イベントの概要
新外交イニシアティブ(ND)は10月15日、「『エネルギー転換』のアウトリーチ戦略を語り合う-硬直化した政策を変えるには-」と題したオンライン座談会を開催し、およそ130名が参加しました。
福島第一原発事故の後始末もそこそこに、政府と大手電力会社は「原子力回帰」に向けたPR活動に余念がありません。それにどう対抗し、アウトリーチを広げていくか——。ゲストに大島堅一氏(龍谷大学政策学部教授、原子力市民委員会座長)、津田大介氏(ジャーナリスト、メディア・アクティビスト)、深草亜悠美氏(認定NPO法人FoE Japan 事務局長)を迎え、ND研究員の加部歩人弁護士の司会で、示唆に富む討論が行われました。
各パネリストの発言
座談会に先立ち、ゲストからそれぞれの分野における問題意識が共有されました。大島氏は、核廃棄物を例に、「発生させたのは政府の政策決定者と原発を所有する電力会社なのに、後始末の責任は電力消費者と社会全体にあるかのようなすり替え」や、「国民に〝理解〟は求めても、(政策決定過程への)〝参加〟は求めない」といった政府によるアウトリーチの問題点を指摘。「環境政策の原則は、汚染者負担と予防、そして公開と参加」にあるとし、「市民による公共的言論空間、公共的議論が大事」と強調しました。
深草氏からは、近年、気候変動に関する国際会議・COPなどで、原子力産業が出展するブースが増えていることなど、原子力推進勢力によるアウトリーチが語られました。2023年に開催されたCOP28 では、米国が「原発3倍」を宣言し、日本など20カ国余りが賛同。日本のメディアは同宣言を大きく報道しましたが、これは会議の枠外でなされたもので、COP28 で正式に合意されたのは、「2030年に再生可能エネルギー3倍」だったと指摘しました。
また、1959年以来、原発を融資対象から除外していた世界銀行が、このほど融資再開を解禁。アジア開発銀行(ADB)も続こうとしているが、それに対し世界のNGOが署名活動を展開し、ADBは決定を先延ばしていると報告しました。そのほか、日本の化石燃料(石炭、天然ガス)依存の問題についても言及しました。
津田氏は、「2019年にインターネット広告がテレビなどの媒体を上回って以降、アウトリーチの主戦場はインターネットに移った」として、ネットを使っての社会運動、いわゆるオンライン・アクティビズムについて論じました。その成功例として、名古屋入管が死亡に追い込んだウィシュマ・サンダマリさんの事件を受け、SNSを通じた情報発信やオンライン集会、クラウドファンディングといった活動が広がり、入管法の改正につながったことを挙げました。そのうえで、「社会運動は時間がかかるが、その中で運動に筋力がついていく。SNSはそういう筋力がない。SNSでの盛り上がりを現実の組織へと継続していくことが大切」と述べました。
また、インターネットには、①匿名性、②質的コントロールの不在、③潜在的聴衆の膨大さ、④反社会的な人々が心の友を見つける、といった特性があるとし、「アカデミズムとアクティビズム、ジャーナリズム、そしてNDのような団体が相互に連携することで、届きにくい層にも情報を届けることができる。SNS時代のアウトリーチに求められる必要条件は、ここがスタート地点になるのではないか」と提起しました。
座談会では司会の加部弁護士から、政府は福島第一原発事故に由来する除染土を「復興再生土」と言い換え、「汚染土と呼ぶのは、福島の人々に対する差別」としている例が挙げられました。こうした「倫理的レトリック、道徳的転移」に対し、大島氏は「それを出したのは誰か、本来責任を取るべきなのは誰か」から出発することを提唱。津田氏は、「被害者的な言説は分かりやすく、負けてしまうこともあるが、人は意外と基本的なことを知らない。加害と被害の関係性とその構造を指摘し続ける」ことの重要性が語られました。
そのほか、幅広い年齢層、とりわけ若い世代にどう働きかけるかなど、アウトリーチの諸課題について、それぞれの経験を交えながら、意見が交わされました。最後に、大島氏が原発と自然エネルギーによる発電割合やそれぞれのコスト、投資額などのデータを示し、「原子力は完全に負けている。もう勝負はついていて、どうしようもなくなっているから、論理のすり替えや責任転嫁が行われている」と締め括り、2時間にわたるオンライン座談会を終了しました。
当日は、NDがアウトリーチの一環として、幅広い年代を対象に、「再処理」や「核廃棄物」などについて解説した短編動画もお披露目されました。短編動画と、この座談会の記録動画は、NDのYouTubeチャンネルからご覧いただけます。
