鳩山元首相の訪米同行を終えて(上)

【鳩山元首相の訪米同行を終えて(上)】(imidas 3/22)

第9回 2018/03/22
猿田佐世(新外交イニシアティブ事務局長)

この2月、鳩山由紀夫元首相の政界引退後初の公式アメリカ訪問に同行した。アメリカとの関係は、鳩山政権が短命に終わった原因の一つと言われる。日米間の新しい関係を模索した鳩山政権当時の一連の出来事は、皮肉にも、その後現在に至るまでの、日本の対米従属姿勢を更に強めるきっかけとなってしまったものとも言える。今回の訪米の企画・同行では、準備期間の半年も含め、日本の外交政策がどうあるべきかを常に考え続けることとなった。

訪米のきっかけと目的

私の属する「新外交イニシアティブ(ND)」は、鳩山氏の訪米の企画が話に上がった当初から相談を受け、1週間のアメリカ滞在の中身をどのように詰めていくのか、ゼロから日程を組み、その全行程を共にする機会を頂いた。

そもそもは、国際関係学の分野でアメリカきっての名門校であるプリンストン大学のウッドロー・ウィルソン・スクールが鳩山氏を招聘(しょうへい)し、そこで講演することをきっかけにアメリカ公式訪問を行う運びとなったものである。せっかくアメリカを訪問するのであれば、自らの考える外交理念を多くの人に伝える機会にしたい。そんな鳩山氏の思いを受け、講演の前後にワシントンやニューヨークも訪問し、各界の要人たちとの会談を行い、米メディアの取材も受け、広くアメリカに、そしてアメリカを通じて世界に発信する訪問にしよう、そんな流れで日程を作っていった。

鳩山氏からの発信は、沖縄の辺野古の基地建設をやめること、北朝鮮へのアメリカからの先制攻撃をやめること、そして、東アジアにおける紛争解決の手段としての最終目標である「東アジア共同体」構想、というこの3点を伝えることに重きをおいた。

鳩山政権とアメリカ

民主党・鳩山政権は、2009年8月の衆議院選挙で圧倒的議席数を得て誕生し、戦後初の本格的政権交代を実現させた。アメリカとの関係について「対等な関係」をうたい、日本独自の外交姿勢を打ち出そうとした。

しかし多くの困難が付きまとう。政権交代直前に、ニューヨークタイムズに東アジア共同体についての鳩山氏の論考が掲載されたが、これが歪めて捉えられ、アジアからのアメリカ外しを狙ったものとしてアメリカの反発を招いた。

また、鳩山政権は沖縄県の米普天間基地の移設地を同県内の辺野古ではなく「最低でも県外、できれば国外」と掲げた。しかし、結局、辺野古移転を認めざるを得なくなり、これが政権の命取りとなって9カ月経たずに退陣となった。

確かに、初の本格的な政権交代であったこともあり、官僚との関係をうまく構築できない中、民主党内の鳩山氏の支持者も減り、リベラル支持者からの突き上げもあって、今思えばああすべきだったこうすべきだった、などと思うところを挙げればきりがない。

今ではこの「失敗」によって「日本の外交を変えたい」という試みそのものを「二度とトライしてはならないもの」と日本全体が記憶してしまっているようにすら感じられる。だとすれば、それは「手法」と「目的」の問題を混同しているのではないかと私は思う。

鳩山的ハト派の外交的立場

鳩山氏が早期退陣したことによって、鳩山氏の主張するソフトな外交姿勢や、アメリカに対する幾ばくかでも独立した日本といった視点自体が強く否定される結果となってしまった。保守陣営からの批判のみならず、リベラル陣営にも、鳩山氏が当時提唱したことの多くを否定したり、当時の「失敗」を鳩山氏一人に押し付けたりするような傾向が見られる。例えば、安倍晋三政権への対抗軸を打ち出す存在であるとして票を伸ばしたはずの立憲民主党ですら、いまだに鳩山政権の失敗がトラウマになっているのか、「辺野古の基地建設計画は撤回」と言いきれていない。また、「東アジア共同体」構築という、本来、この東アジア地域の紛争解決システムの一つのモデルとなって良いはずの構想についても、鳩山退陣後、タブーであるかのごとく、日本ではあまり語られなくなった。

