【Aera.dot 10/17】

国難突破の争点どこへ?
北朝鮮の核攻撃でソウル、東京で死者210万人も
安倍自民は米国の軍事行動支持4割

 
衆院解散当時、その解散の正当性を示すためにしきりに使われ、メディアを騒がせた言葉「国難突破解散」。

少子高齢化なども「国難」の説明に使われたが、「国難」という極度に苦境を表す単語を用いた主たる理由は「北朝鮮問題にどう対処するか」ということを問う選挙にしようとした、とみるのが自然である。

選挙戦が進む今となってはその言葉を聞くこともほとんどなくなったが、数日前にある候補者への意見調査を目にして、改めて「国難突破解散」という言葉を思い出した。

候補予定者に対して「北朝鮮への米軍による軍事力行使」について問うその調査(共同通信社)によれば、自民党の候補予定者のうち実に39.6%が米軍の軍事力行使を支持するとの結果であった。不支持は半分の20.5%にすぎない。維新の党に至っては、77.5%が支持であった。なお、公明党は支持34.6%不支持57.1%、希望の党は支持21.3%不支持57.5%、立憲民主党は支持9.3%不支持85.2%、共産党は不支持99.2%であった。

ここで問われている軍事力行使は、当然ながら、北朝鮮から攻撃があった際に自衛権の行使として反撃することではなく、いわゆる先制攻撃を意味する。北朝鮮がいかに脅威であっても、そもそも「先制攻撃」は、国連憲章をはじめとした国際法では認められていない。

しかし、そのような国際法の解釈はおいたとしても、この調査で「支持」と答えた候補者たちは、実際に米軍が北朝鮮を先制攻撃したら日本はどうなると思っているのだろうか。米軍が、北朝鮮の核兵器やミサイルをすべてピンポイント爆撃し、北は反撃できず、日本には被害が及ばないと思っているのだろうか。あるいは、強い姿勢を国民にアピールをすることが選挙に有利に働くと考えてそのように主張しているだけで、実際には、米国からの北朝鮮に対する軍事攻撃などは起こらない、と思っているのだろうか。

安倍首相もこの間、強硬姿勢を国際社会にアピールしてきた。北朝鮮との対話は「無駄骨に終わる」とニューヨークタイムズに寄稿を寄せ、国連でも「今必要なのは対話ではない」と演説した。

中国外交当局者が、まるで日本は米国に戦争をさせたがっているようだ、と言ったが、そう言われても仕方がない状況である。

一度、どちらの側からでも武力が使われれば、日本や韓国でも、そして北朝鮮でも大量の死者が出る。先日、北朝鮮分析で知られる米ジョンズ・ホプキンズ大学のウェブサイト「38ノース」は、米朝間の軍事衝突となり、北朝鮮が東京とソウルに対し核攻撃を行った際には、両都市で計約210万人が死亡し、計約770万人が負傷するだろうとの予測を掲載した。

金正恩氏と挑発の応酬を繰り返し、軍事的選択肢をちらつかせるトランプ大統領。そしてそれを単純に支持し続ける安倍首相。そして、北朝鮮を米軍が攻撃することを支持する国会議員が大量に誕生しそうなこの選挙。

今ここにおいて、日本のもう一つの問題は、北朝鮮問題を主たる争点の一つとする選挙であると仮にも宣言しておいて、その点について具体的な議論がほとんどなされていないことである。

北朝鮮に対話を前提としないアプローチをしてその結果何が起きるのか、米国の軍事攻撃を支持するならするで、結果日本にどのような被害が出るのか出ないのか、被害が出るとすればどこまでなら許容できる範囲の被害だと考えるのか、そのような説明までしてこそ国民に選択肢を提示したことになる。

現在、経済制裁が進められているが、制裁をするのであれば、出口をきちんと見据えてなされなければならない。北朝鮮が「経済的に苦しくなりましたから、核兵器を放棄します」と白旗をあげるというシナリオがこの事態においてあり得るはずがないことは誰の目にも明らかである。制裁の目的は「対話に持ち込む」ということでなければならず、それは、現時点では北朝鮮の核保有を前提としたものでなければ、実現しえないだろう。この8月、スーザン・ライス前米国連大使も、ニューヨークタイムズ紙への寄稿で、北朝鮮の核保有を前提とした対処法を主張した。

自衛隊に詳しい山口大名誉教授の纐纈(こうけつ)厚氏(政治学)が毎日新聞のインタビューにこう答えていた。「北朝鮮から見れば、圧倒的な軍事力で朝鮮半島の緊張を高めているのは米国です。在韓米軍や在日米軍の戦力を段階的に軽減すれば『脅威』は確実に弱まるのに、その議論が全くない」。現在の日本においてこのような発言をする勇気に敬意を表したい。

「国難突破解散」だというのなら、北朝鮮問題について、いくつもの選択肢を具体的に、日本のリスクや被害の可能性も余すところなく提示して議論がなされなければならない。もちろん、この議論は、このような状況が続く限り、選挙後にも必要である。この事態に日本がどう向き合うか、冷静かつ真摯な議論が求められている。(猿田佐世)