衛艦」とはどのような軍艦なのか。同艦は、従来の約半数の90人ほどでの運用が可能だ。この点は豪州のニーズにも合ったとされる。対艦艇、対航空機、対潜水艦の各種ミサイルをはじめ、軍艦や船舶を攻撃できる魚雷、艦船の航行を妨害する機雷など、様々な武器を搭載できる。VLS(垂直発射装置)には従来の16発の2倍となる32発が搭載可能で、攻撃能力が強化される。いずれは射程1000km以上の「12式地対艦誘導弾能力向上型」の搭載も想定される。相手国に接近して武力による威嚇を行うことも、武力を行使することも可能な「殺傷能力の塊」だ。

本来、殺傷能力が高い武器の輸出は、「防衛装備移転三原則」の運用指針に基づき、「救難、輸送、警戒、監視、掃海」の「5類型」に該当する場合に限定されている。しかし、「共同開発・生産」の形をとれば輸出が可能となってしまう。この詐欺的手法の起点は、2011年12月の野田民主党政権にさかのぼる。

 

「共同開発」という詐欺

当時、長島昭久防衛副大臣が主導して密室会合を行い、武器の国際共同開発などを武器輸出三原則の包括的例外とする官房長官談話を発出した。この時に開けられた大穴が、日英伊で共同開発する次期戦闘機の第3国輸出の解禁や今回の豪州への軍艦輸出に直結している。ちなみに、民主党を継承する立憲民主党も武器の国際共同開発には賛成しており、今回の殺傷武器輸出に反対する論理を持っていない。

マールズ豪国防相は、「調達スケジュール上のリスクを減らすため海自向けからの変更点は最小限にする」「戦闘システムも日本製のまま」「主な変更点はオーストラリアの規制要件を満たす部分」「例えば艦内の標識などが英語表記に変更される」と述べており、日本で建造する3番艦までは海自仕様のままとなる可能性もある。少なくとも初期の建造については、小手先の仕様変更を「共同開発」と強弁して、不可能なはずの輸出に道を開いている。これでは歯止めは存在しないに等しい。ただ、豪州側が本国での建造プロセスにおいて、無理のある仕様変更を持ち出してくる可能性も否定できず、共同開発が順調に進むのかは予断を許さない。

 

「死の商人」への巨額の税金投入

選定直後の8月8日、私は仲間と共に、国会議員による防衛省を呼んでの説明会に同席した。そこで驚くべき事実が明らかになった。軍需産業強化法に基づいて設置された「装備移転円滑化基金」から、何と1000億円以上が私企業に過ぎない三菱重工などに投入される見込みだというのだ。しかも、殺傷武器の輸出のためにである。

一方で、国立大学病院の2024年度の赤字は過去最高の総額285億円に達し、このままでは地域医療が崩壊すると危惧されている。目の前の命が奪われかねない窮状を放置して、他国の人々の命を奪うことにつながる殺傷武器輸出に血税を投入するとは、何といびつで冷酷な棄民政治だろうか。

今回の豪州への軍艦輸出の「成功」は、さらなる武器輸出にはずみを付けかねない。自称「平和国家日本」は、憲法九条を一字一句変えないまま、周回遅れで世界の武器市場への本格参入を果たそうとしている。憲法九条は死文化したと言わざるを得ない。

では、平和運動はこの動きに十分に抗してきただろうか。答えは否である。私たち武器取引反対ネットワーク(NAJAT)にとっては、まさにど真ん中の課題であり、この間、日本消費者連盟や主婦連合会と連携して、三菱重工や三菱電機宛てのハガキ付きアクションシートの発行や、両社への申し入れ、株主総会でのアピールなどに取り組んできた。しかし、課題の重大さと進展の早さに到底追いついていない。日本版「軍産学複合体」形成の根幹を成す武器取引の問題を、平和運動の共通課題にすることが未だにできていない。

 

進展する日豪軍事協力

9月5日には日豪の外務防衛閣僚会議(2プラス2)が東京で開催された。日豪はこの10年ほどの間に、情報や自衛隊・豪軍間の弾薬等の融通、部隊交流などに関する協定を相次いで結んできており、海上自衛隊による豪艦への「武器等防護」も行われている。7~8月に豪州で行われた多国間共同訓練「タリスマン・セイバー」では、日本製ミサイル「12式地対艦誘導弾」の試射も実施された。長射程ミサイルとなる「能力向上型」の輸出も日程に上るだろう。

2プラス2では、新型FFMの選定が「過去最大規模となる防衛産業協力の重要な節目」であると確認したうえで、対中国を念頭に置いた軍事協力の強化(共同演習の拡大など)に加えて、軍需産業分野での協力拡大(豪艦艇の日本の港湾での整備や2026年度に実施される無人戦闘機MQ-28Aの飛行試験への航空自衛隊の参加など)、第三国での紛争時の自国民退避における協力などが確認された。

