違う外交の姿を提示する リベラル・革新側の責任として

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【違う外交の姿を提示する リベラル・革新側の責任として】(図書新聞 5/6)
猿田佐世

新外交イニシアティブ(ND)事務局長で弁護士の猿田佐世氏が、新著『自発的対米従属――知られざる「ワシントン拡声器」』(角川新書)を刊行した。トランプ政権の誕生で改めて日米関係の動向に注目が集まるなか、その書名のとおり、日本が続ける「自発的対米従属」の本質に迫った一書である。外交に市民の多様な声を反映させるために、ワシントンで対米政府・議会へのロビー活動や具体的な政策提言を続ける猿田氏に、本書をめぐって話をうかがった。(4・6日、東京都練馬区にて。聞き手・米田綱路〔本紙編集〕)

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自発的に従属していく日本外交の姿

――書名の「自発的対米従属」について、まずおうかがいします。

猿田 自発的に従属するというのは、言葉としては一見矛盾しているように見えますが、それが矛盾なく一つになっているところに、日本の対米外交の本質があると私は考えています。
日本のリベラルや革新は、政府の対米従属の姿勢はよくないとこれまで批判し続けてきたわけですが、保守の側はこれまで、対米従属姿勢を積極的に認めるようなことはあまりなかった。ところが、昨年一一月の大統領選挙でトランプ氏が当選した後の日本政府の対米従属ぶりを見ると、もう誰も否定できないほど、自発的な対米従属の姿が露わになりました。
安倍首相は、これしか道はないと開き直っている。そして保守の中でも、そのことに関して批判するでもなく、それしか道はないのだから仕方がないと、自発的だということをいよいよ認める人もでてくる。大統領選後にトランプ氏の自宅まで首相が飛んでいく姿など、歴史的に見ても、自発的対米従属がここまではっきりと露呈することは少なかったのではないでしょうか。
ワシントン発の情報を“アメリカの声”として最大限利用しながら、日本政府やエスタブリッシュメントが既得権益を守り、やりたいことを実現していくシステムが、戦後七十数年間の歴史の中で脈々と構築されてきた。日本の人のほとんどは、あまり目にすることもなく、知る機会もないことですが、私はこのシステムを「ワシントン拡声器」と名づけて、どのような構造になっているのかを本書で示しました。日本政府や企業は、アメリカのシンクタンクやロビーイストなどに何千万円、何億円といった多額の資金を提供し、その時々の情報を伝えて、アメリカの知日派たちから「安保法制賛成」「原発推進」といった発信をしてもらい、これを日本に伝えて、日本国内で進めたい政策を実現していくのです。日本のエスタブリッシュメントが日本製ともいえる“アメリカの外圧”を使って、国内で進めたい政策を進めるというシステムです。
私は、ワシントンに行くまでは、社会にはいろいろな考え方や価値観の人がいることが当然だと思っていた。けれどもワシントンに住んでみると、そこに滞在する日本の大使館や大企業、大メディアの人々考え方はきわめて均質化している。振り返ってみれば、霞ヶ関や永田町も均質化しています。日本社会全体を見れば、様々な意見を持つ人が混在しているにもかかわらず。
そういった社会で生活しているエスタブリッシュメントの人々は、普段から周りがあまりにも均質化しているので、自分とは違う意見に触れて、もまれながら生活する機会があまりないのかもしれません。

――均質化しなければエスタブリッシュメントになることができないという側面もありますね。本書に書かれている既得権益層の集団主義の思考は、各社横並びで「特ダネ」よりもむしろ「特オチ」を恐れるマスコミにも徹底しています。マスコミのエリートも既得権益層と同質で、均質化しているといえるでしょうか。

猿田 そうですね。ワシントンに派遣されている記者は新聞社きってのエリートですし、日米安保などを担当してきたバックグラウンドをもつ人が多いので、日本メディア全体に比べるとより均質化された存在です。しかも、ワシントン発のニュースは常に大きく扱われるため、ものすごく忙しい中でワシントン発のニュースをどんどん出さねばならず調査報道などをする時間はない。横並びの記事を書く可能性が高くなります。
私はこれまで、日本国民にその仕組みを明らかにしないまま「ワシントンの拡声器効果」を使う日本政府の官僚や政治家を批判してきたのですが、最も批判すべきはマスコミだという意見を、このあいだ当のマスコミの関係者から聞きました。
三月二七日に、橋下徹元大阪市長がワシントンのシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)で講演しました。橋下氏が「今の日本の軍事力は非常にお粗末だ」「米国は日本に強力な外圧をかけてもらいたい。外圧がないと日本は変わらない」などと述べたことを日本メディアはこぞって報道した。橋下さんは、ワシントン拡声器を使って日本の自衛隊の役割・能力を強化しようとしたわけです。
恐ろしいのは、メディアがそろってその発言を大きく取り上げることです。冷静に考えてみると、橋下氏がワシントンで講演した、ということは、日本の私たちにとって特に重要ではありません。

