【北海道新聞 11/6】

滞る再利用サイクル

猿田氏 蓄積問題 世界的視点で
日米で保有抑制議論を 逢坂氏

訪米団には、米国でのロビー活動の経験が豊富な「新外交イニシアティブ」の猿田佐世事務局長(弁護士)と、衆院道8区(渡島、檜山管内)選出の逢坂誠二衆院議員(立憲民主党、参加当時は民進党)が加わった。米国での成果や今後の活動方針を二人に聞いた。
 
■猿田佐世氏
使用済み燃料の再処理など原発の「バックエンド」(終末処理)を、日本では「エネルギー政策上の問題」とのみ捉える人が多い。適切に処理できなければ原発を動かせない重大な問題だが、関心や危機意識が必ずしも広がっていない。
 
他方、米国では「安全保障上の問題」として関心が高かった。北朝鮮の核開発が問題化している東アジアで、日本は多量のプルトニウムを持ち、消費の見通しもなく増やそうとしている。それによるアジア太平洋地域の不安定化への懸念は共和、民主両党の議員にも、政府高官にも共有されていた。
 
日本のプルトニウムの蓄積を世界的視点で捉えることが重要だ。日米原子力協定の改定はハードルが高くても、蓄積を減らすためのより具体的な方策を定めた文書を取り交わすなど方法はあるはず。当面は六ケ所再処理工場の稼働を無期限に延期させたい。
 
協定は日米どちらか一方が半年前に通告すれば終了する。満期約半年前の今年12月~来年1月が一つのヤマだが、その後いつでも協定改定は通告しうる。六ケ所再処理工場の稼働を延期させ、その間に日米でプルトニウム問題を考える委員会を設けることができればいい。
 
■逢坂誠二氏
米側は「原発や核燃料サイクルを実施するかは日本の主権の問題」と捉えている。日本が決断すれば原発や核燃料サイクルはやめられる。「米国がやめさせてくれない」という捉え方は誤りだ。ただ日本のプルトニウム蓄積はそれとは別で、米側は「国際安全保障上の問題」と捉えている。
 
訪米中、六ケ所再処理工場を動かして生産されるプルトニウムを消費できる見込みは、今の日本にはないと主張した。大間原発も反対が強く、核燃料サイクル施設や米軍基地が周辺にあって軍事的に危うい、と。特に米軍基地に近いという点で共感が得られた。
 
米国は核燃料サイクルはコストが高く、経済合理性がないとして断念した。経済性の面から見ても日本は使用済み燃料を全量再処理する路線を転換し、(再処理に回さずに)燃料を保管する手法を考えるべきだという指摘が多々あった。
 
日米で原子力協定の期限に合わせ、日本のプルトニウム保有量の抑制につながる文書を取り交わせれば意味は大きい。その結果、日本の核燃料サイクルが止まれば、大間原発を動かす必要はない。米側には日米の議員で話し合う場を設けたいと提案した。米議会での機運の高まりを期待したい。
 

再トラブル 審査中断 六ケ所再処理工場

日本原燃の六ケ所再処理工場では、訪問団渡米の前月に新たな重大トラブルが発覚し、運転開始へ向け最終段階に入っていた審査が中断する事態に陥っている。こうした状況下、サイクルの「推進」を掲げる国の「エネルギー基本計画」の見直し作業が始まり、新計画でサイクルがどう位置づけられるか注目される。
 

24度目の稼働延期

「(目標達成は)厳しい」「竣工時期に言及できる段階にない」。9月29日、原燃の工藤健二社長は青森市での定例記者会見で、「2018年度上期」としていた再処理工場の完工目標について問われ、こう答えざるを得なかった。
 
原燃によると再処理工場では8月、重要設備の非常用電源を置く建屋で雨水約800リットルの侵入が発覚。すでに稼働中のウラン濃縮工場でも、放射性物質ウランの分析室などの天井裏で排気ダクト損傷が見つかった。
 