NAJATは日本消費者連盟、主婦連合会とともに5日に防衛省前での緊急抗議行動を呼びかけたが、台風接近により残念ながら中止を余儀なくされた。

 

中古軍艦輸出と歯止めなき「提言」

殺傷武器の輸出はこの件に留まらない。7月6日、読売1面で報じられたのは、フィリピンへの「あぶくま型」中古護衛艦6隻の輸出である。就役から30年以上が経過し、順次退役する見込みだった中古護衛艦を、小手先の仕様変更を施すことで「共同開発」の体裁を整え、輸出しようというのだ。その後、一部をインドネシアなどに回すとも報じられている。新型護衛艦の輸出も見すえた企てだ。

フィリピンは日本初の武器輸出となった警戒管制レーダーの輸出先であると同時に、外務省による武器無償供与「OSA」(政府安全保障能力強化支援)の重点対象国でもある。国内の人権運動や反開発運動のリーダーなどの暗殺や反政府武装勢力の「掃討」などを続けているフィリピン軍に武器を輸出・供与することは国内紛争への加担であり、中国との軍事緊張の助長にもつながる。極めて問題が多く、撤回させるべきだ。

事態は私たちが追いつけないまま、どんどん前に進んでいる。防衛省が設置した「防衛力の抜本的強化に関する有識者会議」(榊原定征座長)は9月19日、中谷防衛相に報告書を提出した。踏み込んだ要求が並ぶ。「次世代の動力」とオブラートに包み、事実上の原子力潜水艦の保有検討を促し、軍需産業強化のための国営工廠(軍需工場)の導入も求めた。武器輸出を拡大するため、「5類型」の見直しや、脅威にさらされている「友好国」への制限なき武器輸出も提言している。私はかつて、「専守防衛という能力の縛りが外れれば、理論的には核兵器以外は保有できることになりかねない」と指摘した。タガの外れた大軍拡に歯止めをかけるのは至難の技だ。

 

「意識や文化」の改造へ

私たちは今この瞬間にも、「死の商人国家」への堕落の道を突き進んでいる。恐ろしいのは、軍需企業が「レピュテーション(評判)リスク」を気にかけなくなりつつあることだ。軍需部門の比率の小さい日本の軍需企業は、「死の商人」と批判されることで民生部門の売り上げに影響することを恐れて、武器輸出に本腰を入れることを躊躇してきた面があった。しかし、「5年で43兆円」という未曾有の大軍拡予算によって、「儲かる産業」への変質が進行している。軍事研究に警鐘を鳴らしてきた日本学術会議を解体する悪法も成立した。この先にあるのは、日本版「軍産学複合体」の形成だ。

軍拡推進派の狙いは明確だ。小木洋人(地経学研究所)は、「最終的に最も必要なのは、防衛生産に対する意識や文化を変えることである。それは、衰退を前提とした政策や事業慣行から、有事に備えた生産拡大への転換である」(『中央公論』8月号)と述べる。そうなれば後戻りは効かない。

 

「死の商人」三菱重工にNO!を

それでもなお、崖っぷちだからこそ、企業への圧力を強める努力を続けたい。伊藤忠商事はBDS(ボイコット、投資引き揚げ、制裁)運動の高まりを受けて、イスラエルの軍需最大手エルビット・システムズとの協力覚書を終了させた。現在、イスラエル製攻撃型ドローンの輸入検討を止めるために、輸入代理店である海外物産に圧力をかける取り組みが続いている。対象を絞り込み、的確なキャンペーンを展開したい。

やはり相手は三菱重工になるだろう。殺傷武器輸出に邁進し、憲法違反の隣国攻撃ミサイルを量産し、他国の人々の殺傷につながる次期戦闘機共同開発を牽引する。その罪の重さは群を抜いている。相手は巨大だが、それを突き崩すことは主権者、消費者としての責務だろう。

同時に、立憲民主党の政策を変えることも不可欠だ。8月6日の毎日新聞は、「日本、移転反対勢力縮小」と小見出しを打ち、「装備移転を巡る政府の姿勢に真っ向から反対する国会勢力は縮小傾向にある」として、防衛省幹部の「政権が代わったとしても安全保障政策は大きくは変わらないだろう」との声を紹介している。立憲民主党を動かすには、武器輸出に反対する世論を可視化させることが必要だが、市民運動の立て直し無しにそれは不可能だ。

※初出は『市民の意見』2025年10月1日号(「市民の意見30の会・東京」発行)

 

 

杉原浩司

武器取引反対ネットワーク(NAJAT:Network Against Japan Arms Trade)代表。平和構想研究会、STOP大軍拡アクションなどにも参加。イスラエルによるジェノサイドに反対する活動にも尽力してきた。共著に『戦争ではなく平和の準備を』(地平社)、『亡国の武器輸出』(合同出版)、『武器輸出大国ニッポンでいいのか』(あけび書房)など。