――マスコミは、橋下元大阪市長がいみじくも活用を公然と訴えた、ワシントン拡声器の広報役をみごとに務めていることになります。

猿田 国内にも記者クラブ制度などの問題点があります。しかし、日本国内ならば、フリージャーナリストが独自に取材しようと思えばできる。けれどもワシントンにはそんなジャーナリストもいません。ですから、ワシントンから日本に伝わる情報はさらに均質化し、加えて、アメリカが日本に強大な影響力をもつことも合わさって、ワシントン拡声器は極めてパワフルに機能していきます。
トランプ氏が大統領に当選してからの新聞の論調は、朝日新聞も含めて日本政府擁護がとても多かった。日米同盟は従来どおりでなければ困るというトーンが通底していました。日本のメディアはトランプ氏のことばかり書き立てましたが、安倍首相がニューヨークへ飛んで行ったことについて批判した大手メディアはなく、「今まで通りの日米関係に戻せないものか」という論調ばかりでした。
二月一〇日の日米首脳会談で、安保については「満額回答」を得たと、安倍首相はほくほくしていましたね。日本では、これまでは保守層の中にも、米軍の駐留経費について減額請求すべきとか、辺野古の新基地建設には賛成しても沖縄の基地負担は減らしてもらおうとか、少しは日本からの要望を出そうとしていたのが、それは全てかき消えて「満額回答」と喜んでいるわけです。
今までよりも悪くなっているのに喜んでいる。自発的対米従属が身に染みついている。それ以外のことがもはや考えられないのでしょう。
私もアメリカとは良い関係を維持すべきだと思います。何年も生活した大好きな国であり、良いところがたくさんあることも知っています。ですが、これはあまりに酷い。いまや自発的対米従属は、絶対に変えてはならない、いわば、開けてはならないパンドラの箱のようになっています。
しかし、これに対してアメリカの人たちは日本のことをどの程度知っているかというと、本当に知らない。沖縄の基地問題についても多くの人はほとんど知りません。
ですから、日本政府やエスタブリッシュメントが「アメリカの声」として流すワシントン発の情報には、気をつけながら接しなければなりません。一部の声のみが「アメリカの声」として強調された形で伝えられるからです。私たちはその情報が偏っているかどうか分からないまま、それ以外の情報はあるのか、間違っているのかどうかを判断することもできない状態になってしまっている。にもかかわらず、アメリカからの情報は影響力があるので、「安保法制」でも「原発」でも、それに影響を受け続けている。その「アメリカの声」の発信元に日本政府や企業が多額の資金を提供しており、それを私たちが知らないというのは、民主的なあり方とは言えない。

軍事的な裏付けをもった基地不要の政策提案

――新外交イニシアティブ(ND)では、「マルチトラック外交」に取り組まれています。

猿田 外交といえば、国と国との間でのみ行われる従来型が、今の時代まで続いている。教育にしろ、社会福祉や経済にしろ、今や国だけがリードできる分野はどこにもありませんが、外交に関しては、まだ国という存在だけが当事者資格を持っている。条約を結ぶことができるのも国だけだし、国連に出られるのも国しかない。
国連などの会議では、NGOの声をきちんと聞こう、市民社会からの報告書も読もうというふうに、NGO等の存在が認められ始めています。けれども、こと二国間のワシントン‐東京間の外交になると、他の声は一切受けつけない現実がある。
マルチトラック外交とは、そうした「国家」の外交にNGOや市民社会の声を入れて、民意を反映していくことです。二国間の外交でも、国家とは違う考えを持っている沖縄県のような存在や、時には一市民の声も参考にしながら、政策は決められねばならない。
特に私が確信を持って言えるのは、この本の最初に書いたように、原発、安保法制など、国のあり方を左右するような重要なテーマのいくつかにおいて、「国家」が外交で進めようとしている方向が、多くの世論調査の結果とは異なるということです。つまり世論を無視して、自分たちが突き進む方向はこっちだと決めてしまっている。日本の将来を決める重要な問題であるにもかかわらず、民意とも外れるような政策を国のみが外交の当事者として推し進め続けている。これはおかしいと思います。