再処理工場では問題箇所付近の配管設備を14年間も点検しておらず、違う部分を見て「止水処理されている」と国に報告していた。原子力規制委員会は9月、「まさに何をやっているのという話」(更田豊志委員長代理=当時=、現委員長)と厳しく指摘し、4件の保安規定違反を認定した。
 
これを受けて、原燃は約60万件に及ぶ再処理工場の設備の全数把握と確認などを進めているが、作業量は膨大だ。完工に向けた最終の申請書面を9月に規制委へ出す予定だったが、工藤社長は10月11日、提出を「当面先送りする」と表明。審査は中断している。
 
再処理工場は1993年に着工し、当初は97年に完成予定だった。だが約2兆2千億円もの巨費を投じながら、トラブルの連続で完工延期はこれが24度目。あまりの工事長期化に伴う設備の劣化、そして電力各社の寄り合い所帯でスタートした原燃の組織体質を問題視する声がある。
 

中長期では「柔軟」

トラブル発覚と同じ8月、経済産業省は中長期的な国のエネルギー政策の方針を定めた「エネルギー基本計画」の見通しに着手した。同省資源エネルギー庁は新計画について、「来年夏までの閣議決定を目指したい」(総務課)としている。
 
14年に閣議決定された現計画は「再処理やプルサーマル等を推進」と明記する。青森県や下北半島の市町村が、大間原発を含むサイクル関連施設の建設は「国策として推進される」と主張する根拠はここにある。
 
その一方、現計画は中長期的には「技術の向上、エネルギー需給、国際情勢等の様々な不確実性に対応する必要がある」「戦略的柔軟性を持たせながら対応を進める」としている。核燃料サイクルに詳しい鈴木達治郎・長崎大核兵器廃絶研究センター長(前原子力委員会委員長代理)は「プルトニウム蓄積への国際的懸念なども踏まえ、再処理量の調整や、長期的には使用済み燃料を再処理せずに直接処分するといった選択も可能にする意図が込められている」と解説する。
 

強まる国家の関与

ただ青森県は1998年に原燃と交わした覚書で、再処理ができないなら「六ケ所村で貯蔵している使用済み核燃料を各原発に返還できる」と取り決めている。燃料の保管施設が満杯に近い原発では、返還されると稼働できない状況に陥る恐れがある。
 
一方、政府は5月、「再処理等拠出金法」を定め、国の認可法人「使用済み燃料再処理機構」(青森市)を設立。電力会社に再処理の資金拠出を義務づけた上、国の関与を強めており、先の見通せない核燃料サイクルから電力会社が離脱できないようにした格好だ。
 
鈴木センター長は「拠出金法制定により、核燃料サイクルは『国家管理』の下に置かれたとともに『全量再処理路線』の堅持が強まった。次期基本計画でサイクルのあり方をどう表現するか、注目すべき点だ」としている。
 
■核燃料サイクル
原発の使用済み燃料を全量再処理し、抽出したプルトニウムとウランの混合酸化物(MOX=モックス)燃料を製造。これを①高速増殖炉②軽水炉(通常の原発)の二つで利用し続ける計画。①の高速増殖原型炉「もんじゅ」の廃炉決定に伴い、政府は当面、②の「プルサーマル発電」でサイクルを維持する方針。大間原発は全炉心でMOX燃料を使う「フルMOX」のプルサーマル発電を計画し、2024年度ごろの運転開始を目指している。
 
■プルトニウム
原子炉で燃料のウランが中性子を吸収してできる。代表的なプルトニウム239の半減期は約2万4千年と長く、人体への影響が極めて大きいアルファ線を放出する。鼻や口から吸引すると一部が肺に沈着、強い発がん性を示す。軍事が可能なため、日本は「余剰に持たない」と国際公約している。
 
 

たまるプルトニウム
「大間」と向き合う

電源開発(東京)が青森県大間町で建設中の大間原発は、「核燃料サイクル」で原発の使用済み核燃料から抽出した放射性物質プルトニウムを消費する役割を担う重要施設だ。だがサイクルはトラブル続きで計画通り回らず、核兵器の原料ともなるプルトニウムはたまり続けてきた。こうした中、日本にサイクル事業を認めた日米の協定が来年末期となる。この問題をめぐって9月に訪米団を送り、米国の議会、政府の関係者と接触した民間団体の動きを軸に、日本のプルトニウムの現状を追った。(中川大介)
 

