【朝日新聞 8面】

ワシントン 日本の一面しか知らない
トランプ政権誕生 知日派の動き変化
【米国でロビー活動 猿田佐世さん】

米国のトランプ氏の米大統領当選後、日米関係者はどう変わるのか。米国でロビー活動を実践するシンクタンク「新外交イニシアティブ」の事務局長、猿田佐世さんに、ロビー活動から見えてきた日米外交の実情を聞いた。

――ロビー活動の現場とはどのようなものですか。
具体的な政策をつくって、米国の政策決定に携わる米国の議員などに働きかて賛同してもらったり、日米の議員の面会をサポートしたりします。とくに沖縄で根強い反対のある米軍基地の辺野古移設問題にかかわり、稲嶺進・名護市長らが訪米する際に補佐などをしてきました。ただ、米下院で沖縄の基地問題を担当する小委員会の委員長から「沖縄の人口は2千人くらいか」と尋ねられたことがあるほど、米国で日本に関心を持つ議員は少ないのが現状です。

――ロビー活動を始めたきっかけは。
ワシントンの大学で国際政治を学んでいたとき、日本では民主党に政権交代し、当時の鳩山由紀夫首相が辺野古移設を白紙に戻す発言をしました。しかし、日本国内の状況変化にもかかわらず、ワシントンで基地問題をめぐる会合に行くと、日本政府やメディアの関係者が辺野古移設を当然視し、鳩山政権を批判していました。ワシントンには日本の一面の姿しか知られていないことに疑問を持ち、多様な意見を米国政府や連邦議員に伝えるロビー活動を2009年に始めました。テーマは環太平洋経済連携協定(TPP)や原発問題などに広がりました。

――その経験から日米外交について何を感じましたか。
米国では、数十人の知日派と呼ばれる米国人たちの考え方が「米国の声」とみなされ、対日政策の決定に大きな影響を与えています。日本側も自分たちの意見を知日派に言わせることで「外圧」をつくり出し、自らが望む政策を日本で実現しています。わたしは、この仕組みを「ワシントンの拡声器効果」と呼んで批判的に語っています。

――トランプ氏の当選で外交の現場に変化はありましたか。
政治経験がなく、従来型の政権運営に縛られないトランプ氏の登場で、知日派が政権内部に入れる保障がなくなりました。大統領選挙後の知日派の発言を追うと、巻き返しを図る知日派が日本側に対し、安全保障など日米関係を既定路線に戻すようトランプ氏に働きかけるよう促していることが分かります。これまでとは逆に、知日派が望む政策を、日本を通じて実現しようと試みたともいえるでしょう。

2月の日米首脳会談で、選挙中に在日米軍の撤退を示唆したトランプ大統領は、辺野古移設や尖閣諸島をめぐる問題など従来の「日米同盟」の形を踏襲しました。ただ、トランプ政権は発足したばかりで実務レベルでの政策責任者はこれから決まるため、今後の展開は未知数ですが、日本に軍事的負担の増加を求めることが予想されます。日本がどのような外交姿勢をとるのか、議論が必要です。