――NDの「辺野古オルタナティブプロジェクト」も、マルチトラック外交の実践の一環なのですね。

猿田 NDではこの三年間、外交・防衛の専門家らとともに、海兵隊の展開や運用実態について調査し、アメリカ側の資料なども踏まえながら、普天間基地閉鎖のためには辺野古移設が本当に必要なのかについて検討を行ってきました。これはアメリカの利益不利益をも検討しながら、日本政府がとる「辺野古が唯一の選択肢」を問う試みです。この二月に、プロジェクトの報告書「今こそ辺野古に代わる選択を――NDからの提言」を発表し、NDのHP上にもアップしています。
アメリカのほとんどの人は辺野古の基地問題について知らない。でも、日本の人は、基地を造ってほしいというアメリカの総意があると受けとめている。
実際には、アメリカの政府に近い存在の人でも辺野古基地建設にはこだわらないとの意見を持つ人も多いのです。リチャード・アーミテージ氏やジョセフ・ナイ氏ら、集団的自衛権などを日本に押しつけてくるタカ派と思われている知日派の人々が、別に辺野古である必要はないと言っている。でも日本の人は、そのことを全然知らないわけです。
NDは大きく分けて二つの活動をしています。
一つは、アメリカにあるさまざまな声を日本に伝えていくこと。これには、日本に届く「アメリカの声」のうち相当程度のものが日本の影響を受けて作られている、という「ワシントン拡声器」の存在を日本に広める、という要素も含まれます。
もう一つは、現在届いていない日本の声をアメリカに伝えて行くということです。例えば、沖縄の基地建設反対の声などです。
なお、単に声を伝えるといっても、相手に声を届かせるためにはどうすべきかを検討した上で声を伝えることが必要です。辺野古基地建設反対についても、民主主義や環境などの視点からの反対に加え、軍事的な裏づけを示し、辺野古の新基地がなくてもアメリカの軍事戦略は完遂できる、軍事専門家の視点から見ても辺野古の基地は要らないのではないか、ということをロビー活動で訴えていく。面談の相手によって話し方を変えて、相手が関心を持つ視点から話をする必要があります。もちろん、同じコトバで話しても、異なる結論で終わることも多いですが、話を聞けば、そういった議論があるのか、という意識はもつようになる。
辺野古オルタナティブプロジェクトは、アメリカをターゲットにしたプロジェクトです。北朝鮮がミサイルを撃ったりしているわけだから、それに対して海兵隊の基地は必要だと、何も知らずに言う議員がアメリカにもたくさんいます。でも、それには嘉手納基地の空軍や横須賀の海軍が対応することが予定されており、辺野古の基地に移転されることになっている海兵隊が真っ先に飛んでいくわけではない、といったことをきちんと説明する。そうすることで、軍事的視点を重視するアメリカの人たちもなるほどと納得できるようになります。
辺野古基地建設に賛成する日本の人たちも、私のような立場に対して、中国や北朝鮮に攻め込まれたらどうする、日本をどうやって守るのか、と言います。だからこそ、辺野古オルタナティブプロジェクトで軍事の専門家も交えて議論をし、辺野古の基地建設がなくとも北朝鮮や中国の脅威については問題がない、ということを報告書にまとめたのです。中国の弾道ミサイルの射程内にある沖縄に米軍基地が集中する現状を変えるべきだとジョセフ・ナイ氏も言っています。そういったことを、日本の人々に対しても訴えています。
日本のリベラル・革新層からも、なぜこんなに防衛戦略的な研究をしているのかと反発を受けたりするのですが、それはまさにアメリカのペンタゴン(国防総省)や安全保障の専門家に話を聞いてもらうためです。今回の報告書は、実際にワシントンで、軍事的な論拠を示さないと耳を貸してもらえない、という面談を何度も経験してきたことに基づいて作られています。

