時代の正体〈633〉基地汚染の惨状に目を 沖縄県知事選を問う(中)ジャーナリスト・ジョン・ミッチェルさん

時代の正体〈633〉基地汚染の惨状に目を 沖縄県知事選を問う(中)ジャーナリスト・ジョン・ミッチェルさん

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【時代の正体取材班】文・写真=田崎 基(神奈川新聞)

沖縄の基地問題を調査・研究してきた「新外交イニシアティブ」(ND)が沖縄県知事選(13日告示、30日投開票)に合わせ、「沖縄と米軍基地-県知事選で問われるべきは何か-」と題するシンポジウムを開催した。辺野古新基地問題を巡る今後の展開や解決策が見いだせない沖縄の現状、日米地位協定、米軍基地が地域にもたらす汚染などが語られた。マイクを握ったジャーナリストのジョン・ミッチェルさんは基地汚染のその隠蔽について語った。

私はジャーナリストとして、米国の情報公開法を使い米軍の実態を明らかにする活動をしている。米中央情報局(CIA)が2012年に作ったハンドブックを、今年の初めごろ手に入れることができた。

それは、沖縄にある米軍の存在について情報操作をするか、という方法を示した手引書だった。

そこには非常に重要な内容が書かれていた。米軍の存在によって「経済効果がある」「文化交流につながる」「災害時には救援してくれる」という点を強調すべきである、ということや、一方で言うべきでないこととして、「沖縄に存在する肥大化した軍の存在」を挙げていた。

沖縄に駐留する米軍が「抑止になる」ということも口にすべきでないと記載していた。

これは、「抑止になると言及すれば、沖縄ではなく日本の本土に米軍基地を配置すべきではないか」という疑問が沖縄の住民からあがってくることになるからだ、と解説していた。

そして、基地の環境問題についても口にするな、と指摘していた。

軍事基地によって沖縄の土地、海、住民に対して環境上の影響が出ていることを言うべきでない、と。

米国政府はこの環境問題について極めて慎重な態度を取っている。軍事活動や作戦によって、沖縄は異常に有害な影響を受けている。そのことを米政府は知っている。だから、これに対する情報をできる限り秘匿し続ける必要があると考えている。私はこれまでの7年間、ジャーナリストとしてこの秘密のふたを開けるということを仕事としてきた。

地位協定の不条理

「基地」は汚染されている。この事実を多くの米国人が知っている。米国は、国内の基地汚染について調査し、その結果を公表し、誰でも見られるようにしているからだ。

米国内のどこに基地があり、どこがどの程度汚染されているのか。約4万カ所が汚染されていて、その周辺地域にも影響が出ている。このことは米国内では誰でも知っている周知の事実となっている。

しかし日本では違う。米軍基地は日本国内に78カ所あり、このうち31カ所が沖縄にある。しかしそこでの環境被害については我々は何も知ることができない。

この問題の根源にあるのが「日米地位協定」だ。

日米地位協定には、日本政府の関係者が在日米軍基地内に立ち入って調査できるという条文がない。さらに、米軍は基地を返還するにあたり汚染除去する必要がない。
ドイツや韓国などでは米軍基地内で環境法令違反があった場合、米軍がその責任を負わなければならないが、日本ではそうなっていない。そして、こうした日米地位協定が改定されることもない。

日本では米軍基地による公害について明らかにする手法は三つしかない。まずは基地が返還された後にその土地を調査する方法だ。これまで埼玉県朝霞市、東京都立川市、沖縄県内の各地で、米国から返還された土地が大規模に汚染されていたことが判明してい
二つ目は、米軍人や米国人の内部告発者から話しを聞く。三つ目が、米国の情報公開法を使うという方法だ。

隠蔽の構図

那覇市の隣、浦添市にある米軍基地キャンプ・キンザーでは、70年代にベトナム戦争で使い切れなかった大量の化学物質が持ち込まれ貯蔵されていた。殺虫剤、除草剤、溶剤などで、これが40年たったいまも漏れ出し周辺地域に広がっている。

キャンプ・キンザーは返還が計画されているが、おそらく相当汚染されているだろう。その除染の費用は日本の納税者が負担することになる。

米軍の射爆場となっていた鳥島(沖縄県久米島町)では、90年代の半ばに米海兵隊のジェット戦闘機が劣化ウランで汚染した。日米双方が除染をしようと調査に入ったところ、劣化ウラン188キログラムが投棄されていたことが分かった。劣化ウランは人体にとってとても危険で先天性の奇形の原因となったり、発がん性があったりすることが明らかになっている。

このほかにも基地公害として燃料や下水、汚染水、PCB(ポリ塩化ビフェニール)といった有害物質の流出は数え切れないほど起き、そのほとんどが知られることなく隠蔽(いんぺい)されている。