しかし、鳩山政権が短命に終わったからといって、それと共に彼が主張してきたようなソフトな外交方針を掲げる存在が日本からいなくなって良いわけではない。

例えば、目下一番の問題である北朝鮮への対応である。安倍氏は、この間、アメリカからの先制攻撃の可能性をも認めるドナルド・トランプ氏の姿勢を「日米は100%ともにある」と絶対的に支持してきた。しかし、アメリカからの先制攻撃は、日本に甚大な被害を及ぼす可能性があり、日本の中に死傷者が出ることを避けたいと思うのであれば、日本としてこれを容認することは本来できないはずである。にもかかわらず、「アメリカからの先制攻撃に絶対に反対」と明言している政党も多くない。トランプ氏と金正恩氏が会談を行うという話になってからも、日本は変わらず最大限の経済制裁を求め続け、北朝鮮からですら、日本だけが置いてけぼりになっていると皮肉られている始末である。

今回の鳩山訪米では、後で述べるが、超大物のアメリカ連邦議会議員やその他多くの専門家と会談を行ったが、彼らのほとんどがアメリカからの先制攻撃に反対であった。「どうして安倍氏は、日本に被害が及ぶかもしれないのにトランプ氏を支持するのだ。安倍氏はトランプ氏を止めなければならないのに、逆にあおっている」という批判を随所で聞いた。

なぜアメリカ人にそれが言えて、日本人はそれを明言できないのか。

新しい外交パイプの構築

ワシントンの「知日派」と言われる人たちが、「鳩山的」なものをこき下ろし、冷たい扱いをしているのをこれまで見てきた。しかし、今回の訪米では、現在の日本の外交姿勢について具体的な問題点を指摘しながら、改善の方向性を議論していくことで、「再度日本でリベラルが政権を取った時には、二度とあのようなことにならないように」とアドバイスをくれる人たちも多かった。

「日本とアメリカの在り方を考える」

残念ながら、現在「日米関係」は、日本という国の在り方そのものを考える時の最重要事項でもある。私は、鳩山政権発足時にワシントンに在住していた。日米外交は一部の特定の人々の声に占拠されており、彼ら以外の声、例えば沖縄や福島の声が現在の外交パイプではワシントンに運ばれないことを実感して、日本とアメリカの人々をつなぐ活動を始め、それを今まで続けてきた。

鳩山政権は理念を全く実現に移せなかった。その失敗は大いに批判されて良い。しかし、退陣から8年近くも経過した今、鳩山政権に対する批判は、今後、日本の在り方を転換しようとする際に、経験として生かされるような、将来につながる有益なものにしていかなければならない。

特に、「アメリカとの関係は今のままでは良くない」と少しでも考える人ならば、そろそろ、新しい外交がどうあるべきか、具体的に語り始めなければならない。そうでなければ、いつまで経っても強硬な外交姿勢に終始する安倍政権のオルタナティブは実現しないであろう。

アメリカでは、前回の大統領選挙を争ったバーニー・サンダース陣営などの新しい動きが社会的に認知され始めている。今回の訪米では、サンダース氏本人やサンダース陣営の次期大統領候補とされるエリザベス・ウォーレン上院議員との会談も実現した。私は、日本でいつの日か再び実現するであろうリベラル政権への交代に備え、今の時点から、アメリカと日本の外交パイプを太く多様性のあるものに変えられるよう努力を続けていきたい。

折しも、鳩山訪米に続く週に、私は、引き続きアメリカで立憲民主党結党後初の同党議員によるワシントン訪問をサポートする機会を得た。民主党時代のやり方を改善しながら、立憲民主党は新しいアメリカとのパイプを構築しようと一歩を踏み出し始めている。この立憲民主党のアメリカ訪問の詳細は別の機会に譲るが、現在の保守的な日米外交パイプのオルタナティブを、具体的に作ろうとする取り組みは既に始まっている。

こちらの記事は、2018年3月22日に「情報・知識&オピニオン imidas」に掲載されています。