――本書では具体的にどのようにロビー活動をするかについて、実践例に基づいた方法を示されています。

猿田 アメリカでロビー活動をしてみて身についたことは、ロビー活動では相手の利益になることは何か、ということを最初に考えなければいけないということです。この面談で何をどのように説明すればこの議員を動かし、社会を変えるために意義ある面談とできるのかを常に考えながら、働きかけを行っていく必要があります。
日米安保に関してリベラル・革新側は、憲法九条のもとで防衛政策の具体的な研究をしないということでこれまで来た。とても素晴らしいことではあるけれども、反対運動を裏付ける理論が必要な沖縄の基地問題といった場面で、政策提言ができないという弱点もあったように思います。辺野古の問題についても、中国や北朝鮮を脅威だと信じている人たちに対して、対案を出すための蓄積が足りない現状がある。さらに今では、アメリカに対してだけではなく、日本の世論に対しても、安全保障の観点からも反対の理由づけを示すということが必要になってきています。
辺野古オルタナティブプロジェクトに参加している専門家の方々は、沖縄の人たちが自信を持って反対運動ができるように、という意識も持ちながら具体的な政策提言に取り組んできました。

エスタブリッシュメントの言うWeとは誰か

――恣意的に選択された自発的対米従属の典型が、日米地位協定だと本書で述べられています。二〇〇四年に起きた沖縄国際大学への米軍ヘリ墜落事件の際、米軍は現場を封鎖し、日本の警察は立ち入ることができず、すぐに現場検証ができなかった。こうした治外法権の最たるものが日米地位協定であるはずが、日本のエスタブリッシュメントはそれを従属だとは捉えないわけですね。

猿田 日本側が地位協定を本気で変えようと思えば変えられると思います。補足協定等を作って改善していると政府は述べますが、本気で現在の状況を変える必要があるとは思っていないでしょう。
この本にも書きましたが、例えば、私がお話した元外務省の宮家邦彦さんも、沖縄のために米軍基地をめぐる状況の改善にこれまで務めてきたし、暴行事件が起きて本当に残念だ、とおっしゃりながら、けれども結論としては、ヘリ墜落事件で墜落現場を米軍が封鎖し、日本側がその中に入って捜査ができないことを問題だとも全く感じていない。「問題はあるけれど、改善は難しい」というのではなく、問題だと考えてもいないのです。問題だと感じない、ということが、もはや自発的対米従属のあらわれであると私は思います。基地と隣り合わせに生活せざるをえない現場の人が、何に困り、どう改善したいと希望しているのか、ということに考えを至らせようという気がおよそないのです。
先日、G7のある国の大使館に、今の日本の情勢について意見を聞かせてほしいと呼ばれて、本国から来た大使(Ambassador)と話をする機会がありました。日本でのできごとですが、その時、日本人では私以外にもう一人、政府に近い日本のシンクタンクの研究者も呼ばれていた。
その話の中で、私は、駐韓大使を日本に引き上げたまま、なぜ戻さないのかと言いました。中国や北朝鮮が問題だと言うけれども、それならば一番仲良くしなければいけない韓国から大使を引き上げたまま戻さないというのはどういうことですか、と言ったのです。
それに対して、もう一人の方は、日本の面子の問題だ、日韓両国が歴史問題で合意したにもかかわらず、韓国が合意を守らず、約束を破ったことを示すために大使を引き上げたのだ、それは仕方がないことで、大使を戻すわけにはいかないのです、と続けました。
しかし蓋を開けてみたら、わずかその数日後日本政府は大使を戻した。今、その人はどう言うのか聞いてみたいものです。きっと、なぜ返したのか日本政府の立場を分析して説明するのだろうと思います。
そこには、外交を「どうすべきか」という考えがない。決まっていることを是として説明するだけで、本来の国益を考えているふうでもない。そんな分析を続けている専門家が日本に大勢いる気がします。

――国益を最大限に追求する論理的かつ自立した思考がないということですね。

猿田 現状の肯定にまずは思考が向いており、本来はこうあるべきだ、というものを感じません。
私が非常に気になったのは、その時に大使の前で発言した政府寄りのその研究者が、自分の意見をWeで話したことです。つまり、「(I think)私は韓国大使を戻したらいいと思う」と、私がIを主語に言えば、その人は「(We think)私たちは韓国大使を戻せない」とWeを主語に言う。他の国の大使館に呼ばれて、ごく少人数の場で、個別の意見を聞かれているのに、いったいWeとは誰だ? どうしてWeで話すのか? ・・・2時間近くの間、いったいこの人はいつまでWeで話すんだろう、と思いながら彼の話を聞いていました。

