【毎日新聞 12月3日】

「ワシントン拡声器」=青野由利

物事には名前を付けたとたん、実態がよく見えてくる場合がある。弁護士で民間シンクタンク「新外交イニシアティブ」の事務局長をつとめる猿田佐世さんが名付けた「ワシントン拡声器」もそのひとつだと思う。

その仕組みは10月末に出版した「新しい日米外交を切り拓く」に詳しいが、大まかに言えば次のようになる。

日本の政治家や官僚、大企業などが論争のある政策を日本で進めようと考える。彼らはワシントン詣でをし、日ごろから情報や資金を提供している「知日派」を通じ、自分たちの声を「ワシントン発」の声として発信する。声は拡大されて戻り、日本の政治や政策に大きな影響を与える。

しかも、猿田さんの聞き取り調査によると、日本外交に影響を与える「知日派」の数は5~30人程度。少数の声が「米国のすべて」のように扱われてきたことに驚く。

私がこのからくりを実感したのは3・11後の日本の原発政策だ。日本では再稼働反対が多数なのに、ワシントンから再稼働を求める「知日派」の報告書が発信され、「米>国の意思」と受けとめられる。日本のエネルギー政策を決める審議会に「知日派」が招かれ、原子力の専門家でもないのに「再稼働以外にない」と断言、委員が次々賛同する。

沖縄の米軍基地問題はもちろん、集団的自衛権、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)でも仕組みは同じ。メディアもこれに加担してきたという指摘は耳が痛い。

猿田さんがこうした日米外交のおかしさに気づいたのは2009年からのワシントン在住時代。「もっと多様な日本の声を米国に届けたい」と米議会の議員らに政策提言をするロビー活動を個人で始めた。その延長線上にある「新外交イニシアティブ」の設立や活動、日米外交のゆがみをまとめたのが新著だが、直後に次期米大統領がトランプ氏に。先週の出版記念シンポジウムでは「日本は従来の外交路線に戻ってくれとトランプ氏に訴えるばかりだが、沖縄の米軍基地の米国にとって無駄な部分を洗い出し、撤退・縮小に結びつけるといった具体的提案を今こそすべきだ」と語っていた。

猿田さんに共感するのは、人々が薄々おかしいと思いつつ、「そういうものだ」と思い込まされている仕組みに切り込み、実践によって変化を起こそうとしている点だ。トランプ次期大統領を日本のチャンスにつなげられるか否かも既成概念にとらわれない多くの人の働きかけにかかっていると思う。(専門編集委員)