研究・報告

【ND企画】ナンシー・オケイル氏 訪日報告

米国のシンクタンク「国際政策センター(Center for International Policy)」所長のナンシー・オケイル(Nancy Okail)氏が今年2月に来日し、2月25日、日本プログレッシブ議員連盟の執行部と参議院議員会館で意見交換を行いました(通訳:猿田佐世ND代表)。国際政策センターは、元大統領候補のバーニー・サンダース民主党上院議員や進歩派グループの外交政策を支えてきたシンクタンクです。

大統領就任以来、大統領令を連発して世界を揺さぶるトランプ氏について、進歩派のオケイル氏が示した見解は大変興味深いものであったため、下記に報告します。

なお、オケイル氏の訪日は、新外交イニシアティブが企画し、本面談以外にも複数の国会議員との面談や市民社会・研究者との面談等を行いました。

訪日時に猿田ND代表が話を伺い、まとめたオケイル氏のインタビュー記事「市民社会を強化せよ トランプ政治に対抗するアジェンダを」が雑誌「地平」6月号に掲載されていますので合わせてご覧ください。※掲載誌はこちら

◆ ナンシー・オケイル氏の見解◆

・トランプ政権で米国はカオスの状態に陥っている。今回の政権は、第1期とは全然違う。前回はトランプ氏の言うことを聞いたふりをして従わなかった人たちがいたが、トランプ氏はそれに気付いたため、今回はそういう人たちを一掃し、トランプ氏に忠誠を誓う人たちだけで政権を固めた。

・国務長官にマルコ・ルビオ氏が選ばれた時、周りは驚いた。なぜなら、ルビオ氏はネオコンで、元々はトランプ氏の「アメリカファースト」とはイデオロギーが違っていたからだ。だが、トランプ氏に従うイエスマンに変節していたため選ばれた。

・ヘグセス国防長官のような問題を抱えた人物を政権幹部に選んでいるのはトランプ氏の戦略の一つだ。気に入らないことがあれば簡単に解任できるし、周囲も「解任されて当然だ」と見る。また、トランプ氏は自分よりできる人物も好まない。

・トランプ氏は同時多発的に様々な政策を打ち出して社会を混乱させ、関心と注目を集めている。トランプ氏に対抗しようとする者の意志をくじき、相手の行動を困難にさせる狙いがある。例えば、国際開発局(USAID)の事実上の閉鎖や不法移民の強制送還、連邦政府職員の大量解雇などである。

・トランプ政権については現実とレトリックを分けて考える必要がある。また、私たちにとって大事なのは、混乱させられることなく、真実は何かを見極めて対処することだ。もっとも、トランプ氏が危険であり、かつ極めて大きな影響力のある人物であることは認識しておかなければならない。国際的な枠組みや制度、国際法や国内法を破壊しようとしていることが氏の影響の中でも最も危険なことだと考えている。国際機関への拠出金停止やパリ協定からの脱退、米国内の民主主義的な制度を支える法律を停止するなどしており強い懸念を持つ。

・海外腐敗行為防止法(Foreign Corrupt Practices Act)は、米国の企業等による他国の公務員に対する賄賂を禁止する法律であるが、トランプ氏が効力を停止した。このため、米国内の腐敗だけでなく、海外に腐敗を輸出する形になった。氏が停止した理由は、アメリカの企業に競争力をつけさせるためということだが、その結果、多くの資金を出せる人、オリガルヒ(寡占資本家)だけが利益を得ることとなる。

・イーロン・マスク氏は選挙で選ばれた訳でもないのに、大変大きな影響力を持ち、トランプ氏とは相互に影響を与え合っていて、トランプ氏がマスク氏から影響を受けていることもある。トランプ氏の政策は個人的、表面的なことに基づいていて、思い付きや、ビジネスに有利に働くかどうかということで方向性が決まっている。

・トランプ政権の外交で3点心配していることがある。ここでは、先に挙げた海外腐敗行為防止法の停止のような直接的なことではなく、間接的な形で影響が広がっているものについて述べる。一つめは、トランプ氏に反対することのコストの増加についてである。来日直前に私が出席した台湾での国際会議(ハリファックス国際安全保障フォーラム)では、トランプ氏が反対するものに自分は賛成できないという声があがっていた。二つめは、トランプ氏から直接的な指示もないのに他の人々が対応してしまうことである。例えば、重圧をかけられたわけでもないのに、台湾の総統はGDP比3%まで軍事費を上げると決めてしまった。日本でも同じことが起こらないだろうか。三つめは、いろいろな形での人権弾圧が世界中に広がっていくことが懸念される。報道の自由も危うい。