――そういう場合にWeで話すのは、政府寄りの人の一般的な言い方なのでしょうか。

猿田 Japanを代表したようなかたちで、ワシントンのシンポジウムなどで話す時にはWeになりますね。だから、その人が言うWeも、おそらくJapanなのです。

――私たちが知らないところで、Weを名のっているわけですね。そのWe意識とはいったい何なのでしょうか。

猿田 「私たち日本は」という意味で使っているのだと思いますが、つまるところ、マジョリティ意識だと思います。英語だからこそ気が付くこともあると、改めて思いました。
ワシントンで生活していると、日本人の数もすごく少ないですし、顔も見えるようになって、We感が出てくることはある。さらに、みんな意見が同じだから、そこでは安心して、みんなWeで話します。
また、例えば、東日本大震災の直後、2011年11月に、アメリカのあるシンクタンクから原発再稼働等を日本に対して求める意見書が出た時、在米大使は日本を代表して、有り難うございますと答えていました。日本中で原発反対が盛り上がっていたにもかかわらず。
本当はいろんな考えをもつIがいて、それが集まって日本というWeになっているはずなのですが、外交の現場で日本を語っている人々は「様々なIの集まり」としてではなく「単色のWe」を使って話すことが多いと思います。そして、例えば沖縄に基地が必要だと言う時に使うWeには、おそらく沖縄の人たちは入っていない。

――かつて鳩山政権が誕生し、辺野古の基地建設については「最低でも県外」と公約して従来の日米外交路線とは異なる道を取ろうとし、ワシントン拡声器を使った日本製の外圧によって退陣に追い込まれました。そしてこんどは、トランプが沖縄からの米軍撤退に言及し、アメリカの知日派から「トランプ困るコール」が繰り返され、本書で書かれているとおり、日本がその声にも押されて自信を持ってトランプ氏に働きかける、という「逆拡声器」の動きが目立ちました。日米のエスタブリッシュメントはこうして双方で拡声器効果を利用しながら、日米外交を規定路線に戻そうとしてきたわけですね。

猿田 トランプ大統領の登場で、その仕組みがよく見えるようになったということだと思います。既存の外交関係を維持したいと考え、トランプに対してものを言いたい知日派は、共和党系の人々も含めてクリントンを支持して選挙で負けてしまい、直接に意見を言えないから、日米関係はこうあるべきだと日本側に伝え、日本政府がそれを受けつつ自発的にトランプにぶつかっていくことで、従来の日米外交路線に戻した。
同じことが、鳩山政権誕生の時に行われていた。「鳩山困るコール」をアメリカ側に伝えることで、日本のWeの人たちが一丸となって、従来の路線とは異なる道を取ろうとする鳩山のIを取り込んだ。その仕組みが双方で同じだったということです。
Iだけを強調すると個人主義のように聞こえるかもしれませんが、政府と異なる立場をとる人々にも、たくさんの仲間がいて、I が集まりWeであるはずです。それに多くの世論調査では、政府の見解とは異なり、原発反対や辺野古基地建設反対の立場の方が多数のWeですし、鳩山元首相もトランプ大統領も、選挙で勝利したWeです。これらについて、むしろ多数派は本来はこちらのWeのはずなのです。

――Weの主体はいったい何なのかと問われる局面に直面しない、一部のエスタブリッシュメントが、日米外交でWeを名乗っている現実がいっそう鮮明に見えてきました。

猿田 国と国が当事者になっている外交では、Weとは上層のエスタブリッシュメントのことなんですね。
安倍首相は一月二〇日の所信表明演説でも、日米関係は過去も現在も未来も不変だと言った。七十数年前に両国が戦争をしていたことを分かっているのかと疑いたくなるような演説でした。
そして、二月一〇日のワシントンでの安倍首相とトランプ大統領の会談で、トランプ氏は安全保障に関して従来の日米関係の路線に引き戻された観があります。
やはり私はリベラル・革新側の責任として、これとは違う外交の姿があるのだということを提示していかなければいけないと考えます。自発的対米従属に物申さなければ、不作為による承認となり、こちら側にも責任がある。
ですが、巨大な資金を有するエスタブリッシュメントのワシントン拡声器に対抗するにも、資金面では勝てない。私たちはその厳しい状況下で動かなければいけないわけですが、世論に働きかけ、効果的なロビー活動や政策提言をしていけば、少しでも有意義な結果を出していけるのではないか。これまでNDでは沖縄の問題でワシントンにおいてロビーイングを行ったり、原発推進の「アメリカの声」は日本の誰によって日本に運ばれてきているのかといったことの調査などを行ってきました。
一人でも多くの方々にNDの会員になっていただき、このような政策実現に向けてサポートを頂ければ幸いです。(了)