米国の情報公開法を使って海兵隊のハンドブックも手に入れたが、それによると、米軍人は政治的に問題となるような事故について、日本政府に知らせてはならないという命令が与えられていると書かれている。

不都合な事実

これらの基地公害は、沖縄の海兵隊に限ったことではなく、厚木や横須賀、岩国といった米軍基地施設の中でもこうした問題が起きている。例えば、2011年6月には、厚木と三沢の米軍基地で放射性物質を含む数万トンの水が下水に流されていた。

これは東京電力福島第1原発事故の周辺で震災救援活動として行われた、いわゆるトモダチ作戦で発生した放射性物質を含む汚染水だった。この大量の水が下水に流されたが、その事実は当時、一切知らされることはなかった。

話を沖縄に戻す。

PFOS(ピーフォス)という物質の汚染問題がいま問題となっている。

米軍がとても適当なことをやっていることがよく分かる事例だ。

この化学物質は泡の消火剤に使われていて、肝臓や甲状腺に対して特に強い毒性があるとされている。胎児にも影響があり、発がん性もある。微量でも毒性が高いとされている。

この物質に対して住民からの反発があった韓国やベルギー、ドイツで基地周辺の水質調査を余儀なくされ、その結果100以上の地域で泡消火薬剤による水質汚染が明らかになった。

しかし、沖縄では住民をこの物質から守る措置は何もとられていない。

2013年には嘉手納基地でこの泡消化剤が流出する事故があった。

PFOSは沖縄の飲料水でも検出され、米環境保護庁が設定した基準を超える高い濃度となっていた。この水を70万人の住民のほか、米軍人やその家族、観光客も飲んでしまった。

普天間飛行場でも高濃度のPFOS汚染が発生している。近隣の噴水や湧き水からも検出され、周辺の100以上の世帯がこの水を畑にまいていた。

米国、韓国、ベルギー、ドイツでは飲料水への汚染が判明したと公表されているが、沖縄ではあらゆる手段でこうした事実が隠蔽されている。

これはおそらく沖縄の歴史の中でも最悪の環境汚染事故だろう。ところが日本では本土の新聞やテレビでは一切報じられていない。

これは過去の問題ではない。現在も続いている。

最も苦しんだ街として

名護市の辺野古で新基地建設が進められている。運用が始まれば基地による公害は深刻なものとなるだろう。名護市はこれまで、広島、長崎と合わせて米国の大量破壊兵器で最も苦しんでいる日本の街ではないだろうか。

1960年代初頭には、米軍が名護市内で生物兵器の実験を行っていた。これは、もみがだめになる効果があるかを確かめる実験だったという。ベトナム戦争のとき、名護市沿岸にあるキャンプ・シュワブには枯れ葉剤を入れた容器が何十個も置かれ、この枯れ葉剤は海に流れていったと復員兵士は証言している。

72年以前には、辺野古の弾薬庫に核弾頭が貯蔵されていたことが分かっている。日米両政府の密約によって、将来有事の際には核の再持ち込みができる場所として辺野古の名が挙げられている。

名護は軍事活動によってこれまでずっと被害を受けてきた。大浦湾を望む場所に新基地ができれば、この問題はさらに深刻になるだろう。

否定される人権

辺野古の海に航空機燃料や泡消火剤が流れ込むことになるかもしれない。航空機の墜落、船舶の難破するかもしれない。そうした懸念が絶えず付きまとう。

台風や地震の危険も常にある。辺野古新基地建設の計画地の地下には活断層がある疑いがある。

台風21号の被害では関西国際空港が孤立し、地震で北海道全土が停電した。自然災害に対して、インフラがいかに脆(もろ)いかということを私たちは目の当たりにしたばかりだ。

軍事基地には弾薬や爆発物が貯蔵され、将来、核兵器が持ち込まれる可能性もある。ひとたび自然災害の影響を受ければ、通常の施設は比較にならないほどはるかに重大な被害をもたらすはずだ。

沖縄では米軍基地やその軍事行動によって、守られるべきはずの住民が長年危害に晒(さら)されてきた。

これは政治を超越した、人権問題ではないだろうか。きれいな水を飲み、浴びる権利が誰にもある。きれいな空気を吸い、きれいな土地で農業をし、そこで生活する権利がある。

また、「透明性」というものは民主主義を支える欠かせない柱の一つだ。私たちにはつまり、知る権利がある。沖縄の人には、自分や子どもが健康被害を受けているのかどうかを知る権利がある。

まさにこうした基本的な権利が沖縄では否定されていることに目を向けなければならない。

ジョン・ミッチェル 
ジャーナリスト。沖縄タイムス特約通信員、明治学院大国際平和研究所研究員。2015年日本外国特派員協会「報道の自由推進賞 報道功労賞」受賞。近著に「追跡・日米地位協定と基地公害」(岩波書店)。