研究・報告

軍事緊張が高まる東アジア 米側陣営の強化は平和をもたらすのか

北朝鮮とロシアが関係を深めている。
2024年が明けてすぐ飛び込んできたニュースは、北朝鮮から供与された弾道ミサイルをロシアがウクライナ戦争で使用しているとの懸念、というものであり、1月中旬には、モスクワで露朝外相会談が行われた。
露朝の関係深化は昨年後半から加速している。昨年9月に極東ロシアで行われた北朝鮮の金正恩総書記とロシアのウラジーミル・プーチン大統領の会談は世界の耳目を集めた。金総書記がロシアの宇宙基地を訪問し、ロケットの組み立て工場や発射場を視察するなど、両国は軍事的な結束を世界にアピールした。その後、11月には、北朝鮮が軍事偵察衛星の打ち上げに成功したが、過去数回の失敗を経ての打ち上げの成功はロシアの技術協力により可能になったとも評されている。

日本の安全保障関係者は露朝の結束強化に強い懸念を示している。確かに、これらの動きは東アジア地域の緊張をさらに高める要因になるものとして注視しなければならない。しかし、ここで忘れてはならないのは、この露朝の関係強化は、「米側陣営」の連携強化へのリアクションでもあるということである。

「安全保障のジレンマ」がすでに起きている

近年、米側陣営は、FOIP(「自由で開かれたインド太平洋」構想)に始まり、QUAD(日米豪印の協力枠組み)、AUKUS(米英豪の安全保障枠組み)と軍事的な結束を強めてきた。露朝首脳会談の1カ月前の昨年8月、日米韓首脳会談で、3カ国は、今後の首脳・閣僚級会談や3カ国軍事演習の定例化を決定した。9月に露朝首脳会談が行われると、日米韓は協議を行い、露朝間の協力が国連安保理決議の違反につながる可能性があるとし、違反に対しては明確な対価が伴うように協力し、米国の「拡大抑止」を強化するという方針を確認している。

そもそも米側陣営が東アジアにおいて結束を強化し、軍事力を高めているのは、中国の拡張主義的政策に対応し、また、中国と協力関係にあるとされるロシア・北朝鮮を抑止するためである。日本でも、台湾有事の可能性が語られる中で、軍事予算の倍増や敵基地攻撃能力の保有が決定され、軍事力の強化が進められてきた。
もっとも、FOIP、QUAD、日米韓協力といった枠組みは、中国や北朝鮮に対して一定の抑止力として機能したかもしれないが、「対立の緩和」「衝突の回避」とは逆の効果も生み出してきた。米側の軍事協力が急速に強化された結果、中露は日本を取り囲む形で共同軍事演習を行うようになり、さらには中露と北朝鮮の3カ国で軍事演習を行う提案までも、ロシアから北朝鮮に対してなされている。
「安全保障のジレンマ(自国の安全を高めるために軍事力を増強することでかえって他国との緊張が高まること)」が、すでにこの東アジアで起きている。

米側陣営とグローバルサウス

米国は「民主主義vs権威主義の戦い」として、米中対立における米側陣営の強化を図ってきた。
他方、近年、「グローバルサウス」と呼ばれる新興国や途上国で、ウクライナ戦争や米中対立に対して中立的な立場を示す国が次々と現れている。それらの国々は、軍事紛争に巻き込まれること、そして、直接的に戦火にさらされなくとも対立や紛争によって生じる経済的な悪影響を受けることを絶対に避けたいと考えている。この「グローバルサウス」は、人口においても国の数においても世界の過半を占め、近年「物申す」存在として急速に力をつけてきた。「米側陣営が結束すれば、世界秩序の方向性を決することができる」という時代は終わりを迎えつつある。
民主主義や人権、法の支配といった米側陣営の概念が多くの国に根づき、国際的なスタンダードとなることは望ましい。しかしそれは、強制や踏み絵によって実現するものではない。まさに米バイデン大統領が就任直後に繰り返し述べていた通り、「leading by example(模範を示して牽引する)」ということでしか、他国にそれらを広げるすべはないだろう。
日本でも、途上国などの軍隊に防衛装備品を供与する枠組み「政府安全保障能力強化支援(OSA)」の制度が設けられ、各国の防衛力強化を図るべく支援先を広げられている。しかし、日本もグローバルサウス各国と接する際、彼らを自陣営に取り組み、自陣営の軍事力強化を狙うための援助ではなく、各国のニーズに基づいた援助をすべきである。それによって各国が発展し、その結果、大国に振り回されることなく自立した決断ができる国になるような支援が求められている。米側陣営強化の視点からの援助が広がれば、ブロック化がさらに進んで地域対立が先鋭化し、紛争の可能性が高まっていけば、結果、人権や民主主義、法の支配の発展の障害にすらなってしまう。

日本外交に求められる「安心供与」

西側陣営と権威主義陣営の対立がさらに深まり、軍事力増強が両陣営で進めば、ふとしたきっかけにより軍事衝突が起き、エスカレートして大戦争となりかねない。また、対立が続けば、気候変動など地球規模で取り組むべき課題についての対策を取ることもできなくなってしまう。「対立の緩和」こそが、日本を含む各国の主要命題でなければならない。
「対立の緩和」を求める声は日本の中に根強くある。朝日新聞の世論調査(2023年5月2日配信)によれば、回答者の8割が台湾有事に巻き込まれることを懸念しており、7割が日本の安全保障を考える上で中国に対しては防衛力強化よりも外交や経済での日中関係の深化を望んでいる。そして、新聞通信調査会の世論調査(2022年11月12日発表)では、台湾有事が起きた際に自衛隊を派兵することに対して、約75%に上る人が反対している。
日本は、米国との関係を良好に維持しながらも、「陣営の強化」のみに偏りすぎない努力が必要であり、特に軍事的協力の強化には対立を深めないようにする慎重さが求められている。

軍事力を拡大するだけでは緊張が高まるのみである。軍事力強化を求める人々が声高に叫ぶ「抑止力」すら、ただ軍事力を拡大するのみでは機能しない。抑止力を機能させるには、「武力に訴えなくても核心的利益が脅かされない」と相手に考えさせる余地を残すこと、即ち「安心供与(reassurance)」が不可欠だ。そして、安心供与のためには、外交が欠かせないのである。
従来の外交チャンネルを拡大し、テーマも質も広げた充実した外交が重要だ。日中関係においては、政府の各レベルで対話ルートを構築し制度化することが喫緊の課題である。また露朝とも、たとえ困難であろうとも、直接対話の努力を欠かしてはならない。中露朝とは、安全保障以外のテーマでの多国間外交をも重視し、対話と協力関係を模索し続けるべきである。
東アジアでの戦争は何としても避けなければならない。そのために、日本は外交努力を尽くしつつ、グローバルサウスやその他多くの国々と共に「米中対立の緩和」を米中それぞれに対して呼びかけていく必要がある。

(2024/01/17 imidas)