米、東アジア不安定化を危惧

米国に訪問団を派遣したのは、NPO法人原子力資料情報室(東京)と民間シンクタンク「新外交イニシアティブ」(同)。自民、民進(当時)など超党派の国会議員も加えた12人で9月11~14日、首都ワシントンで28の連邦議会議員事務所やシンクタンクを訪ね、精力的に意見交換した。
 
米側に訴えたのは、蓄積したプルトニウムの消費が見通せないのに、さらにプルトニウム抽出を計画する日本原燃の再処理工場(青森県六ケ所村で建設中)が来年度上期の完工を目指している日本の状況だ。
 
日本は使用済み核燃料を全て「再処理」し、抽出したプルトニウムを利用する核燃料サイクルを国策としてきた。だが、高速増殖原型炉「もんじゅ」は昨年末に廃炉が決定。もう一つの「プルサーマル発電」も16~18基で計画されながら、東京電力福島第一原発事故後は3基にとどまる。
 
プルトニウム蓄積量はほぼ増加の一途だ。現在は核爆弾5千発以上に当たる約47トンもあり、六ケ所再処理工場が稼働すれば最大で年8トン積み上がる。一方で、プルサーマル発電で消費するのは1基当たり年0.3トン程度。「フルMOX」で年約1.1トンを消費できる大間原発も審査が長期化し、稼働時期は見通せない。ここで六ケ所再処理工場を稼働させてよいのか。訪米団はそこを訴えた。
 

協定は来夏満期

「日本のプルトニウム保有は国際安全保障の問題だ。米国や東アジアの国々と議論して、どうすべきか考えたい」。2団体が10月12日に東京で開いた帰国報告会で、原子力資料情報室の松久保肇事務局長は約90人を前に強調した。
 
報告によれば、米側は政党を超えて強い関心を示した。保守系の有力シンクタンク「ヘリテージ財団」から意見交換の申し出もあった。関心の源は「エネルギー政策上の理由」ではなく「安全保障上の理由」だ。
 
米国は日米原子力協定で、日本に特権的な内容で民生(原発)用の再処理を認めているが、来年7月が30年の満期だ。日本に確かなプルトニウム消費の見通しがないまま協定を延長すれば、東アジアの軍事バランスや「核不拡散」にマイナスの影響を及ぼすと、米側は懸念しているという。
 
松久保氏は報告会で、米韓原子力協定を巡る交渉で昨年、韓国が民生用再処理について日本と同等の内容を求めて米国から譲歩を引き出したと解説。「中国も民生用の再処理をしたいという話が出ている。東アジアでプルトニウムの生産拡大競争が起きることを米国は恐れている」と述べた。
 
一方、「脱原発を目指す首長会議」世話人の三上元・元静岡県湖西市長は「日本が核燃料サイクルを無理やり推進すれば、『核兵器を持ちたいのが本音』と見て中国が何か反応するだろうと、米国で会った人たちは案じていた。訪問団の意見に近かった」と語った。
 

脱原発へステップ

ただ、訪問団は「協定そのものを改めるのはハードルが高い」とも感じたという。報告会では「米トランプ政権が協定の自動延長を容認する」と報じた最近の日本の報道も引き、「同盟国である日本の政府が望まないこと(改定)をするのは難しいと米国は見ている」との発言があった。
 
それでも、報告者たちは今後も日米両国での問題提起を続けると表明。松久保氏はこう締めくくった。「ここから脱原発を実現する大きなステップになる」
 
■日米原子力協定
日本の原子力平和利用に協力する日米の協定。1988年7月に発効した現協定は「包括事前同意」により30年間、1件ごとの同意不要で使用済み核燃料の再処理やウラン濃縮など核燃料サイクル事業を日本に認めている。協定は両国に異論がなければ自動延長となるが、その場合、2018年以降に日米いずれかが通告すれば半年後には終了となる。